少女クリムの正体
敢えて一度街の外まで飛び、外壁の外側をぐるりと回り込み、改めて外壁を飛び越えて中に侵入、そこで俺は又シュルシュルと手の平サイズに縮小。
「…何だかお前、気持ちわりいな…。」
ドン引きしながらそう感想を漏らすミント。相変わらず失礼な! 後は目立たない様に宿へと戻る。ことそういう動きに関してはミントは心得たものだ。
「おかえり…、いつの間に出て行ったか気付かなかったね。また服は戻したのかい?」
宿屋の主人が少し怪訝そうだ。ここもそう長くは居られそうも無いかな。
部屋に戻ると当然クリムとネビルブが居た。
「何だお前、女なんか連れ込んで…って、ええええー⁈」
「え…な…ええ⁈」
同じ顔、同じ声で驚き合うミントとクリム。そしてそのまま2人でフリーズ。俺も改めて2人を一緒に見て呆れている。そして同じ様な表情で固まっているネビルブに近付いて質問する。
「なあ、これって魔法がらみの異常現象じゃないよな。ドッペルゲンガーとか…。」
「否定はし切れませんグワ、2人がそれぞれ別の立場を既に持っているというのが何とも…。しかも名前まで別でクエ。」
「となると…やはり元々別の人間、他人の空似なのか…。」
ここでやっと我に返ったミント。
「つまりあたいはこの女と間違われて拉致られたって事か。まあ…こりゃ無理もないぜ。」
やや遅れてクリムも我に返る。
「ボニーさんもこの方とわたしをお間違えだったんですね。無理も無いです、まるで鏡を見ている様…。」
この場の全員、なかなか衝撃から抜け出せずにいるが、そうばかりも言っていられない。
「ところでクリムさん、貴方はこの国の元首、ジン・レオン王の妹さんという事で間違い無いのかな?」
「クワ⁈ 」
「…やっぱりか…。」
更なる衝撃に襲われるネビルブと、察してはいたらしいミント。
「…はい、そうです。」
観念した様に認めるクリム嬢。
「つまり、俺たちは図らずもこのダイダンの国家元首に盛大に喧嘩を売ってしまった訳だ。もう、此処で平穏に暮らすのは諦めた方がいいだろう。」
俺は頭を抱えながらそんな事を口にする。
「何てこった…。そう言えば、あのオウムは何処へ行ったんだ?」
ハッとしてミントがそんな事を聞いて来る。…という事で、ここから全員で情報共有を図る事に。俺がクリムと会ったところから、ここで聞いたクリムの事情、そしてミントの救出まで、まあ、ほぼ俺の報告会である。
「なるほどな。まあ、ハーフ何とかなんて、大体どこでも碌な扱いはされねえんだ。あたいが居たみたいな底辺層だってそうなのに、上流階級じゃさぞ厄介者扱いだろうぜ。ジン・レオンに妹がいるなんてあたいでも聞いた事無かったってのも頷ける話だな。」
話を聞き終わってミントの最初の感想がそんな感じだった。ミント自身それなりに辛い経験が有ったのだろうか。
「まあ、国王の血を分けた妹がハーフ者だなんて、醜聞以外の何物でも有りませんクワらな。対外的には隠すでしょうな。」
本人を目の前に平気でそんな茶々を入れるネビルブ。クリムがすっごく哀しそうな顔になったじゃないかバカタレ!
情報を整理した結果、割とすぐに逃げるか身を隠すかしないといけないだろうという事になった。今の俺達は不法入国者の誘拐犯だ。とは言え何処へ?…。頭を抱える一同。おまけに、これは俺だけの問題だが、たぶんジン・レオンには俺の正体もバレている、となれば国際問題に発展するかも知れない案件ですら有るのだ。
「さすがに大国ダイダンを敵に回すのは得策では無いかな…。」
「結局一番丸く収まるのはそっちの…、クリムさん?が兄貴のところに戻るって事だろ?」
俺の提起した基本方針に対してミントがそうまとめる。
「そりゃあそうなんだが…。」
此処で決心した様にクリムが口を開く。
「いえ、それが一番だと思います。これ以上ご迷惑をお掛けする訳には…。」
だがそれに被せる様にミントが更に言い募る。
「そこでだ、今回の諸悪の根源であるその結婚話をぶち壊すってのはどうだい?」
…一瞬の沈黙、ぽんと手を打つ俺。「そりゃ面白いクエ。」と乗り気なネビルブ。自身の悲痛な覚悟がいきなりスコンとすっ飛ばされ、呆けているクリム。結局異を唱える者は誰もおらず、そのまま顔を突き合わせて悪巧みを始める一同であった…。