俺と元スパイの珍道中、その顛末
思えばこんな風に陸路で旅をするなんて事、案外無かったなあ…、等としみじみ思ったりする。ビリジオンの首都、ミリードを出てからもう3日が経過しているが、当座の目的地、ダイダンの首都、ミカロンは未だ見えない。
かなりのんびりした行程の様だが現実には何度も魔物に遭遇したり、山賊化した小鬼の群れに襲われたり、息つく暇も無い。そして俺がそいつらと戦っている間、物陰に隠れて何もしない旅の仲間、ミントにも微妙に腹が立つ。ネビルブでさえ敵の牽制くらいするのに。誰の為に陸路なんて使ってると思ってるんだっての。
この道行きは、俺とお供の魔法生物ネビルブの2人で空路の予定だったものが、この魔族と人間のハーフの少女、ミントに拝み倒されて道連れとなり、陸路を行かざるを得なくなったものだ。元敵のスパイだったミントは、やらかしが元でビリジオンからの逃走を余儀なくされたが、ただでさえ危険な国外への陸路を若い女性が一人旅など安全な訳は無く、放り出すのは死ねと言うのと同義だった。それで義理など無いが仕方無く付き合ってやってるって言うのにこの態度である、腹も立とうってもんだ。
とは言え代わりに何をして貰うかと考えても、こいつ結構役に立たない。小鬼とサシでなら何とかのレベルを戦力として期待する位なら自分で戦った方が早いし、食料や水さえ用意していないこいつの為に俺が水場を探したり木の実なんかを取ったり(それは俺もネビルブの知識に頼ったが)。夜だって睡眠の必要の無い上に夜目が効く俺が寝ずの番、あいつは朝までぐっすりだ。寝てる間にエッチな事してやろうかと本気で思ったが、ヘタレDTの俺には結局そんな度胸は無かったのであった。
ま、とにかく旅の間はお荷物以外の何物でも無いこのミント、街に着いたら少しは何か有るんだろうか。
「ところでお前さん、ダイダンには何か伝手でも有るのか?」
そう思って俺はそんな質問をミントに投げてみる。
「伝手? 特にねえよ。」
はい終了。そっちも期待出来ない…と。
「だったら何でダイダンに?」
「いや、あたいがダイダン出身なのは間違いねえんだ。小さい頃の事で何にも覚えてねえけどな。後はまあ、消去方かな、ビリジオンに残ってたら元の組織の仲間から粛清されちまうし、ザキラムにもグイース先輩とか組織の残党がいるはず、エボニアム国は無法地帯だって聞くしそもそも遠い。ダイダンしか無かったって訳さ。」
つまり本気で何の"当て"も無いって事か…。
「お前こそ、ダイダンに何かコネでも有るから行くんだろ?」
「いや、俺はダイダンは全く初めてだ。」
「…ち、何だよ、使えねえなぁ。」
「……………」
「てか、お前はペール先輩の召喚魔だったろ。何で一緒にいないんだ、お払い箱か?」
失礼千万なミントの言い草に更にイラッとしながら答える。
「その"召喚魔"ってのは方便だったんだ。実際のところは協力関係、まあ…友人さ。」
「ち、そんな所から騙されてたのかい。お前が姉の方にくっついて行けた訳だぜ。」
「ま、アタシがただのカラスの振りをしてたりクエな。」
突然、ここまで黙っていたネビルブが口を挟む。ぎょっとなるミント。
「カラス⁈ お、お、お、お前、しゃべれたんかい!」
「アタシはカラスじゃなくて魔法生物でクエ。当然人語も操るクエ。」
「…あたい確かお前の目の前で…、カラスとしか思って無かったから…。」
「ああ、色々やらかしてくれてたクエ。コイーズ姉さんの荷物を物色したりな。」
これを聞いていよいよ悔しそうにするミント。
「くっそおぉ〜っ! 何から何まではめられてるんじゃねえか、チキショウ! この借りは絶対返して貰うからなっ。」
いや、もう過払い金を請求出来るレベルで返してると思うがなあ…。
この後も2回程魔物の襲撃に遭い、これを俺一人で撃退。そうこうする内、ようやくその日の日暮れ前に、何とかダイダンの首都であるミカロンに辿り着いたので有った。