流行りに流された男
「めっちゃオモロいんすよ!」
「いや、アニメとか見ないから」
「主人公が転生してからの無双がマジで良くて!」
「だから、アニメなんて見ないって言ってるだろ」
「マジで、見た方が良いですって、先輩!」
後輩に言われたやつってなんて名前だっけ?
俺はいつもの様に、仕事終わりにパチンコ屋に吸い込まれていた。
「羽物も減ったな」
新台入れ替えで目に付くのは画面が付いたキャラクター物。
好きな羽物が無くなってく悲しさと、新台だから出るんだろうなーと言う思い。
若い奴が好きそうな、女の子が甲高い声で喋る台を40にもなるおっさんが座ってるのはビジュアルが悪いと思う。
思うのだが。
「無い」
最近は、いつも必ず打っていた台が無い。
7セグの付いた羽物の台、いつも座ってた場所に有ったのは店先で見た新台。
それも一島丸ごと新台。
「バリエーションコーナーにでも入ったかな?」
通路に出て店内を一周したけれど。
「無い!」
若干の苛立ちと哀しさを感じながら、諦めて喫煙所へ向かう。
「やっぱ、新台は設定入ってるって!」
「俺は万発ー」
「はぁ?遠隔だろ!、こっちはマイナスだぞ」
若い子達の会話をついつい聞いてしまう。
「やっぱ、演出が良いな」
「まじで、当たらなくても満足出来るし」
「推しの声が聞こえるだけで脳が溶けるし」
諦めて、帰るか。
喫煙所を出た所で箱を積んでた新台が空くのが見えた。
さっきの若い子達の会話が頭を過った。
「新台は設定入ってる、万発」
吸い込まれる様に台に向かっていく。
ちらっと、上を確認。
え?、即辞め?、まだ戻りが有るんじゃ?
そうして、俺は毛嫌いしていたアニメの台に座ってしまった訳だ。
おお、金保留!
うわ!、演出が凄いな、お、そこが動くのか!
まあ、なんだ、なんて言うかな。
「くそ、めっちゃ、気になる所で終わりやがって!、帰ったら見るぞ!」
結果は勝った、そしてハマった。
我ながら現金なものだと思う。
「明日、後輩にオススメ聞いてみようかな?」
俺の足取りは軽かった。
そして、打ってた台が例のアニメの台だったと知るのは翌日の話だった。
「おはよう、昨日、言ってたアニメ見てみようと思うんだけど、なんてやつ?」
「あれ?、先輩、アニメ嫌いじゃなかったでしたっけ?」
「いやー、昨日の帰りにパチ屋でなー」
そうして、めでたくアニメにドはまりした俺は、だんだんと現実にも影響が出てくる訳なんだが、その時の俺はそんな事は思いもしなかった訳だ。