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誘拐

 ルルーシア王国の辺境侯爵家であるフェルリテ辺境侯爵家

 辺境の田舎者だと馬鹿にするものもいるが、その実、政治においても、軍部においても発言力を持っており、下手すると筆頭侯爵家よりも支持を持っている。


 しかし、そんなフェルリテ家には、表舞台に出てこない隠された姫君がいた。



 ◇◇◇



 天井からポタポタと水が落ちる音だけが響いている中、私は目を覚ました。


 _ここは、どこ?


 目隠しをされているようで、視界は真っ暗で何も見えず、体を動かそうにも、手足は縛られており、小さい箱のようなものの中にいるようで、身じろぎ一つできやしない。


 _怖い。助けて。


 恐怖が頭を支配するの耐えられず、意識を失いそうになった時、足音が聞こえた。


「ルルラティア!」


 名前を呼ばれたと同時に、がたりと、箱が明けられる音がした。

 誰かに抱き上げられ、目隠しを取られると、視界に入ったのは、安心した顔をしたお父様だった。ひどく憔悴した様子のお父様は、私の名前を呼び続け、ここにいるのを確かめるように私を抱きしめる。


「おとうさま」

「もう大丈夫だよ。お家に帰ろうね」

「こわ、かった」


 お父様のぬくもりに安心したのか、緊張の糸が解けたのかわからないが、私は意識を落とした。






 _頭に暖かなぬくもりを感じる。だれ?


 頭の感覚に引っ張られて意識が浮上する。目を開けると花と竜が刺繍された天蓋が見えた。天蓋には見覚えがあり、家に帰ってきたということを認識する。


「ルルラティア、気分はどうだい?」


 私が起きたことにいち早く気付いたお父様は心配そうな顔で私の顔を覗き込む。


「大丈夫です」

「まだもう少し寝てたほうがいい。そばにいるから、おやすみ」


 優しくなでられて私はあらがうことなく夢の中に落ちた。






 夢の中ではお母様が私に膝枕をして、頭をなでてくれていた。現実では触れることができない母の温かみに、最近あった出来事も相まって、安心から涙がにじんだ。


 お母様は私が生まれて間もなく亡くなった。もともと体の弱かったお母様は、私の出産後、肥立ちが悪かったのだ。医者からも私を産むと高確率で死に至ると言われていたのに、反対を押し切って産んだらしい。


「怖い思いをしたわね。でも、もう大丈夫よ。お父様と、お兄様がルルラティアを守ってくれるわ。それに、あなたには竜神様も精霊様もついてるわ。」


 母は白髪に金色の瞳を持つ絶世の美女で、ルルーシア王国でも有名な精霊使いだった。

 母の持つ精霊との親和性を受け継ぐどころか、母の倍は親和性が高い私は、小さいころから精霊とともに生活をしていた。中でも、一番近くにいてくれるのは氷の高位精霊であるホワイトライオンのラスと、花の高位精霊である人型精霊のフェル。母曰く、二人とも私が生まれたときにはすでにそばにいたらしい。そのほかにも、私の周りには常に精霊が飛び回っているため、精霊が見える人からするととても賑やかなのだ。


 そして、竜神様とは、フェルリテ辺境伯領に住んでいる竜の長だ。フェルリテの血筋は、代々竜と絆を結んで発展してきた。そして、私も例に埋もれず竜と絆を結んだのだが、その相手の竜がまさかの長だった。

 通常、竜の渓谷に赴き、魅かれ合った竜と絆を結ぶが、私の場合、1歳の誕生日の日に長のほうから絆を結びに来たのだ。これには父も戸惑っていたが、私は知らず知らずのうちに絆を結び終えていた。


「もう、お外は怖いです」

「そうね、でも、人も悪い人ばかりじゃないということだけは覚えておいて。お父様とお兄様にいっぱい甘えていいんだからね。最悪、お家から出なければいいんだわ。きっと二人とも喜んでそばにいてくれるわよ。」


 その言葉で、私はできる限り外に出ないようにしようと心に決めた。外に出ても怖い思いをするだけなら、大好きな家族がいる家にずっといたい。幼い私は、なんの疑問も持たずにそう思っていた。





 _寝たか。

 穏やかな顔で眠るルルラティアの頭をなでて手元の書類に目を移す。


 ルルラティアが誘拐されたのは一週間前。王家主催のお茶会の最中だった。探し始めて4日が経ってようやく居場所がつかめた。ルルラティアがいたのは、フェルリテ領の二つ隣の領地にある使用されていない古城だった。王家も、王家主催のお茶会でこのようなことが起きてしまったので総力を挙げて捜索に当たっていたが、待てなかったため、領地に戻り、我が家の総力を捜索につぎ込んだ。


 古城に向かうと中には魔術師が何やら大掛かりな魔方陣を組み、何かをしていた。魔方陣の中心には、小さな子供が入りそうな箱が置いてあり、そこにルルラティアが入れられていると、直感で感じ、即座に魔術師を一人だけ残し他は燃やし殺した。そして、箱を開け見つけた娘は、両手足を縛られ目隠しをされており、やつれ果てていた。後ろでは、逃げようとした魔術師を我が家の兵が取り押さえていたが、気にしていられない。ルルラティアが腕の中にいることを確認するように抱きしめれば、ルルラティアが私に向かって手を伸ばした。


「おとうさま」

「もう大丈夫だよ。お家に帰ろうね」

「こわ、かった」


 そう言って意識を失ったルルラティアを抱えなおし、後ろを振り返る。


「誰の命令だ?」

「誰が答えるかよ。てか、なんでフェルリテ辺境伯様なんかが出てくるんだよ」

「お前らが私の娘を攫ったのだ。私が出てきて何の問題がある」


 そういうと顔色を変える魔術師。


「え、嘘だろ、そいつはフェルリテの子供だと…?だが、そんな情報は、一切なかった。」

「お前らの目的は何だ。」

「王女じゃないなら用なんかねえよ。」

「詳しいことは領地で聞いてやる。連れてけ」


 _今の話を信じるのなら、王女と間違えて巻き込まれたことになる。王家に苦情でも入れるか。


 領地に戻り魔術師に尋問をすると簡単にしゃべった。

 今回の誘拐は、第一王子派からの依頼で、王女を誘拐し、魔力を吸い取ってから殺す予定だったらしい。なぜ娘が巻き込まれたのか。それは簡単だった。王女も多少なりとも精霊との親和性があり、よく庭園で下位精霊と戯れているとの情報があったらしい。ルルラティアの親和性は公にしていないため、お茶会に飽き、王城の庭園にいた下位精霊と戯れていたところ、間違えられたらしい。王女の見た目の特徴が伝えられていなかったのと、精霊と遊ぶことができる親和性を持っている上等なドレスを着た女子は王女しかいないと聞かされていたから起きたことだった。正直、王女がどうなろうが知ったことではないが、うちの娘が巻き込まれたのなら話は別だ。警備を怠っていた王家に盛大に慰謝料を請求する。


「お外…こわ、い」


 ルルラティアが起きてしまったのかと思ったが、どうやら寝言のようだ。だが、寝言は本心。


「怖かったな。もう大丈夫だ。家にいれば怖いことはないからな。」


 頭を撫でながらそう言えばふにゃっと笑って安心したような顔になる。


 都合がいいことに、この屋敷はとてつもなく広く、ロの字構築になっている。中庭は、そこら辺の屋敷の庭より広いため、わざわざ表の庭に出ずとも、散歩をすることは容易で、温室も一つくらいなら立てることができる。ルルラティアの希望通り、外に出ずに健康的に生活することは全く難しくない。


 _少しルルラティアの身の回りを整えるか。


「ゆっくりお休み、私のかわいいルルラティア。」





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