第3話 スキルの放出
淡々としたナビのアルファが、画面上のメッセージを指し示し、続けて告げる。
「では次に、職業スキルについてです。画面上に映し出されているメッセージという項目を選択してください。そちらに入っている宝箱から出現したものが貴方のスキルとなります。スキルは、主に三段階に段階分けされています。上から A>B>Cの順にレア度が異なり、上位のレア度ほど強力なスキルを得られます」
この瞬間、照は心のどこかに小さな期待を抱いた。自分が選ぶスキルが他職業のものであっても、それが偶然にも強力だったりする可能性だってある。アルファの言葉に耳を傾けながら、「なるほど」と頷いた。
迷わず、画面のメッセージ欄に表示されている宝箱をタッチした。タッチした瞬間、CG画面には微弱な光が放たれ、そこに「レア度 Cランク」と書かれた文字が浮かび上がった。
「……終わった。本格的に俺のゲーム人生は終わった……」
健一はその『C』の横文字を目にして、ようやく膝から崩れ落ちた。視線の先にはCGの緑色の草が広がり、周囲の景色はやがて霞んでいく。
「どうですか、先輩」
その横で真理が楽しそうに声をかける。彼女の無邪気な問いかけに、一瞬の間を置いてから答えた。
「なにがどうなんだよ」
心の底からの愚痴を呟くように返事をする。だが、心の中でくすぶっていた感情は確かに真理に関心を持たせたようだ。
その場から急いで立ち上がり、メニュー画面を覗き込むと、目に飛び込んできたのは、まばゆい光を放つ文字。
「レア度 Aランク……!」
目の前に現れたその表示を見て、驚愕を隠せなかった。
「やっぱ日頃の行い?」
「……日頃の行いとか、なんだよ。男を取っ替え引っ替えしてくせに」
ちょっと首をかしげる真理に少し不満げに言い返す。その言葉に健一はなんとも言えない虚しさを覚えながらも、心の中の嫉妬は否応なく膨らんでいった。
「……なんですか」
「……なんでもない。運良すぎだろ!?Aランクって、はぁ?」
声には、焦りと困惑が混じっていた。強力なスキルを手に入れるのは、ゲームの運命を大きく変えるものであったからだ。
「こればかりは引きですからね」
真理の言葉を聞き、照は心の底から「この世は不公平だ」と痛感した。
「そこまで……別に大したことないですよ、Cランクといってもノーマルですし、大概はCランクで輩出されますよ」
そう真理が続ける。嫌味のつもりではないのだろうが、その言葉は健一の心をさらに刺激する。
「……嫌味?」
「慰めです」
真理は微笑んだ。それは本当に優しさから来る慰めの表情なのだが、健一にはそうは見えなかった。
「アカウント交換しようか」
冗談めかして言ってみる。しかし、真理は一笑に付した。
「いやですよ、何をいっているんですか」
「だって……」
健一はもったいぶるように言葉を濁したが、その時、ふとさりげなく真理のデバイスに触れてしまった。その瞬間、目の前にデカデカと真っ赤な表示マークが現れる。
『警告です。 他プレイヤーに触れる行為は違反です』
その瞬間、アルファが割って入った。
「違反ですって……」
何をしているのだろう、自分は。顔が引きつるのを感じた。もちろん、警告を見てすぐに手を退いたのだが、周囲の空気が急に重く感じられた。
「そっか……」心の中では、このような小さなミスがどうしようもないダメージとなるのだと、またしても不公平感に苛まれる。
「……気を取り直して、スキルを確認してみませんか?」
健一たちはその後、互いに落ち着きを取り戻し、自分のスキルを確かめている。もうじたばたしても何も変わらない、諦めて続けるしかないからだ。
「使い所が難しいスキルだけど、【等価交換】だって」
「どういうスキルですか?」
スキル説明画面を見ると、【等価交換】──一時的に無意識下の判断力・行動力を上昇させ、状況の変化に持っている運命力に作用し、自らのターゲットを犠牲にしながらフィールド内の装備を1つ即座に切り替えることができる、と書かれていた。
「えー、負けが近づく代わりに何か1つ装備の一部が切り替わる能力らしいですね」
「使い所が難しすぎませんか?ちなみに真理さんのはどう?」
「私のは【振り直し】だそうです。標的に着弾した箇所がランダムで変わるみたいです」
【振り直し】──着弾箇所を変更できるが、指定はできず、位置はランダムという厳しい仕様だった。
「ま……まぁ!スキルの良し悪しは人それぞれですから」
「あまりにも不公平な采配じゃないですかね?」
「そうですか?割とありがちなゲームバランスだと思いますけど」
「もう一度やり直すチャンスを求めてます!」
「残念ながら、アカウントを作り直す方法はありません」