第6話 彼女
◆──それから数分の間、チュートリアルを通して武器の使い心地を試し続けていた。照準を合わせるたび、鮮明なイメージが脳裏に浮かび、的を狙い撃ちする。そのはずだったが、奇しくも弾はかすりもせず、空しくターゲットの周りで恥じらいに満ちた音を立てていた。
「意外と難しいな……」
「コツを見せましょうか、先輩」
真理が後ろから声をかけてきた。彼女の言葉に、不安が少しばかり胸の内に生じる。真理が実際に狙いを定め、対物戦車用ライフルを構える光景を見つつ、的を一発で射抜いた。
「照準を合わせてますから、引くだけで的に当たりますよ」
重さや構造、発射される瞬間のダイナミックさ。しかし、真理が使うそのライフルは狙撃銃よりも扱いづらいもので、その操作感は一見して、自分には無理そうだと感じさせた。実際に打ってみせると、的を通り過ぎていく。
「へったくそ!」
「うるさい、今に見てろ!」
思わず感情が溢れ出てしまう。彼女は口元からは挑戦的な笑みを浮かべた。真理の完璧な動きを見ながらも、自分も同じものを使ってみるが、実際に持つと、身動きが取れないような感覚に襲われたのだ。
「でも本当に先輩、楽しそうですね。よかったです、誘ったの間違いだったのかなと内心バクバクでした」
真理が軽やかに言う。
「そうか、楽しそうに見える?後輩にカッコ悪いところばっか見られてるからか」
少し照れくさい思いを抱えながら答える。
「へー、そういえば妹さんにやいのやいの言われてたの見ましたよ?私にも妹がいるので」
「いつ?!」
真理の言葉に驚き、健一の表情はさらに固くなり、思わず声を大にしてしまう。
「このゲームを買うために列に並んでた時です」
「あのとき見られていたのか……」
「目線があったのに気づいてなかったのですか?」
真理がニヤリとしながら尋ねる。もしかして、前列のカップルか、たぶん。
「いや、まぁ男の人と一緒にいるな程度だったからさ……」
言葉を濁しながら、少し恥ずかしさを感じる。
「男の人ねぇ、ずっと気にしてますよね」
真理が含み笑いを浮かべた。
「……まぁ」
「私が男の人を連れ込んでいるという噂、やっぱり知ってましたかね」
「……少しは聞いたかも」
思わず他人事のように答えるが、心はざわざわと落ち着かない。
「先輩の予想通り、噂通りですよ」
「そ、そうなんだ」
真理は明るく続けるそば、健一は少し動揺しながら返した。
「私にも色々とあるんですよ。男と寝るのも刺激欲しさに一時期荒れていたことがありまして、それに尾ひれがついた感じでして」
真理の言葉には、少し重みと秘密めいた響きがあった。「へ、へー」と、思わず間延びした返事を返す。
「今日はこのくらいにしませんか?次は自分のデバイスを買っておいてくださいよ」
その言葉に真理はさらりと言った。
「それと番号だけ交換しときませんか?」
「次会ったときはもっと上手くなってるぞ」
そう取り繕い少し威勢を取り戻して言い返した。「期待してます」と、真理の表情には確かな信頼が宿り、少しほっとした。