第5話 その2 チュートリアル
健一は緊張感を抱きながら、「完了」と書かれた二文字をタップすると、アルファが話し始めた。彼女の声は心強く、同時に少しはにかみを交えたものだった。
『的の中には、触れるだけでHPが削り取られていく個体や、自己防衛の特異性を持つものも存在します。相手が動かない的だからといって、甘く見てはいけませんよ。それでは次に、付属のデバイスを取り出し、起動してください』
真理は彼女の指示に従い、自身の鞄から細長いデバイスを素早く取り出した。健一も手渡され、彼女の行動を見守りながら、自分の手のひらにあるデバイスのボタンを押し、起動操作を行った。
『起動しましたら、メニューにて武器欄から『拳銃』を選択し、装備してください』
アルファは続けて指示した。
緊張した面持ちで、健一はメニュー画面を開き、装備の項目を選択した。目の前に現れた武器の特性が、ひとつひとつ丁寧に表示されていく。『ATK~』と示されるそれは、職業の補正後の攻撃力を表していた。例えば、一番攻撃力に重きを置く「重撃士」だとすると、その物理攻撃力は拳銃の素の数値100に加算され、110に上昇することになる。
候補の中から拳銃を選択すると、触れているデバイスが、一瞬の内に光の粒子に包まれ、鮮やかな拳銃へと変わった。その変化を目の当たりにした健一は思わず息を呑む。自分が持つ道具が、ただのデバイスから実際の武器に変わる瞬間の不思議さに、心躍らせた。
アルファはその様子に満足そうに頷き、再び口を開いた。
『では、次に【黒毒塊】を攻撃してみましょう』
先ほどの【黒毒塊】に加え、今度は別に二体の【黒毒塊】が出現した。健一と真理は、すぐさま拳銃を構えてそれに向かう。二人の視線が揃った瞬間、余すことのない緊張感が漂った。
攻撃が始まると、黒毒塊はその名の通り、グロテスクな液体を周囲に撒き散らし、健一の顔にも飛沫が飛んできた。その液体は刺激臭を放ち、健一は思わず顔をしかめる。顔に付着した煙が立ち上がり、地面に散らばった残骸からもなにやら気配を感じる。
『的は倒されると、スキルポイントをドロップし、消滅します。触れることで、制限のかかったPTを回復することができるのです。また、破壊された自陣の的は少しだけですが自動的に取得されます』
アルファの説明は明確で、彼女の声には自信が満ちていた。
『例えばこのように』
アルファが【黒毒塊】に攻撃を加え、その的が消えた頃には、その場に青い光の粒子が舞っていた。まるで空に向かって飛び立とうとするかのように、光は散らばり、その一部がアルファに取り込まれていく。
『このように、自分で自陣の的を破壊することも可能で、同時にPT回復もできるのです。私からの説明は以上になります。チュートリアルが終わるまで、【黒毒塊】はその場に残り続けるので、是非練習してくださいね。そして、チュートリアルを終える際にはメニューを開き、終了の項目を押してください。それでは、プレイヤーの武運をお祈りします』
アルファは優雅に頭を下げ、次の瞬間、光の粒子と化して、その場から消え去った。