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ヘイリー、復讐する


「復讐だ」


だから何を?


「村人にショコラを食わせるぞ」


なぜそうなる?


結局泊まっていったハクジは朝一番にそう言った。


「いえ、馬車の時間がありますので」


「気にするでない、俺が連れ帰ってやる」


「はあ」


「そもそも食べないと思いますよ…」


私村では、炎の悪魔憑きって言われてますから。


そういうとまたバサッとハクジの髪が逆立つ。

どうなってんだその髪。


「ええいやかましい、

 いいからお前はさっさと作れ。

 俺は村人を集める」


「ええ…」


そう言うと本当に家を出ていってしまった。


怒らせると後が面倒なので、

ヘイリーはとりあえずショコラを作った。

余ったら持って帰ろう。


そのうちハクジが帰ってきてショコラの入ったバットを奪い、


「来い」


とヘイリーの手を引いた。



村の集会所にはわらわらと村人が集まっていた。

ハクジとヘイリーが到着すると、


「なんだ、王都の貴重な菓子を持ってきたって、お前か」

「魔法使い様のお恵みって訳か」


と村長たちが詰め寄ってくる。


「…ほら、ハクジ様。

 私は許されていはいないんです」


「貴様ら」


ハクジがずいと前に出る。


「ずいぶんいい家に住んでいたな。

 補助金は旨かったか」

「それとコレとは話は別だ」

「別な訳がない。

 いいか、ヘイリーはお前らがサンドバッグにしていい相手じゃない」


コレを見ろ、とショコラをずずいとやる。


「美しいだろう。

 彼女の火魔法の成せる技だ。

 貴様ら、新聞を読むものはいるか」


ちらほら手が挙がる。


「第二王子が最近何をしたか知っているか」

「え、また喧嘩したのかい」


奥のおばちゃんから声が飛ぶ。


「ああ、不敬にもあの猿は、

 魔族の国に殴り込みに来た」


ひっ…とちいさな悲鳴がする。


「もちろん返り討ちにしてやったがな、

 あの猿大暴れして行きやがって、

 こちらの損害もなかなかだ。


 それで我が魔王は決めた訳だ。

 人間側がうまく落とし前をつけられなかった場合、

 国を残らず焼土にするとな。


 もちろん畑だけじゃない。

 人も家畜も何もかも、全てだ」



「あ、あんた魔族か!!!」


「ああ、高位魔人だ」


集会所の空気は一気に緊迫する。

高位魔人と呼ばれる者が国ひとつ消し炭にするくらい、

造作もないことだと皆知っている。


「国を焼くか、許すか。

 その決定権は俺にある」


ニヤリ、と笑った口元に尖った犬歯、いや牙が覗いた。

あんなの無かったはずなのに。



「なかなか城の者共が色良い案を持ってこないせいで、

 もうさっさと焼いて帰っちまおうかと思ったんだが」


ちらりとヘイリーのほうを見る。


「待ってやることにした。

 ヘイリーのショコラが素晴らしく美味かったからな」


いいか、お前らはヘイリーのショコラに救われた。

言葉通り救国のショコラだ。



「ところで俺は怒っている」


ハクジは続けた。


「ヘイリーとその家族に対する仕打ちについてだ。

 彼女が優しくて良かったな。

 俺ならこうする」


ゴウ、と外から音がし、慌てて外を見ると、

ひときわ立派な村長の家の直上に巨大な火の玉が浮かんでいる。


「さあ、ヘイリーに詫びるか、

 家を焼かれるか選べ」


「あ、あんたには分からんだろう!

 儂らも飢えて死ぬところだったんだ!」


村長は喚く。


「それでもその後の結果を考慮すれば、

 明らかにやりすぎだ。

 しかも貴様ら、一度もヘイリーに詫びてないだろう。

 放火の疑いをかけたことも、その後食料を回さず殺しかけたことも」


そうだろう?


ハクジが見渡すと、気まずい顔をしている者が何人もいる。


「言っておくがな、ヘイリーは火魔法の達人だ。

 あの程度の火球は当然作れる。

 そうだな」


「う、うん、一応…」


「何を偉そうに、儂らの温情で村に家族を住まわせてやってるんだぞ!」


「ではこうしよう」


ハクジは言い切る。


「ヘイリーの家族は俺が引き受ける。

 もっといい土地で、農業でも何でもやらせてやる。

 王城に言いつけて保護させてもいい。

 

 その代わり、村への援助は全てストップだ。

 わざわざ寄ってる商隊の手配も、優先的に村の野菜を買い取る契約も、

 ナイーダ伯爵から未だに村長に送られている支援金もだ」



集会所は一度にざわつく。

そんな話は村の者たちも初耳だからだ。


「困るんだろう、彼らがいなくなると。

 いつまでもしつこく揺り起こし、

 さも自分たちが彼らを生かしてやっているように振る舞い、

 罪悪感で縛り付けているだけだろう」


お前、魔族向いてるよ。


ハクジは村長に向かって吐き捨てた。


「貴様らがやっていることはな、

 心優しい獅子の横っ面をしつこく鼠が叩くようなものだ。


 ヘイリーがその気を出せば、

 即座に消し炭にできる。

 それを忘れるな」


さあ食え、

と最悪な雰囲気の中でショコラは振る舞われた。


世界の終わりのような顔をして口にした村人達は、

普通にショコラが美味くて複雑そうだった。




ーーーーーーー


「ここでの暮らしもね、今となっては悪くはないんだよ」


ハクジの演説の後ヘイリーの家にたどり着くと、こっそり集会場にいたという父が呟いた。


「ヘイリーの心を考えたら、あの事件の後すぐにでも村を出るべきだった。

 そうできなかったのは、私たちがいないと援助が切れ、本当に村が立ち行かなくなると思ったからだ」


結果としてヘイリーを長く苦しめてしまった。


すまない、と父は大きく頭を下げた。



「ああいう小狡い老人連中もいるが、

 皆が皆そうではない。

 ヨークさんとこもそうだし、

 ほら、」



ふと見ると、兄が若い女性を連れている。


「ヘイリー、俺今度結婚するんだ。

 村のパン屋の子だよ、覚えてる?」



ほら、こうやって、

私達はちゃんと生きていける。


ヘイリー、どうかもう苦しまないでおくれ。


どうか、お前が作りたいように、美味しいお菓子を作って、良かったら食べさせておくれ。




ヘイリーはまた泣くのを堪えきれなかったが、

今度は胸を張って、


「うん!思いっきり贅沢なの作るね!

 待っててね!」


と言えたのだった。

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