序開
思いがけず、ゲルダは銀杏を入手した。単に焼いてもいいが、流石に三食ずっとキノコや木の実だと寂しい。
「何でもありね。とは言え、これから冬だし。キノコ以外の食べ物を買うのには……キノコを売って、かしら? 見たことがないから、すぐには売れないかもしれないけど……それとも、すぐに売れそうな髪の毛とか?」
「……これを売るのはどうだ?」
そう言って、どこからかクロムが取り出したのはいくつかの装飾品だった。前世の、そして今生の知識でなかなかの高級品だと見て取れる。
「え、ネックレス? ブレスレット? クロム、それどうしたの!?」
「ゲルダの屋敷からくすねてきた。ゲルダの母親の形見だが、あの後妻に奪われていたから知らなかったよな。あのババァもゲルダから奪ったら満足したのか、装飾品置き場の隅にしまいっ放しだったし……それとも、形見を売るのは抵抗があるか?」
「……ううん。クロム、ありがとう。そもそも、こういうものがあったことを知らなかったし……生きる為に、ありがたく使わせて貰うわ」
こうしてゲルダはクロムの申し出を受けて、母の形見を売って貰い、そのお金で買い物を頼んだ。この森は人里から離れているが、クロムは一瞬で移動出来るそうだし、抱えきれないくらい買っても『収納』が出来るので問題ないらしい。
気を使ったクロムが一緒に来るかと聞いてくれたが、ゲルダは遠慮した。「目障りだから引きこもれ」と昨日、言われたばかりなので今日、すぐに出かけるのには抵抗がある。そう言って、クロムに買い物メモを持たせて買い出しをお願いした。
……そして、二時間ほど経った頃。
まだ明るいうちに、クロムは戻ってきた。そして取り出した紙袋を、次々と小屋のテーブルや床に並べていった。
「便利ねぇ」
「俺はゲルダの役に立てたか?」
「もちろんよ! むしろ、私こそ役に立たなくてごめんなさい」
「ゲルダはいるだけで役に立っている」
「そ、そう?」
キッパリ言われたのに戸惑いつつも、ゲルダは買ってきて貰った鍬で小屋の近くを耕して畑を作ることにした。これから冬になるが、冬が旬の野菜もあるのだ。
……もっとも耕すのも、種を植えるのもクロムがやってくれたのだが。
「あの、クロム? 何もしないと、太っちゃうから……」
「問題ない。むしろゲルダは、もっと食べてふくふくにならないと」
話を聞いて貰えず困ったが、悪意はないのが解るのと――生まれ変わって、母親以外に初めて甘やかされているので、ゲルダは『今回は』逆らわなかった。その代わり、こっそりと心に誓った。
(でも……若くなって、思う存分動けるから。徐々に、行動しよう)




