発覚
さて、ぐっすり眠って次の日のことである。
昨日は睡魔に負けてそのまま眠ったが、今日はいつまでもドレス姿なのも何なので、ゲルダは持ってきたメイド服に着替えた。もっとも前世の日本でお馴染みなものではなく、ロング丈のクラシックタイプなのでエプロンをしなければワンピースであり、ドレスより動きやすい。あと、パジャマ代わりの服もあるので今夜はそれを着ようと思う。
「……昨日の水みたいに、菌の力で綺麗になったりするのかな?」
何気なくそう思った途端、皺になった白いドレスが光に包まれ、綺麗になる。驚きつつも良かった、と思ってゲルダはクロムと外に出た。
木はあるので、醤油以外の木の実などがないかゲルダはクロムと一緒に探すことにしたのだ。そしてゲルダは、地面にいくつも落ちている銀杏を見つけて目を輝かせた。
一方、ゲルダを抱いて運んでいるクロムはつ、と眉を顰めて銀杏を見下ろして言う。
「……何か、臭い?」
「このままだとね。でもキチンと処理をすれば、美味しく食べられるのよ?」
日本では銀杏を処理するのも食べるのも当たり前だったが、中世ヨーロッパのようなこの異世界ではそもそも食べないのかもしれない。ゲルダは生まれ育った屋敷から出たことがなかったが、思えばこの異世界に生まれてから一度も食べたことがなかった。
臭いし、素手で触るとかぶれるので小屋にあった手袋をして銀杏を拾った。そして、拾った銀杏を木のバケツに入れた。
「少し日にちはかかるけど、これを土に入れるか水に入れると実が柔らかくなるから、種を取り出して食べるの……それにしても」
朝の日の光の下。気づけば森には、ネズミや狐の死骸が転がっていた。
思えば『菌』がないから、そもそも死骸が腐らないのだ。前世の感覚だと当たり前なので違和感がなかったが、この世界では火葬が一般的だ。それは、そうしないと腐らない死体が埋めてもそのままになるからだろう。しかし、野生の動物は当然そのままなのでこうして腐らず、転がったままになる。
「あと、倒木も……そうか、死体と同じ。『菌』がないから、倒れても完全に枯れないのね」
確か前世のテレビ番組で、木の固い外皮は『菌』がないと分解されず、中や根が朽ちて倒れてもそのまま残ってしまうとやっていた。そしてそんな木の死骸は、やがて石炭になるのだと。エネルギー的には良いかもしれないが、菌類が現れなければ人類も現れなかっただろう。
「ああ。だから、ゲルダが望めば動物や木の死骸も腐らせることが出来る」
「そうなのね……じゃあ、森を回ってギフトを使えば」
「? ゲルダがその気になれば、森中にギフトを使うことが可能だぞ?」
「そうなの!?」
ギフト、恐るべし。
そして言われるままに地面に両手を置き、死骸が腐るように祈ると――昨日の池同様、地面が光った。しかも、昨日よりも広範囲で。
結果、倒木や獣の死骸が綺麗に分解されて消えただけではなく、拾った銀杏の実も一瞬で消え失せ、匂いもなくなった状態になったのはご愛敬である。




