光明
話は、ゲルダが森に置いていかれた日の夜に遡る。
クロムは、有能だった。獣を捕らえる為の罠を涼しい顔で外し、綺麗にした水で洗って竈に乗せられる金網を用意してくれた。
更に竈にくべる薪と、醤油と味噌の入った実も拾ってきてくれた。ありがたい限りである。
ちなみに何故、ゲルダをお姫様抱っこした状態で水を汲んで運べたかと言うと――クロムは、空間に物を収納出来る魔法が使えるそうだ。だから、どこからか取り出した木のバケツや桶に川の水を汲み、それを再び収納してゲルダを抱えたのである。
「ありがとう。これから、キノコを焼くけど……あなたは、その、食べられる?」
「ああ、問題ない」
同じ菌類なので、共食いにならないか。拒否感はないだろうかと、思ったが――クロムに、全く気にした様子はない。むしろ「ゲルダの手料理」とすごく嬉しそうだ。
問題がないのなら、何よりだ。現世の母親が亡くなって以来、食事は一人きりだったし落ち着いても食べられなかったので、久しぶりに誰かと一緒にゆっくり食べられるのは嬉しい。
「焼くだけなんだけどね」
そう言いながら竈に火をつけ、網を乗せた。そして十分熱したところで、ギフトで出したエリンギやしめじ、あと松茸を並べた。
両面に焼き色がつき、皿に取る直前に取り出した醤油を垂らすと、ふわりと良い香りがした。
たまらずくう、とゲルダのお腹が鳴る。恥ずかしいが、今まではいくらお腹が減っても仕事が終わらなければ、あるいは仕事が終わっても与えられなければ食べられなかったので、こうして好きに食べられるのも久しぶりなのだ。
そして焼けたキノコを皿に並べ、まずはエリンギを口に運び――口いっぱいに広がる香ばしさと美味しさに、ゲルダはたまらず目を輝かせた。
「うん! 美味しいっ」
「焼けたぞ。これも食え」
「あ、ありがと……って、クロムもちゃんと食べてね?」
「ゲルダもだぞ」
「うん……松茸、最高」
そんなやりとりを交わしながら、気づけばゲルダはキノコでお腹いっぱいになっていた。記憶を取り戻すまでは絶望しかなかったが、今は明日以降頑張ろうと前向きになることが出来た。
とは言え、今度は満腹になったのと今までの疲れが一気に出て眠くなった。小屋にはベッドが一つだけだったので、ゲルダは迷わずクロムと一緒に寝ることにした。
この世界では十五歳は成人なのだが前世の感覚と、栄養失調で実年齢よりゲルダは小さかったこと。更に、ゲルダはクロムの腕の中にすっぽりと納まったが抵抗感はなく――逆に、兄妹みたいだと身も心もほっこりしながら、久々に熟睡したのだった。




