甘美
この国の第三王子であるレニエは、己の加護を最大限に利用し、商人達を支援したり他国との交渉を優位にしたりしている。
その結果、彼は商人達や他国の外交官などから、珍しい食材を貰うそうだ。加護を持つゲルダが生まれて少しずつ改善しているとは言え、菌が消失していた世界では金や宝石より価値がある。そしてレニエは、そうした食材の一部をゲルダに無償で分けてくれた。
もっともお金は取らないが、レニエにも損はない。相手方も、レニエが困らないようレシピも添えるのだがこの異世界の料理人より、前世で食に恵まれて自分でも色々と作っていたゲルダの方が美味しく作れるし、何なら新しいレシピも提供するからである──そう、ちょうど今回のように。
「まぁ……小豆ですか!」
「ああ。レシピでは他の豆類と共に、サラダやスープにするとなっていた」
「……あぁ。キャヌと寒天がなかったですからね」
「砂糖、って……」
「コイツから貰って、作り方を教えたアレか? 豆を甘くするのか?」
戸惑うレニエとクロムに、ゲルダは笑って頷いた。
そう、寒天は海藻から取れるが海藻自体が食用ではなく、凝固剤としての利用だったので比較的早く手に入ったが、砂糖はしばらく入手出来なかった。菌の代わりにかつての転生者が願った『味噌の実』と『醤油の汁』はある。更に、その『醤油の汁』や海水を焼いてろ過し、その水分を乾燥させることで塩を取り出すことも出来たので、最低限の調味料は存在していた。
けれどかつての砂糖の原料である甜菜も、この世界では年々生産数が落ちており、結果として砂糖も希少品になったのである。
そんな中、南国より原料として譲り受けてきたのが、キャヌ(前世のサトウキビ)だった。南国では茎をぶつ切りにし、スパイスや出汁としてスープや煮込み料理に使っていたらしいが。
「この植物からも、砂糖が出来ますよ」
ゲルダはそう言って、作るのに時間がかかるので翌日、またクロムに頼んでレニエに森に来て貰うことにした。そして皮を剥いだキャヌを細かく刻むと布で絞った汁を煮詰め、濃縮した汁を冷やし固めて砕き──完成した黒糖を、レニエとクロムに披露した。
「汁をろ過して作ると、もっと白い砂糖になります。あと、私の加護が必要なので、量産は難しいですが……搾り汁から、お酒が出来ますね」
「甘い……本当に、砂糖だ」
「ゲルダは、本当にすごいな」
褒め言葉の後、レニエは南国にキャヌでの砂糖の作り方を教えて砂糖の流通量を増やした。尚、キャヌの汁を発酵して作った酒に、レニエは目を輝かせて美味しそうに飲んでいた。ワインもだが、商品としてだけではなく、彼は酒を飲むのが好きらしい。
話を戻すが、小豆と寒天と砂糖とくれば羊羹である。
ゲルダはぜんざいも好きだが、やはりここは餅を入れたい。しかしもち米は勿論、米も見つかっていないので今後の楽しみにしようと思う。
そんな訳で、ゲルダは羊羹を作ろうとしたが──寒天を水につけて戻すのに六時間かかり、更にこし餡を作るのと、完成後に一晩常温で保存した方が美味しいので、レニエには再び翌日以降の来訪を依頼したのだった。
※
翌日、来ることになったレニエを見送り、ゲルダは早速羊羹を作り出した。
鍋に水と、水から戻した寒天を入れて沸騰させて煮溶かし、砂糖を入れて再び沸騰させる。
そして砂糖が溶けた後、布で濾して三度火にかけ、沸騰したところで作っておいたこし餡を入れて焦げないように混ぜながら練り、掬い上げると二、三ミリの厚みで流れるくらいの濃度になったところで、鍋を火から外した。それから器に入れ、常温において完全に固めた。
「これは……甘さの暴力?」
「だが、くどくない。むっちりしてて美味い」
「ふふ。大人数は無理ですが、来賓用のお菓子などにいかがでしょう?」
「そうだな……ただ、これは白砂糖がいいのか? 黒砂糖ではまずいのか?」
「そうですね。黒砂糖の場合、コクや香ばしさがありますが……くどく感じる方もいるので、好みの問題ですね」
そう、砂糖の違いは結構、シビアなのだ。
余談だがゲルダは前世で、孫の為に作っていた羊羹を近所の住人から何度もねだられ、グラニュー糖を使った羊羹を渡したことがある。見た目は今までの羊羹と変わらないし、人によっては好きかもしれないが、その後、パタリとねだられなくなったので口に合わなかったのだろう。
(レニエ様はともかく、クロムに怖がられたら困るから言えないけど)
そう心の中だけで呟いてゲルダは羊羹と、今後、もち米が見つかった時の為にぜんざいのレシピをレニエに手渡したのだった。




