多幸
ゲルダへの食材を降ろし、空になった馬車にジェロム達を乗せてレニエ達は森を後にした。
ジェロム達が乗ってきた馬車は、御者に命じてサブル伯爵家に戻している。とは言え、今の伯爵家にはレニエが手配した兵士達がいてゲルダを、エレノア達の尻馬に乗って虐げた者達の調査をしているらしい。そしてジェロム達三人はこの後、牢に入ってそれぞれ鉱山と修道院に送られるそうだ。
美でのし上がるのではなく、美を価値としなくて済む選択をした異母妹を、ゲルダは少しだけ哀れに思った。知らなかったとくり返していたが、知らずに罪を犯したのは自分も同じだ。けれどゲルダの場合は菌の加護のおかげで、首の皮一枚繋がっただけである。
(あとは……私には、クロムがいてくれた)
二人で小屋に入り、しみじみとゲルダは思った。
レニエが命じてクロムも頷いたので、彼がこれからも傍にいてくれることには何の問題もない。まあ、そもそも彼は人間ではないし、聞けば見えなかっただけで今までもゲルダと一緒にいてくれたらしいが――だから、これからしようとしていることは、完全にゲルダの気持ちの問題だ。
「クロム」
「何だ?」
「殿下はあなたのことを、私の護衛みたいに言ったけど……私は、あなたの家族になりたいの」
言った。前世が年寄りとか、気まずくなりたくないとか理由をつけていたが、ついに言ってしまった。
内心、ドキドキしながら告白の返事を待つゲルダに、形の良い眉を顰めてクロムが尋ねてくる。
「……家族の定義は?」
「えっ?」
「親兄弟は嫌だ。俺は、ゲルダの夫になりたい。戸籍はないし、そもそも人間じゃないけど……ゲルダは?」
「……私も、同じよ? 私も、クロムのお嫁さんになりたい」
キッパリと言い切り、けれど不安そうに白銀色の眼差しを揺らしたクロムの目を、真っ直ぐに見返してゲルダは答えた。
刹那、ゲルダは再び、そして今度は喜んだクロムの腕の中に収まることになる。
※
……そこは他の領地同様の、枯れ果てた森の筈だった。
しかし森番夫婦がやって来てから、豊かな恵みの森へと変わった。何でも、森番の妻が稀有な加護を持っているとのことで、王家の覚えもめでたかった。
結果、他の領地からも自分の領地に来て欲しいと要請が殺到し、おっとりとした森番の妻は快くその申し出に応えた。おかげで国中に緑が増えたが彼女を捕らえたり、手に入らないからと害しようとすると王家の前に、森番の夫が黙っていなかったと言う。
そんな森番の妻は夫との間に、同じく稀有な加護を得た子供を儲けた。そして最期は、愛する家族達に囲まれて眠るように安らかに逝った。
「クロム、ありがとう……あなたが見送ってくれるおかげで、前よりももっと満足して逝けるわ」
不思議な言葉を遺した妻を見送ってすぐ、夫もまた妻の後を追うように姿を消した。
途中、更新が止まりましたが(;^_^A完結です。
ここまでのお付き合い、ありがとうございましたm(__)m




