想起
『天祐の儀』を十月のみに変更しました。
作物の収穫時期である十月。それらの最初の日曜日に『天祐の儀』は行われる。今日は人の目があるからと、ゲルダはいつものメイド服ではなく『天祐の儀』用の白いドレス(使用人から手に入れた簡素なもの)と灰色の外套を着ていた。
そしてそのまま、この森に連れて来られたのだが――外套を着ていても、外でつっ立っていれば寒いものは寒い。
我に返ったゲルダは震え、少しでも熱を逃がすまいと自分を抱き締めるようにして身を縮めた。
「うぅ、お腹も空いた……このままじゃ飢え死にして、獣にバリバリ食べられる……」
今日は、いや、昨日からゲルダは水くらいしか口にしていなかった。同じ年の異母妹・クリスティアも儀式を受けたのだが、ギリギリまでドレス(ゲルダとは違い、儀式用に何着も用意していた)や髪型に悩み何回も着替えたり、髪型を変えたりして忙しくしていたからだ。
そんなクリスティアには、母親と同じ『美』のギフトがあった。成程、あのピンクゴールドの髪も青い瞳も、更に妖精姫と呼ばれる可憐な美貌もギフトの証と思えば説得力がある。
更に半分とは言え、貴族の血(伯爵ではないが、子爵でも貴族は貴族だ)を引いているので、それこそ嫁ぎ先は引く手あまただ。『美』のギフトを持つ母親の子は、ギフトまではいかなくても確実に『美』の恩恵を受けるのである。
そんな訳でクリスティアは、父の言うところの『役に立つ』娘だ。もっとも、異母妹は義母そっくりなので仮にギフトが今ひとつでも、ゲルダのように家を追い出されることはなかっただろうが。
中身は屑だが、父親もまた美丈夫である。
そんな父と、義母達が並んでいると本当に麗しく――一方、醜いとまで言わなくても平々凡々な容姿の自分など可愛くも何ともないのだろう。
「……いいなぁ」
それ程、大きい声ではないが一人きりなので、呟いた声が思った以上にはっきり響く。
そして自分で言ったことでますます悲しくなり、振り払うようにゲルダはブンブンと首を横に振って、すぐに深々とため息をついた。
「森番、かぁ」
森番とは猟をする領主の為の獲物であるキジや狐を飼育し、それらを狙う獣を捕らえたりして領主が狩りに来た時は森を案内するのだが年々、森が荒れて実がならず、畑も痩せて不作の為獣が狂暴化している。
更に父は狩りが好きではないので、母が亡くなってからは何年も森に来ていないので、前の森番は早々に辞めさせられていた。それ故、目の前に広がる森は朽ちた木が何本も倒れ、下草が生い茂って見るからに荒れている。森番用の小屋はあるだろうが、食べ物が残っていることは期待出来ない。
「食べ物なんて、持たされてないし……お父様方、私に死ねって言ってるわよね……」
空腹と絶望により、ゲルダはたまらずその場に膝を着いた。お腹は空いたが、仮にここで何か口にして生き永らえても、家族にすら見捨てられる自分にこの先、何があると言うのか。
……そして気絶しそうになった瞬間、不意にゲルダは前世の、そしてこの世界に『生まれ変わる』時の記憶を思い出した。




