口撃
「サブル伯爵? 私の加護を知っているかい?」
「……はい。我が妻や娘と同じ、美の加護だとお聞きしています」
「同じ?」
「はっ……し、失礼致しました!」
笑顔は変わらないが、声音が低くなったのに訳が分からないながらも、不興を買ったことだけは解ったのでジェロムはレニエに謝った。そんな夫にエレノアとクリスティアが戸惑うが、流石に空気を読んだのか黙っている。
「加護は全て、女神から与えられたもの。その中で、役に立つと思われる加護が優遇されるのは解るけれど……逆を冷遇するのって、そもそも女神を侮っている気がするんだ。サブル伯爵、そう思わないかい?」
「大変申し訳ありません! 娘には、言い聞かせますのでっ」
「良いんだよ。一般的な考え方だろうから……ただ、私は思うんだ。他では見ない、これだけ豊かな森を生み出せる加護がはずれだったら、それこそ美しい『だけ』の美の加護もはずれじゃないかってね」
「そんなっ!? 殿下達の加護が、その、はずれなんてそんな訳がっ」
「ああ、私『は』違うよ? 私はこの加護を、商人達への支援や他国との交流に役立てているからね」
「は……は?」
いきなり、己を卑下し出したと思って焦ったジェロムだったが、己は違うと――つまりは、愛するエレノアとクリスティアの加護がはずれだと言い切られ、しかし王族に言い返すことも出来ず間の抜けた声を上げることしか出来なかった。
一方、エレノアとクリスティアも馬鹿にされて腹は立つが、ジェロム同様に王族相手に反論が出来ず。そんな三人ににんまり笑うと、レニエは笑って言葉を続けた。
「確かに、ゲルダ嬢の加護は素晴らしい。けれどそもそも、我ら全てが女神の加護を受けている。それなのに、ゲルダ嬢がいなくなった『だけで』加護が損なわれるなんておかしくないかい?」
「それはっ、お姉様がいじわるをしてっ」
「クリスティア!」
「いいよ、サブル伯爵……いじわるだと思うなら、もう関わらなければ良い。本当は解っているんだろう? 君は、君達はゲルダ嬢のおかげで美しくいられたし、快適に過ごせたと。いなくなって、己の加護だけじゃどうしようもなくなったから、何としても連れ戻しに来たんだろう?」
「ええ、そうよ! あなただって、お姉様の恩恵が欲しくて私達をいじめてるんでしょう!?」
「私? まあ、ワインは魅力的だけど……それよりも、今まで思っていたことが証明されて気分が良いんだ。他者に働きかけられる加護は、一流。自分だけで手一杯な加護は、三流。そうだろう?」
「……っ!」
嘲笑われて、クリスティアは白粉で白くなった顔を怒りで真っ赤に染めた。とは言え、身分差だけではなく事実だったのと、このいけ好かない王族がいる限り、今までのようにゲルダから搾取出来ないのだと悟って口を噤んだ。
そんなクリスティアから、レニエが視線をジェロムとエレノアへと向ける。
「ところで、さ。サブル伯爵? ……君は本来、ゲルダ嬢が成人するまでの中継ぎだった筈だよね?」
「えっ!? あ、あの、それはっ」
「当然だよね。前伯爵はゲルダ嬢の母親で、彼女の血を引くのは一人娘のゲルダ嬢だけだ。けれど、ゲルダ嬢は社交界に出て来ない。何でも、癇癪持ちの我儘令嬢だから人前に出せないって言いふらしていたよね?」




