衝突
サブタイトルを変更しました。
王族や領主が、森へ行って狩りをするのはその領地にとっての誉れだった――だった。そう、過去形だ。
異世界の住人達に認識はないが、菌を失ったことで森は枯れ、食べるものが無くなったことで獣達は姿を消した。それ故、狩りは出来なくなり、森に王族や領主が足を運ぶこともなくなった。
「第三王子は現在、婚約者がいないのもだが……お前達と同じ『美』の加護を得ているのだ。妾腹とは言え、王族なので遠慮していたが……寂れた森にわざわざ来ると言うのは、クリスティアと会う為の口実だろう」
「まぁ……」
馬車の中で、父親の言葉に嬉しそうに笑うクリスティアは、自慢のピンクゴールドの髪がもつれて膨らんでしまうのに癇癪を起こし、誤魔化す為に侍女達に熱したコテを使わせて縦ロールにしている。更に、肌荒れやにきびを誤魔化す為にしっかり化粧もしている。
それ故、ドレスやコートも髪型や化粧に合わせて、レースやフリルがふんだんにあしらわれたものを着ていた。可憐であるし令嬢なので肉体労働をする訳ではないが、森に行くには少々場違いな格好である。
(まあ、ゲルダがいないのが解れば自分都合だとしても、涙の一つは流すでしょうし……それを王子に慰めさせれば、多少の派手さは誤魔化せるわ)
身一つで放り出したのだから、生きている筈がない。死体が転がっていたら大変なので、王子達が着く前にと急いで馬車を走らせたのだが――枯れ果てたと思っていた森が青々と生い茂っているのに、エレノア達は唖然とした。そして、その驚愕は森の中に入り森番小屋へと向かう間、更に大きくなった。
「えっ……枯れ木がない……?」
「……鳥の声だと?」
「畑……?」
以上、エレノア、ジェロム、クリスティアの声である。
到着し、三人が慌てて馬車から降りると、その音を聞きつけたのか森番小屋のドアが開いた。
「……何の用だ?」
「「「っ!?」」」
白銀の髪と瞳をした美青年の登場と、睨まれ低い声で威嚇されるのに、思わず怯んでしまう。しかし平民と思われる簡素な服装に、最初に我に返ったのはジェロムだった。
「この小屋も森も、我が領地だ! 貴様こそ、勝手に住み着きおって……今すぐ立ち去れっ」
「お父様、いきなり追い出すのは可哀想よ……我が家の下働きとして、雇いましょう? ねぇ、お母様? いいでしょう?」
「そうねぇ……」
クリスティアとしては恋愛相手にする気は全くないが、目の保養になりそうな美青年をこのまま逃すのは勿体無いと思い、優しさを装って言った。一方、エレノアも同意見だったので、反対ではなく恩を着せる為に勿体つけた。
しかし、美青年――クロムは、三人は知らないがそもそも人間ではない。更に、ゲルダを虐げていたことを知っているので、従う気など全くなかった。
「ふざけるな。俺にはすでに、守るべき相手がいる。お前らこそ今更、ノコノコなんだ? あぁ、ゲルダの恩恵が無くなって惜しくなったか? 捨てたのはお前らだから、諦めろ。とっとと帰れ」




