接触
この辺りは、雪は降らない。ただからっ風が吹くので、地味に寒い。
だから冬越し用に薪は用意していたし、何なら畑作業や水汲みの時にも目に着けば枯れ枝を拾ったりもしていた。
そんな寒さに負けて冬眠する獣もいれば、負けずに元気に動き回る獣もいる。ただ、そうなるとそれらの獣を喰らおうと狙う肉食獣――狼などもまた、森にやってくる訳で。
(罠で対応、出来るのかしら)
いくら田舎だったとは言え、前世では普通に町で暮らしていたので犬よりも大きくて狂暴な獣に出くわしたことなどない。それ故、不安になったゲルダだったが、この問題についてはクロムが解決してくれた。
唸りながら近づいて来ようとした狼に、触れることは勿論、声すら発することなく。ただ、彼が一瞥するだけで狼が倒れた――いや、死んだのだ。
「クロム?」
「俺の力は毒だ。食わない獣だし、気になるならすぐに毒抜き出来る……俺が、怖いか?」
「……ううん」
心配そうに尋ねてくるクロムに、ゲルダは首を横に振った。菌と毒が最初は結び付かず戸惑ったが、それこそ腐ったものを食べるとお腹を壊したりするので、クロムにもそんなことが出来るのだろうと思ったからだ。
「逆に、触らなくても出来るし毒抜きも出来るなら……クロムが怪我とかしなくて良いから、安心ね」
「ゲルダ……」
「ただ私、小さい鳥や獣は食べるのに捌けるけど、毛皮を綺麗に剥いだりなめしたりとかは出来ないのよね。どうしようかしら」
「収納すれば新鮮な状態で運べるし、工房に持っていって職人に頼めば捌いても貰える。大丈夫だ」
「そうなのね! クロムは強いだけじゃなくて、色々と知ってるのね」
「……俺は、役に立ってるか?」
「もちろんでしょう? 逆に、私の方が何にも……」
「ゲルダは、いるだけで癒しだ」
「もう、またそうやって甘やかすー!」
前世が高齢者だったので良かったが、これで普通の十代だったらあっという間に恋に落ちている。
クロムからすれば望むところなのだが、ゲルダとしてはこれだけ間近で接してきたのは母親だけだったので、恋を意識して気まずくなるのは嫌だと思う。
(優しくしてくれるけど、調子に乗っちゃ駄目)
声に出さずに、ゲルダは自分に言い聞かせるようにそう言った。
そしてそんなやり取りの後、クロムは町に行って一応、毒抜きをした狼の死体を工房に納めた。それから露店で、いつものようにワインを並べた。
すると、待ち構えていたようにクロムの露店の前に一人の男が現れた。
「なあ、これって『ワイン』だよな……あと、さっき工房に獣を納めていただろう? アンタ、どこから来てるんだ?」




