酒精
この世界から『菌』が無くなった時、目に見えて無くなったのは酒である。作る過程に『発酵』が入るから、まあ、当然なのだが。
だが、ゲルダはギフトにより酒が作れる。しかも下準備はいるが、ギフトのおかげで発酵は一瞬だ。
幸い、この森には山葡萄があった。前世で娘がワインにハマり、作り方を教えてくれたのである。もっとも日本には酒税法があったので、前世で実際に作ったのは山葡萄ジュースまでだったが。
山葡萄を摘んで、水洗いはせず素足で潰す(ここまではクロムが担当)。それから容器に入れ、ゲルダのギフトで発酵させた後、布で皮や種を濾したものを瓶に入れるとワインの完成だ。
クロムが週に一度、売りに行ってくれているが、元々がこの異世界から失われたものである。最初は遠巻きに見られていたようだが、冒険者や料理人が購入するようになり、今では露店に並べるとすぐ売り切れるらしい。
本来なら発酵に二、三か月かかるがギフトで一日かからずに作れる。それに瓶一本で銀貨六枚(約六千円)と言う値段にかかわらず、もっと売りに来てくれないかと客から言われているらしい。
しかし、ゲルダはワインだけを作っている訳ではない。だからクロムは「うるさく言うなら、売りに来るのをやめる」と客を脅して今の週一ペースを死守していた。
「ありがとう……そして、ごめんね? クロム」
「気にするな。ゲルダがやりたいことを、やりたいようにするのが大切だ」
「ええ」
収入源ではあるし、山葡萄を狩り尽くさないように挿し木して増やそうとしているが、ワイン農家になるつもりはない。更に言えば、夏には麦を収穫してビール造りにも挑戦するつもりである。
だから、クロムがゲルダを尊重してくれるのはありがたかった。
ちなみに、クロムがワインを売りに行っている間、ゲルダは畑や近くの川までは一人で行けるようになった。目には見えないが、クロムがいない間は結界が張られているので一人でも大丈夫らしい。前世は老衰で亡くなったので、若くなり思うがままに動けるのは嬉しかった。
(鳥のさえずりとかも、近くで聞けるし)
……そして、この森に来た当初より変わったことがもう一つ。
菌の力で土が良くなり、畑だけではなく森全体が活性化したせいか、鳥や狐、兎などの獣が森にやってきて住み着くようになったのだ。
日本酒からワインに変更しました。




