温柔
家から追放され、ゲルダが森に来てから三か月。今は年を越し、一月である。
その間、ゲルダはギフトを使って畑に植えた野菜――キャベツやカブ、玉ねぎなど――を無事収穫したり、念願のふかふかパンを作ったりしていた。
この世界に、電化製品はない。未来は解らないが、少なくとも今はない。
だから、とクロムが石を積んで窯を作ってくれた。燃料は、前世で老婆だったゲルダも懐かしく感じる薪である。幸い、使ったことがあったので困ることはなかった。
そして小麦粉や塩、水、あと砂糖と牛乳がある。あと、バターはクロムの力を借りれば作ることが出来る。これだけあれば外皮がパリパリなハード系パンではなく、ふかふかのソフト系パンが出来る。
そんな訳で、ゲルダはエプロンをつけてまず小麦粉に塩と砂糖を合わせたものに、少しずつ水を加え、粉気がなくなるまで混ぜて馴染ませた。ある程度纏まったところでバターを加え、捏ね始める。台に叩きつけて伸ばし、伸ばしては台に叩きつける。簡単そうに見えて、パン捏ねは意外と重労働なのだ。
(重労働だけど、若くなったから楽勝!)
生地が滑らかになれば、まず一次発酵だ。
……何も唱えずとも、ゲルダが望むだけで眩い光がボウルを包み込み、本来だと三時間くらいかかる一次発酵があっと言う間に完了し、生地が三倍くらいに膨らんだ。
そして数個に分けて布をかけ、生地が乾燥しないようにして二十分ほど休ませる。それから、麺棒で伸ばして丸めた後、石窯用の天板に並べて焼いて完成だ。
「完成!」
「すごいな……本当に、ふかふかだ」
「でしょう?」
初めて作った日。パンを千切った美青年の口から『ふかふか』と出るのは面白かったが、美味しそうに食べているので良しとした。
基本、クロムはゲルダの作ったものは何でも食べる。それでも好きなものを食べる時はペースが上がるのだ。あまりにも早いので、つい「ちゃんと噛んで食べなさい!」と言ってしまう程に。
「……解った」
そう言って、無表情ながらもしっかり咀嚼するクロムは、何と言うか可愛い。現世では見た目年上なのに、格好良いより可愛い。
そんなクロムは今日もご機嫌で、けれどゲルダに叱られないようにしっかりよく噛んでパンを食べている。
その様子を微笑ましく眺めながら、ゲルダはふと思い出したことを口にした。
「あ、お酒。瓶詰めが終わっているから、都合の良い時に売って来てくれる?」
「ああ」
「いつもありがとう、クロム」
お礼を言うと、クロムは花のこぼれるような笑みをゲルダに向けた。
……そう、農業やパン作り以外に。母親の形見でお金は得たが、それは無限ではない。使えば使うだけ、減ってしまう。
それ故、ゲルダは収入に結び付ける為にと酒造りを始めたのだ。
パンの作り方に誤りがあり、修正しました。




