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08・疑念

「……なぁ姐御、さっき食べたあの美味しかった貴族の料理、やっぱり代金支払わなきゃ駄目かい?」

 気不味そうにそんな事を聞くホロ。

 あの脳筋(バカ)の顔を見ていたく無く、私達は食堂に戻って来ていた。

 だけど、何故姐御?


「あの脳筋(バカ)に言った事なら気にしなさんな。金を取るつもりなんてはじめから無いよ」

 世の中にはカレー以上に材料費が高額な料理なんていくらでも存在するが、ホロ達にしたら百クレジット(Cr)程もする料理なんて縁が無かったのだろう。

 それ故に『貴族の料理』などと言ったのであろう。


「それより、あの脳筋(バカ)はグレンの事を知らなかった様だけど、どう云う事だい?」

 先程脳筋(バカ)と対峙した時にリンが居たにも関わらずグレンの話題は出る事は無かった。

 なので率直な疑問をホロに投げ掛ける。


「それは……」

 少し話のを躊躇したもののホロはこの町の勢力について語りはじめた。


「オイラ達はこの町の鉱山で鉱石を掘る仕事をしてるんだ。鍛冶の丁稚仕事してるのも居るから、そう云う奴に掘った鉱石を銅や鉄にしてもらう事もある。そうやって作った物をゴルダ商会に売ってるんだ」

 ホロ少年はマイト団の実情を話してくれた。


「お仕事の内容は分かったわ、でもソレだけなら個人で働いても成り立つわよね?」

 リンが疑問に思った事をホロ少年に尋ねる。


「うん、数年前まではオイラもだけど、それぞれで買い取って貰っていたんだ。でも、それを変えてくれたのが兄貴なんだよ!」

 ホロ少年は目を輝かせて言う、そしてそのままの勢いで言葉を続ける。


「それまでは鉱山に入る度、持ち出す鉱石の一部を出口で取られていたし、それを売っても少しのお金しか貰えなかったんだよ。でも、それを変えてくれたのが兄貴で、オイラ達は凄く感謝してるんだ」

 興奮した様子でホロ少年は言う。


「それって……」

 そのホロ少年の言った意味にリンも気付いたようで、返す言葉を探す様に続くものが出て来ない様子だった。

 あの脳筋(バカ)が行ったのは多分ではあるが、鉱山を暴力によって実権を奪ったのであろう。

 鉱石や精製した金属を足元を見て安く買い叩くのを手段はどうであれ正したのは評価する。

 だが、鉱山の以前の管理がどこにあったかを知る術は無いが、そこを好き勝手掘れば現実であれば崩落に繋がる恐れがある。

 そうならない為に働き手は自由に出入りさせるにしても、その管理には様々な費用が必要になる。

 ここがデジタルで作られた世界であるとはいえ、エデンでもそう云った部分には並々ならぬ拘りを見せていた運営だった。

 その事を考慮するなら、そこらの危険性も何かしらのカタチで実装しているに違いない。

 社会と云うものをマイト団に集った少年少女達はそこらを理解しないまま目先の得られるお金だけで判断し、あの脳筋(バカ)に心酔しているのだろう。

 そう云う意味で言えばマイト団は正にヤクザ者の集団であり、半ばスラムと化しているこの地に相応しい存在であると言えるのかもしれない。


「……で? グレンってのは何者なんだい?」

 ──鉱山に関しては一旦考えない事にし、リンと勘違いをした人物の事を尋ねてみる。


「あぁ、そこの姉ちゃんにそっくりでオイラ達の(かたき)みたいな奴さ。姉ちゃんと同じ真っ赤な髪をしているからオイラ達は紅蓮(グレン)って呼んでる」

「あぁ……グレンってのは見た目そのままだったのか」

 ホロ少年の言葉に私は納得する。

 そしてその少年の言い分にリンは表情を曇らせ、首を傾げる様な仕草をする。


「で、何でソイツを(かたき)なんて言うのは何でさ?」

 私は疑問に感じていた事を率直に聞いてみた。


「アイツはオイラ達がせっかく稼いだお金を何度も奪ってるんだよ。それで怪我したヤツも居る、だからオイラ達の(かたき)なんだ…… でも、兄貴が一緒に居てくれるようになってからはそんな事も無くなったから、兄貴には凄く感謝しているんだ」

 そうホロ少年の言葉であの脳筋(バカ)がグレンの事を直接知らないってのは理解は出来たけど、普通に考えたらおかしくないか?

 通常であればその様な損害があって護衛ととして出張るのであれば、その対象がどんな相手であるのかをある程度の聞き取りをするのが普通だ。

 そう云うのも聞かず、ただ着いて行っただけでその被害に合わなくなると云うのは不自然極まりない。

 少し話を聞いただけでそれくらいの違和感を感じる訳だから、些細な事まで気付ける人であれば余計にその違和感が際立つであろう事は容易に想像できた。


「……でも何で私にそっくりなんだろ?」

 リンは自身の中にあった疑問を呟いたようだった。


「何か気になる事でも?」

 そのリンの言葉の意味するところが分からず私は彼女に聞き返す。


「この世界ってゲームとして構築されている訳よね? だとすると色々とおかしな部分があるのよ。私は銃が欲しくてここに来た訳だけど、他にも銃を得られる場所はゴルダ商会だったり、ティーメ家だったりって別の場所もある訳よね? でもそれをプログラム的に考えるなら、そのみっつのうちドコを選ぶかってのはいずれかの施設に行って、その意思表示みたいなのをしない限り処理としては浮いたままの状態でどれも動き出す事は無いのよ。でも、この私に似た人物ってのが銃入手の為のイベントだとするとおかしな挙動しているのよね……」

 プログラムに触れる仕事に関わっていたリンはその様に言うのだ。


「どこがおかしいって云うのさ?」

 私は理解できずに更に聞く。


「えっと……いずれかの勢力の施設に足を踏み入れた時点でイベントが動き出す処理をしているなら、それは私に似た誰かでは無くてグレイビーちゃんのそっくりさんじゃないとおかしいのよ。だってこの屋敷に一番初めに入ったのはグレイビーちゃんで、私のはその後ろに着いて行ってた感じだから、後ろに居る人物のそっくりさんをイベントの為に生成するのは凄く不自然なの。だって、複数人で施設に足を運ばない可能性だってある訳だし、それならソロ行動で考えて処理を作った方が合理的でしょ?」

 言われてみれば確かにそうだ。

 ホロ少年はリンが何を言っているのか全く理解できていないようで不思議そうな顔をしている。


「だからね、住人(NPC)以前から(・・・・)と言ってたとしても、それを私は全く無意味な言葉だと感じているの。だってそれはイベントで用意された物であり、私達プレイヤーが確認する事ができた時点で生成される言葉になる訳だから時間を遡った話題はデジタルで作られた世界では信憑性が無いのよ」

「姉ちゃん、なんでそんな事言うんだよ? やっぱり姉ちゃんはグレンの事を何か知ってるんじゃないのか?」

 そんなプログラム進行的な話をしていたリンに対してホロ少年が疑心の声をあげる。


「……私は本当にグレンと云う人は知らないし、姉だったり妹だったりってのも居ないのよ。だからこそ余計に私にそっくりだって云うのが不思議でしょうがないの。気分を害してしまったのならごめんなさいね」

 そんなホロ少年の態度に気押された様子でリンは言葉を返す。

 デジタルで構築された世界と云うのを理解した上で、それがどの様に構築されているのかある程度理論的に説明できてしうリンにとって、この世界を純粋に楽しむ事は難しいのだろう。

 私は"そう云うものだ(・・・・・・・)"と受け入れた上で楽しめる部分は楽しもうと割り切ってしまっている。

 それにしても、だ……本当にリンに近しい血縁は居ないのだろうか?

 リンは現実(リアル)の記憶をしっかり持っていると云うが、本当にそうなのであろうか?

 私は自身の現実(リアル)に関する記憶のほとんど無い。

 だからこそ何者かに記憶操作されているのではないかと疑っている部分が大きい。

 だが、些細な一部分の記憶だけを操作されている場合、それを自覚する事はできるのだろうか?

 そんな疑問が浮かび上がるが、その考えを自身の中に閉じ込める。


「で、リンはグレンと云う存在をどう解釈しているんだい?」

 このままでは埒が明かないだろうとリンの見解を促す。


「えっと、ひとつは偶然(・・)にも私とそっくりなキャラクターを作ってしまったプレイヤーの存在かな。その別プレイヤーのイベントに私達が絡んだと云う考え。それだと襲撃とかは実際に起きていて、そのイベントに人工知能(AI)の修正が入ったけど、人が作り出す物よりも緻密では無くて違和感が生じてしまっているって感じかな」

 やはりリンもホロ少年が話したグレンと脳筋(バカ)との関係性に違和感を感じていたようで、その事を踏まえた推測を言葉にする。


「もうひとつは開発側がイベントとして用意しているって考えだけど、話を聞く限りこの可能性は凄く薄いように思うの」

 エデンではイベントなどを人工知能(AI)が補正して個人に合わせて多少物語が変化するシステムを採用している。

 それはこちらの世界であっても同様だろう。

 だが物語の入口は分かり易い導入が多い為、先程リンが説明してくれたのも含めて考えれば確かに最初からこの様な状態になるようなイベントである可能性は低いと云うのも説得力がある。


「で、少年。その(かたき)のグレンからの被害は今でもあるのかい?」

 リンの見解を受け、確認の意味も含めホロ少年に尋ねる。


「うん……今でも兄貴が居ない時に襲われる事があるんだ」

 ホロ少年は悔しそうに顔を歪めて言う。

 これがゲームの演出として組み込まれているなら、相当屈折した性格の人物を開発は抱え込んでいる事だろう。

 プレイヤーが関わっているのならそれは多分容易な資金稼ぎの為であろう事が想像できる。

 何故なら勢力団体から狙われる行為はその勢力が及ぶ範囲の外に身を置いてしまえば、その旨味だけを享受する事ができる。

 このフェイバーでの旨味は多少の金属加工品の取り扱いの良さと銃器に関する売買が行える事くらいだ。

 銃器に関する事柄を捨ててしまえばこの町の魅力な んて無いといっても良いくらいだ。

 そうであるならホロ少年達を襲っているグレンと云う存在はプレイヤーである可能性が高い。

 しかしそうだとするなら、あの脳筋(バカ)の存在の有無をどうやって事前に知っているのかが気になるところだ。

 もしかしたら場当たり的に脳筋(バカ)が居ないのを確認してから襲撃しているのかもしれないが、それだと攻略サイトの情報など存在しないこの世界では取り引きするサイクルを自身で調べ、その上で行動している事になる訳だから何とも御苦労な事である。


「ならアタイ達が護衛してやろうじゃないか。リン、貢献度を稼ぐ為にも良いよな?」

 イリュシオンで無銭飲食を繰り返し、犯罪者となってしまったツヨシ君もその名誉を回復する為に仕事(クエスト)を繰り返しこなしたっけ……

 規模は違うもののこの勢力仕事(クエスト)もそれと同様なので、信頼を得る為に出来る事は可能な限り拾っておいた方が良いと思い、リンにそう提案をしてみる。

 あの白衣の男はツヨシ君をこの世界から離脱させると言っていたが、彼は元気にしているのだろうか?

 それと同時に姿を消したミラちゃんも……


「それは構わないけど、グレイビーちゃんも銃の購入するの?」

「姐御がオイラ達に力を貸してくれるなら歓迎だぜ」

 リンの疑問にホロ少年は期待した様子で声をあげる。


「そんなつもりは無いよ」

 だがそんな少年の期待の声に対して私は冷淡に対応する。

 その言葉にホロ少年は肩を落とす。


「だけどこの世界を楽しもうとは思っていても私だっていつかは現実世界に戻りたいとも思ってる。その情報がどこに落ちているか分からない状態なら、各方面に良い顔しておいた方が何かと都合がいいだろ?」

 リンの抱いた疑問疑問に笑顔を見せてそう応えた。

 何故この世界に閉じ込められた人が複数居るのか、その真意は未だに分からないままだ。

 だが条件さえ揃えばこの現実世界に帰還できるかは分からないとはいえ、離脱可能である事はツヨシ君の例もある。


「何かあった時の為に選択肢を増やしておきたいって事?」

「リンだって、この創作物語みたいな世界から脱出したいって言ってたじゃないか」

「そうだけど……」

「アタイだって何をしたら良いのか分からないのはリンと一緒だけど、何がキッカケになるか分からないからね」

 苦笑しながら私はそう言葉にするのだった。

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