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07・苦いカレーと猿山の大将

「姐さん、申し訳ありませんでした!」

 肩で息をしながら謝罪をする多少ガラの悪い少年少女達。

 私は厨房の入り口を陣取り雑な攻撃を仕掛けて来た者達を盾裁きのみで否した。

 結果、彼等のスタミナを奪う事にした結果がこれである。

 厨房でカレーを食べていた幼い者達と案内役の少年はその状態を唖然とした様子で伺っていた。


「さて、じゃぁこの厨房と食堂はアタイが貰うよ。文句ある奴は居るかい?」

 そう厨房で動きを止めてしまった案内役の少年に目を向け尋ねる。


「いや…貰うって、どうしようって云うのさ?」

 私の宣言にその意図が読み取れず聞き返して来る案内役の少年。


「この食堂でアタイの言う事は絶対だ、美味い飯を食いたいなら逆らわない事だね。ところで少年、今食べてるソレ、幾らなら出して良い?」

 唐突に案内役の少年にカレーの価格について聞いてみる。


「少年って……オイラにはホロって名があるんだけどなぁ…」

「そうかい、アタイやリンが名乗った時にアンタは名乗らなかったよね。どうやらマイト団ってのは名前のに反して可能性すら暴力で潰して何も残らない無能の集団らしいな」

 嫌味を込めてホロと名乗った少年に言い放つ。


「何だと!」

 煽られたのが理解できたのであろう、ホロは激昂し声を荒げる。


「淑女に対する礼儀なんて場末の集団にはじめから期待なんてしていなかったさ。だがね、挨拶や名乗りすらまともに出来ない奴等はどれだけ集まったとしても烏合の衆にしかならないものさ」

 私はこの場に居る少年少女達を伺いながら諭すようにゆっくりと話す。


「グレイビーちゃん、言い過ぎだよ……きっと彼等は今の自分で精一杯で……」

 リンは私の言葉に対してその想いを言葉にしようとするが、それが上手く出て来ないようだ。


「リン、過去の自分に彼等を重ねるのはアンタの勝手だ。だけど彼等はアンタとは違うし、役割として存在しているだけだ。あまり感情移入するもんじゃない」

 そう言葉にしたものの、それは私自身に言い聞かせていたのかもしれない。

 ある日、目覚めたら突然人の如く柔軟な対応を見せ、中には情を向けてくれる様な存在まで現れたのだ。

 その事で感情を揺さぶられているのは私自身ではないのではなかろうか?

 それを否定するしたいが為に作られた存在であると口にしてしまったのかもしれない。


「もう一度聞くよ、少年の食べたその料理、アンタなら幾らなら出す?」

「……二十クレジットなら出しても良い」

 しばらく考えた後、ホロはカレーに出しても良い価格を答える。


「やはりマイト団は見る目の無い無能ばかりか……窓口を任されている者でさえこれじゃ話にならないね。二十クレジットじゃ材料費にも足りないよ」

 カレーは香辛料を大量に用いる。

 その為、自力で材料調達に走ったとしても少なく見積もっても二十五クレジットはかかる。


「それ、カレーって云うんだが、大量の香辛料を使うんだよ。食事処で出すなら最低でも七十クレジット、有名店にでもなれば百クレジットでも売れる代物さね」

 材料費の事を触れずに売値だけを明かすと、それを食べた者達は驚きの表情を見せ、奪おうとした者達は生唾を飲み込む。


「商売に関して言えばこの町ならゴルダ商会が得意とするところだろうが、得意不得意関係なくある程度は知ってないと喰い物にされるぞ」

 私は冷たく言い放つ。


「兄貴なら……兄貴ならきっと何とかしてくれる。今までそうだったんだ、これからだって……」

 私が放った言葉にホロは苦しそうに返す。


「リン、さっきアンタは今の自分に精一杯と言ったな? アンタは彼等みたいに自分に精一杯の時、その状況をどうやって抜け出そうとした?」

 私は彼等のように追い込まれた状況になった事は無い。

 それ故、その状況がどんなモノなのか正直私には分からない。


「私は暗闇の中に居る状況でもそれを打破する手段を見付ける為にあがきました。少し厳しい言い方になってしまいますが、ホロ君みたいに誰かに自分の未来を預けて任せっ放しになんかした事は無いです」

 そうホロ少年の顔を覗き込む様な感じで語り掛けるリン。


「私がマイト団を選んだのは自身の境遇に重ねた部分があったのは確かです。だから何か助けになるかもって……」

 そこまで言葉にするとリンは哀しそうな表情になり、それ以上言葉を続ける事は出来なかった。


「オイラ達はアンタ達みたいに強くは無いんだよ! だから兄貴に頼るしか無かった。兄貴が今まで何とかしてくれた、それで良いじゃねぇか!」

 吐き捨てる様にホロは叫ぶ。


「ならその無能な猿山の大将に会わせてもらおうか? その前にせっかく作った料理はちゃんと食べなよ」

 そう言って、食べかけのカレーの続きを促す。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




「それで? お前が銃が欲しいって奴か?」

 案内された部屋の奥で重厚な椅子に身体を預ける筋骨隆々なオグル族の男が面倒臭そうに尋ねて来る。

 その態度に私は少なからず違和感を感じた。

 この屋敷に入った時、ホロはリンの見た目がグレンと称される人物に酷似している事から少なからず警戒された。

 だが目の前に居るこの男からは警戒する様子は微塵も感じられず、只々面倒臭そうに対応しているかの様に感じられる。

 この態度の違いは何なのか、それがどうも引っ掛かる。


「はい兄貴、赤髪の女の方が銃を欲しいとの事です」

 ホロは緊張した面持ちで答える。

 だが、その彼の言い回しに少なくない違和感を覚える。

 その言い方では彼がリンと最初に対峙した時の嫌悪感を剥き出しにした人物の事をこの団の長は全く知らない様な紹介の仕方ではないか。


「なら何時もの様に鉱山でしばらく働かせろ、それで判断する」

 それだけを言うと気怠そうに手を振り退室を促す。

 そしてそんな私の感じた違和感を確実なものにする返し。

 同時に目の前のオグル族(脳筋)に対し、嫌悪の感情が湧き上がる。

 うん、コイツ凄く気に食わない。


「ちょっと良いかい?」

 リンの課題(クエスト)だから深追いするつもりは無かったが気が変わった。


チビっ子(ミローリ族)、何か用か?」

 声を掛けられ興味が無いと云った感じで答える脳筋(オグル族)


「ココに来る前にちょっとした食事を振る舞ったんだけどさ、その代金貰って無いんだよね。大将であるアンタに請求したいんだが、どうかね?」

 そう私が口にするとホロが焦った様な表情に変わる。

 だがそんなものは関係ない。


「飯を食ったのはオラじゃねぇ、金が欲しいなら食った奴に言うんだな」

 放った言葉がさも当たり前の様に脳筋(オグル族)は言い放つ。

 うん、やっぱり気に食わないし、こいつは大将の器じゃない、猿山の大将と称したが実際はそれ以下だ。


「アンタ、自分の団のケツ持ちすら出来ねぇのかよ。兄貴なんて呼ばれて調子こいてんじゃねぇぞ!」

 個人の何かしらの魅力で集った者達に対して気遣う様子もなく、自身は知らぬと言わんばかりの脳筋(オグル族)の態度に思わず汚い言葉が噴出してしまう。


「お前こそ調子こいてんじゃねぇぞ! 潰してやらぁ!」

 激昂し叫ぶ脳筋(オグル族)はそれまでの気怠そうな様子とは打って変わり、勢い良くサブマシンガンの様な銃を取り出し、攻撃可能な態勢を取る。

 戦闘はとりあえず出来るが、料理関連に比重をかなり割いている為、戦闘構築(ビルド)の相手だと太刀打ち出来ないが、吐いてしまった言葉は戻らない。

 しかも飛び道具に対する防御手段と云うのは数少ない為に対峙するには相性も悪い。

 こりゃ覚悟を決めるしか無いな。


 脳筋(オグル族)は身内であるホロや客であるはずのリンなどお構い無しと云った感じで銃の取り回し、私を射抜こうとその銃口を動かす。

 下っ腹に力を貯め、銃の射線から逃れる回避行動を取りながら素早く接近、そして盾と剣を瞬時装備して下方向からの袈裟斬りで脳筋(オグル族)に斬り掛かる。

 相手が持っている銃は形こそサブマシンガンの様だが、一発放つ度に弾込めの為、コッキング動作をしなければならない。

 銃の火薬による乾いた軽い発射音と、私の斬撃が脳筋(オグル族)に喰らい付いたのはほぼ同時だった。

 腕を狙い斬り掛かったが、その腕が斬り飛ばされる事は無く、攻撃が当たった時のエフェクトが表示されるのみ。

 動きとその結果が異なるのはゲームであったエデンの時と何ら変わるものでは無く、お互いの生命力バーが無くなるまで削り合うの状態はゲームの仕様のままだ。

 これ程までにゲームそのままの仕様であるのを恨めしく感じた事は無い。


「皆、逃げて!」

 一撃を喰らったのに二射目の準備をする為、コッキング動作を行う脳筋(オグル族)

 その隙きを突いて私は叫びながら次の攻撃の為に距離を取る。

 まずい事に私の背後にはリンとここに案内してくれた少年ホロが居る。

 それらも気にせず発砲されては万が一も有り得る。

 脳筋(オグル族)がコッキングを終わらせ銃口を倒すと同時に私もまた次の攻撃の為に動く。

 戦闘を行える最低限にしか生命力に熟練(スキル)を割り当てていない私は耐えられて一撃、最悪は一撃死すら有り得る。

 なので最善は常に相手の射線から逃れ、完封するしか無い。

 幸いにと言って良いか分からないが、所詮相手は住人(NPC)だ、戦闘行動も単純なものを繰り返すしかしない。

 それはアンビティオの闘技場で飽きる程経験してきた事だ。

 大丈夫、そう自身に言い聞かせながら私は戦闘を続行する。


 射界から逃れる為に調度体重移動をしようとしたところで発砲され、このままでは確実に命中してしまう。

 この世界の銃は矢の射速よりは速いものの、かろうじて目で追える程度のものでしか無い。

 無茶な体制であるのは承知の上で盾を振り抜き、銃から放たれた(つぶて)を払い除ける。

 これが現実(リアル)であればそんな動きをしたら筋を痛め、その後の行動は取れなくなるところだが、デジタルで構成されたこの世界はそんな無茶も押し通す事ができた。

 その後は危なくなる様な事は無く、戦いは一方的なものになった。


「参った、もう勘弁してくれ!」

 十数回の攻撃を叩き込んだ辺りで突然脳筋(オグル族)の腰は砕け、手にして銃も投げ出し、その場に崩れた状態で相手は降参を申し出た。


「……情けない」

 私よりも立派な躯体をしているにも関わらずその表情(かお)は恐怖に歪み、多くの者を抱える頭としての姿には微塵も感じられなかった。

 故に溢れた一言。

 身内の事も考えず感情のまま突き動かされたであろうこの脳筋(オグル族)にそれ以上の言葉を向ける気にもなれなかった。

 柔軟な対応をする様になった住人(NPC)だが、こう感情に訴え掛けられる表情(かお)をされるのは気持ちの良いものでは無かった。

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