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06・マイト団

「笑いに来たなんてそんな……」

 はじめて訪れた場所で突然罵倒とも取れる言葉を投げ付けて来たマイト団の窓口を担当しているであろう少年に気圧されながらも何とか応えるリン。


「アタイ達は昨日この町に到着したばかりで、これまでフェイバーに来た事は無い。何だか御機嫌な様だが、その理由(ワケ)を聞かせてもらえるかい?」

 背後でリンの様子は分からないが、短い期間であっても気弱なリンでは話にならないで事であろうのは想像に難くない。

 なので私は詳しい話を聞こうと怒気を隠そうともしないその少年に言葉を向ける。


「何を見え透いた事を…その燃える様な赤髪もオイラ達を見下す様な態度も……」

 と、少年は自ら発した言葉に違和感を覚えたのか、まじまじと私達を改めて観察する様に見た。


「お前、本当にゴルダ商会に居るグレンじゃ無いのか……?」

 リンが少年の知るグレンと呼ばれる人物と余程違ったのだろう、疑問の言葉を彼女に投げ掛ける。


「私達はグレイビーちゃんの言う通り昨日はじめてこの町に来たばかりよ。その……あなたの言っているグレンさんとは無関係だわ」

 弱々しくだが私の背後でリンはハッキリとその少年に言い放った。


「その喋りに関してもあの鼻持ちならないグレンとは別物だな。見た目は一緒なのに別人と云うのも満更嘘では無いのだろう」

 未だ納得した様子では無いが、少年は少なくとも言葉を交わす程度には態度を改めてくれたようだ。

 かつてのこの世界なら定形の台詞を吐き、特定の処理に沿った行動を繰り返すだけだったのだろうが、他の人物の影響で対応を変えてくるのはどう云った技術で実装しているのか興味が尽きないところだ。

 そこらは後でリンに聞いてみる事にして、今は彼女の銃入手を優先させるべきだろう。

 それよりも目の前の少年の口調からマイト団ではグレンと呼ばれている人物への憎悪(ヘイト)は相当高い事が伺える。

 見た目が似ていると云うだけで問答無用で攻撃されなかったのはある意味不幸中の幸いと言っても良いだろう。

 この様な複数の勢力が絡む土地では一方に肩入れすると他の勢力からは憎悪(ヘイト)を向けられ、場合によっては敵対される事もままある。

 そうなってしまうと行動も制限されてしまう事も多い為、フェイバーの様に複数の勢力が存在する土地ではその憎悪(ヘイト)が大きく傾かない様に慎重に行動する者もエデンでは多かった。

 そう云う意味ではそのグレンと呼ばれる人物は問答無用で攻撃されないギリギリを見極め、上手い具合に憎悪(ヘイト)をコントロールしているのであろう。


「グレンってヤツの事は後で詳しく聞かせて貰いたいが、銃を売ってくれると聞いてアタイ達はここに来たんだ。簡単に売って貰えるとは思ってないが、場合によって譲ってくれるのだろう?」

 未だに私の小さな身体を盾にして隠れているリンに代わってココに来た目的を明かす。


「こんな寂れた場所までわざわざ足を運ぶとは御苦労なこった。だがグレンに似たソイツを安易に信用なんて出来ないのは理解して貰えるよな?」

 歳に見合わない言い回しで少年は私達を警戒した様子で言った。


「それで、そのグレンってのは何者なんだい? ソイツを知らない事には後ろで怯えているコイツも安心できないだろうさ」

 私の背中で隠れ切れていないリンを親指で指しながらおどけて言ってみた。


「オマエ、オイラとたいして変わらないだろうに肝座ってるな」

 私の言葉を受け、案内役であろう少年はそんな事を言う。


「ミローリ族は見た事無いのかい? アタイはこれでも立派な淑女(レディ)だよ」

「そりゃ悪かったな、生憎淑女をもてなす礼儀なんて持ち合わせていないが、それは勘弁してくれよ」

「分かった上で来たんだ、気にしないでおくれ。アタイは料理人のグレイビー、よろしくな」

 そう返して右手を差し出す。


「革鎧を着込んでいるのに料理人? なかなか面白い冗談だ」

 そう少年は返して差し出した右手を握り返し、その返事とした。


「それで、その後ろのグレンにそっくりの姉ちゃんは?」

 軽い握手を交わし、未だに私の後ろで隠れているリンに少年は声を掛ける。


「わ……私はリンといいます、宜しくです」

 突然声を掛けられたリンは慌てて声を発するが、どう見ても挙動不審な人物である。


「銃を求めているのはこのリンの方で、アタイはその付き添いなんだけどね……」

 そんな隠れ切れていないリンに半ば呆れながら私はここに来た目的を話す。


「来る場所を間違えてないか? そんな及び腰で? ここは力を示して成り上がるマイト団だぞ?」

 未だおどおどとした様子のリンに呆れた様子で少年は言う。


「ま、まずは何をしたら良いのでしょうか!?」

 少年の言葉にリンは直立不動となり突然叫び声に似た様な声をあげる。

 そんなリンの様子に少年はやれやれと云った感じのジェスチャーを取った。


「まぁ、あれだ……アタイの事を料理人だって信じて貰えて無いようだから、まずはそこから払拭しようか。調理場はどこだい?」

 私はリンと少年の様子を伺いながそんな事を口にする。


「あぁ? アンタが何を考えているかは分からないが、飯を食わせてくれるってなら歓迎だ」

 そう言って少年は着いて来いと言わんばかりに歩き出したのだった。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




「随分と酷いモンだね……」

 案内された厨房を見て私は思わず言葉を漏らしてしまった。

 普段ここで調理などされていない事は一目瞭然で、汚れた食器などは無造作に積まれ、とても調理できる様な環境で無い事がとれた。

 まずはそれらの片付けからしない事には調理するのもままならない。


「片付けるのを手伝って貰えるかい?」

 昼飯時になったらまた来ると言い残して去ってしまった少年から開放されたリンにそう尋ねる。


「良いけど……これ、お昼ごはんまでに間に合うの?」

 少年から開放されたリンはやっといつもの調子に戻り聞き返して来る。


「とりあえず間に合わなかったら作り置いてある料理でも出すさ」

 まずは汚れて放置されている食器類からなのであるが、これだけ放置された物が積み上がっている状態では早速気が滅入る思いである。

 そういえば……と、厨房に併設されている食堂に目をやると暇を持て余し雑談に興じる少年少女のグループがその席に腰をおろし雑談に興じていた。


「お前等、昼飯で旨いモノ食いたいヤツが居るならアタイの手伝いをしな!」

 そう厨房から顔を出して雑談に興じる者達に聞こえる様に声を発する。

 突然の声に何事かとその主を皆確かめるが、その大多数は興味無さそうに再び雑談する事に戻ってしまう。


「本当に美味しいごはん食べれるの……?」

 こりゃ駄目だと諦めて厨房の難敵と戦う覚悟を決める為に気合を入れ、リンに指示を出そうとしたところで弱々しく声を掛けられた。

 声を掛けて来たのは年の頃でまだ十にも満たない数人の少年少女たち。

 何かに怯える様に聞いて来た。


「あぁ、手伝いをしてくれたらとびっきりのを御馳走するよ」

 食堂にも聞こえる様にできるだけ大きな声で、だが威圧を与えない様に笑顔で私の元に来た子達に笑顔で応えてやった。

 力でその上下関係が決まると言われているマイト団では幼い者達にとっては居場所だけは与えられたとしても、それ以上望めないのはその格好を見るに想像に難くない。

 彼等幼い者達にとってマイト団は救済の場所ではあるが、それが団にとって必ずしも歓迎される存在である訳でも無く、暴力と云う力によって上下関係が築かれる社会性である事がこの幼い者達から見て取れた。

 それはここを自ら希望したリンにも理解できたのであろう。

 彼女は私の元に集まった子供達を見て言葉を失っているようだった。


「汝ら、力が欲しいか?」

「……」

 集まった幼い子供達に私は真剣な表情を作り、そう聞いてみる。

 リンはいきなり何を聞いてるの? と云った感じで驚いた表情を見せる。

 それは集まった子供達も同じで何も答えてはくれない。


「再度問う、汝らは自らで生きる道を進む力が欲しいか?」

 滑ったか? と思いつつ、私は再度集まった子供達に聞いてみる。

 だが、その答えは先程と同じく沈黙が返って来るばかりだ。


「……欲しい……力が欲しいよ……」

 そう私の問いを噛み締める様に応えたのは先程弱々しく私に問い掛けて来た幼い少年だった。


「なら我に従い手伝いに従事するのだ、さすれば己が望む力を手に入れるであろう」

 自分の発した言葉が滑らなかった事に安堵し、演技めいた言葉を発する。


「何それ、それじゃまるで悪役が言い放つ取り引きみたいじゃない」

 演技ばった私のその物言いにリンが噴き出しながら言う。


「アタイは労働力を提供して貰う代わりにこの子達に生きる術を少しだけ教える。そうさ、これは取り引きだよ」

「お姉ちゃんを手伝えば大きなお兄ちゃん達に叩かれたりしなくなる……?」

「あぁ、痛い思いをせず、叩かなくても良い力を教えてやるよ」

 私がここを訪れる時に抱いていた『面倒』が目の前に存在している。

 それを前にして黙っている事なんて出来ない。

 料理人とは空腹を満たし、幸福のキッカケを与えられる者だと私は勝手に思っている。

 現実(リアル)では何者にもなれなかっただろう自分だが、ここではそれを叶える力がある。


「まずその力を得る為にはここはあまりにも酷くて何もできやしない。一緒にここを片付けるのを手伝ってくれるかい?」

 そう力が欲しいと返して来た少年に優しく微笑みか、その返事を待った。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




「かりゃい~!」

「そうか? 多少辛いがそれ程でも無いだろ」

 数名の幼い子達に手伝って貰い、厨房は何とか調理ができる状態になり、私が作ったのはカレーだった。

 バターと牛乳で辛味を抑えたものを作ったのだが、幼い子供達にとってはじめての刺激物と云うのも手伝って、それ程お気に召さなかった様だ。

 対して勢い良くパンにルーを絡ませ、食べ進める案内役の少年。

 作っている最中にその刺激的な匂いに釣られ、私の要請に応えなかった子達が厨房に顔を覗かせ集まって来たが、今更来てももう遅い。


「おい、それを俺達にもよこせ!」

 片付いた厨房でカレーを楽しんでいた私達に横暴な言葉を投げ掛ける如何にもガラの悪そうな少年。


「旨い物が食いたきゃアタイの手伝いをしなって言ったよな?」

 少し凄味を聞かせ私はその少年に対して言い放つ。


「ココは力が強い者が絶対だ、寄越さないなら痛い目を見る事になるぜ?」

 ガラの悪い少年は匂いに釣られた他の少年達に目配せをし、私達からカレーを奪おうと身構える。

 その勢いは由、だが相手の力量も計れないのは頂けない。


「そうかい? なら奪えるものなら奪ってみな」

 私はそう啖呵を切り左手に不解の盾を装備する。

 厨房と食堂を繋ぐ出入り口は一箇所、どれだけ人数が多かったとしても、そこを押さえてしまえば戦闘行為を行えるのは常に一人から精々二人が限度。

 幸いな事にまだ少年達は誰一人厨房に足を踏み入れてはいない。

 更にメタな事を言ってしまえば団の最下級の者達はどれだけ強かったとしても攻撃関連熟練(スキル)は二十に満たない程度で間違いないだろう。

 そんな相手に私が負ける訳が無い。

 素早く厨房の出入り口に駆け寄り勢いをそのままに盾を振り抜く。

 盾を打ち付けられた少年はその勢いを殺す事が出来ずにその場から吹っ飛んだ。


「お前達が信じて疑いもしなかった強者ってものを教えてやろう!」

 突然ふっ飛ばされた少年に目を奪われた他の者達に私はそうがなった。

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