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05・抗争勢力

「……ん」

 重い瞼を開け意識が覚醒する。

 世話になっていた食事処でリンと言葉を重ねていたはずだが、いつの間にか机に突っ伏して眠っていたようだった。

 だが私は眠っていたと云う事実に違和感を感じた。

 今までに二度、いや三度だったか?

 あの時は抗い難い眠気に襲われ、その吸い込まれる様な睡魔に身を任せた時には現実(リアル)とも感じられる様な妙な夢を体験した。

 だが先程はどうだった?

 いつ寝たのかも分からず、あの妙な夢も体験していない。

 あったのは睡眠から目覚めたと云う感覚だけだ。


「リン、起きて。今日はフェイバーに行って銃器の購入するんだろ?」

「……んあ?」

 寝惚けながら返事をするリン。

 昨日スミソニアの街に戻ってから動作についての検証をあれこれ話してたのだが、今のリンでは自らの身を守るにしても弓では腰が引けてしまっている状態ではそれすらままならないと云う結論に達した。

 なら同じ物理遠距離攻撃としてして【銃器】なら問題無いだろうと云う事になったのである。


「でも銃器なんて私に扱えるのかなぁ……?」

 リンは机に突っ伏していた故に乱れた髪を掻き上げながらそんな事を漏らす。


「う~ん、エデンと同じ仕様ならこっちの銃器も売られているのは必要熟練が二十からの物だと思うんだよね」

 【銃器】と云う熟練(スキル)は少々癖があり、それで扱う武器もその熟練(スキル)に見合っていない物が用意されている。

 様々なモデルの銃器が用意されてはいるのだが、他の武器とは異なり最低必要熟練(スキル)は二十からと熟練(スキル)上げをはじめてスグの頃は全く使い物にならない武器として知られている。

 熟練(スキル)が足りない状態であっても上位の武器は持つ事は可能だし、それを使って攻撃を行う事も可能ではある。

 だがその武器が求める熟練(スキル)が足りない場合、ひとつ低い毎に技の成功率は一割ずつ落ち込むのである。

 つまりエデンと同じ様に売られている銃が熟練(スキル)二十からの物であるなら、攻撃と云う技を使用しても熟練(スキル)値に達していて技の成功率は八割、なので攻撃と云う技が実際に効果として現れはじめるのはその熟練(スキル)が十二以上になった時にやっと一割の確率で命中判定が発生する事となる。

 なのでキャラに銃器を持たせる場合にはある程度資金的にも余裕が生じている二人目以降のキャラで、しかも装備の要求する熟練(スキル)に到達するまでひたすら損傷を耐え続けるか、盾役を用意した上で安全に熟練(スキル)を上げるのがエデンでは半ば常識として扱われていた。


「グレイビーちゃんは良いよね……刀剣盾って維持費的にはほぼ出費の無い武器だから熟練(スキル)上げしてても資金難に陥る事なんて無いし……」

 リンはそんな恨み節を私に向ける。


「そうは言われてもアタイだって相方に合わせて刀剣から弓に転向して、そこから更に刀剣に戻すって感じで結構遠回りしてるよ。本家の方では他人なんて気にしないで自分の思うままのスタイルを貫けたけど、こっちじゃそう云う訳にもいかないでしょ」

 ゲームとして遊んでいた頃は自身が理想とする熟練(スキル)構成で突っ走り、それを押し通しても参加しているユーザーもそれなりに存在してが故に何とかなっていた。

 だがこちらでは料理と云う個人では消費できない程の物を作り出したとしても手に余るのは確実なのは分かっている。

 未だに何故私がこの世界に放り込まれたか不透明な部分は多いが、だからといってそれだけに傾倒した動きをするつもりも無い。

 エデンに似た場所でその知識と経験が役にたつなら、使命感などにとらわれず楽しんでしまった方が良いと私は思っている。

 だからこそ好きな事を主軸にこの世界を楽しみたいと云う気持ちが大きいのもまた事実なのである。


「それと、やっぱり気になってしまうのは資金の事だよ……」

 リンは気不味そうに漏らす。


「それは出世払いって事で! 何なら本家のエデンで再開した時にでも請求するから覚悟しておいて」

 現状の自分の手持ちはアンビティオで稼いではいたものの、銃器の熟練(スキル)上げ資金を持つとなるとそこまで余裕のあるものでは無い。

 自分独りならと思っていたが、こう様々な人達と出会う機会が多いなら、それも考えた上での資金繰りも考えなけれんばいけないのかもしれない。

 気付かれな様にリンには明るく返してみたものの、資金繰りについて少しだけ気を向けたのだった。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「いらっしゃい、こんな辺鄙な場所まで御苦労なこった。泊まりで良いのかい?」

 スミソニアから北に伸びる街道を徒歩で二日程歩いた山の麓に、その山から取れる鉱石を加工し様々な鍛冶製品を作り出す事で成り立っているフェイバーと呼ばれる大きな町に到着していた。

 そして適当な宿に入ったのだが、そのカウンター居た男はやたらと小柄で宿屋を営む親父と云うにはそのイメージから離れたものだった。


「えぇ、しばらく泊まる事になるだろうね」

「嬢ちゃん達はこんな採掘と鍛冶でしか生活できない土地に何の用で来たんだい?」

「この土地は鍛冶も有名だが、それと同じくらい銃器の生産もだろ。アタイ達はそれを求めて来たんだよ」

「ほう、嬢ちゃん達は銃器を買いに来たのかい? あんな扱いづらい武器を買いに来るなんて物好きなモンだな」

 カウンター越しに小柄な男は苦笑交じりにそんな言葉を返す。


「本当、ある程度扱い慣れるまでまともに使えない武器を使おうなんて自分でも物好きだって思うよ。でも、その有用性は大きいから少ないながらも使う人が絶えないのだろ?」

「違いねぇ、だが銃が欲しいなら少し面倒があるかもしれんぞ」

 意味ありげに男は漏らす。


「どういう事?」

 その男の言葉に反応を反したのはリンだった。


「言い辛い事だがこの町はみっつの勢力によって成り立っていると言っても過言じゃないんだよ……」

 苦々しく宿屋の主人はリンの反応に対して答えた。


「あぁ、そりゃ確かに面倒だねぇ。それで、この町はどんな勢力が幅を効かせているの?」

 溜息を吐きながら私は返す。

 この町での銃器入手は勢力仕事(クエスト)と連動している。

 勢力仕事(クエスト)とは複数の勢力が対立している場所のいずれかに属す事で発生し、勢力に属する事でその所属からの評価や信頼は得られるが、対立する勢力からは敵対視されたり行動が制限されたりする。

 エデンでも随所で様々な勢力が絡み合い、その世界を構築していた。

 こちらでも勢力同士の対立はあるだろうと思っていたが、まさか銃器販売でそれがあるとは思っていなかった。

 なぜなら入手する勢力によってはプレイヤー同士であっても敵対関係になってしまう事もあるのがこの勢力仕事(クエスト)と云う存在である。

 それ故に私は必要最低限だけの戦闘だけで、あとは生産に傾倒し、スローライフを楽しんでいた。


「話すとなると結構な時間必要になるが、幸いな事にオイラの宿は食事も出しているんだ」

「商売上手なこった、だがそう云うのは嫌いじゃない」

 そう言って小柄な宿屋の主人に案内されるがままに身を委ねるのだった。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「なんでわざわざ一番面倒そうな所を選ぶかねぇ……」

 このフェイバーの町を動かしている勢力はみっつ存在し、この町の自治を任させおり貴族でもあるティーメ家。

 この町の加工品を一手に担い、経済力を牛耳っているゴルダ商会。

 そして貴族の庇護から零れた者達や鉱山から加工前の鉱石を買い叩かれる経済的弱者達が身を寄せ合い、半ばギャング化してしまっているマイト団。

 銃器を入手する為にはこのいずれかの勢力に(くみ)した上で、ある程度の貢献を積み重ねる事で購入が可能になるとの事だった。

 また勢力に属する事で銃器に関する独自の熟練(スキル)も得られるとの事だった。

 ゲームであったエデンにも条件で得られる熟練(スキル)は存在したが、銃器に関してものは向こうでは無かった。

 やはり細かな点でむこうとこちらでは色々と違っている事を実感させられる。

 フェイバーと云う町はこのみっつの勢力の微妙なバランスの上で成り立っている町と云うのが、あの小柄な宿屋の親父から聞いた話である。

 その様な話を聞いた上でリンと共に来たのはフェイバーでも更に鉱山に近い、半ばスラム化した場所に訪れていた。


「意外だった?」

 リンは私の顔色を伺うように聞いてくる。


「まぁね、よければ何故一番面倒そうな勢力を選んだのか聞かせて貰いたいね」

 マイト団は宿屋のオヤジからの話によれば孤児達が身を寄せ合い、互いを守っていると言えば聞こえは良いが、暴力によって上下関係が成立する無法の集団でもあるとの事だった。

 戦闘行為を避け、生産活動で何とかしようと思っていたリンのイメージとは真逆の思想を持つであろう集団を選択したのにはどうも言葉に出来ない違和感を感じていた。


「それはね……」

 意味ありげに一呼吸置いてリンは言葉を続けた。


「世間的には私の家庭って複雑な環境って呼ばれるものだったんだ。子供の頃は親には放置される事が多くてご飯が食べられない事もしょっちゅうだったんだ……」

 覚悟を決めて言葉を続けたリンだったが、その声は言葉を紡ぐ度に弱くなり、最後はほとんど聞き取る事が難しい程になってしまっていた。

 スミソニアの食事処でかなりの言葉を重ねてはいたが、お互いの現実(リアル)についてはほぼ触れる事は無かった。

 まぁ私自身、現実(リアル)の記憶自体がこれといって特筆する事も無く、所々抜け落ちている事もあり、リンの様に話したく無い部分とかも無かった事もあり、話題としてこちらの世界の事ばかりになってしまっていたと云うのもあったのだろう。


「だからね、もしそうやって困っている子が集まっているなら何か力になってあげられる事もあるんじゃないかって、そう思ったの」

 先程弱く発していた言葉を振りほどく様に息を深く吸い込んだ後に彼女はそうやって一気に自身の想いを吐き出した。


「そう云う事ならアタイも助力しようじゃないか。出来る事はアンタと同じで多くは無いだろうけどね」

 住人(NPC) 達が現実(リアル)の人と錯覚する程に柔軟な対応をする様になってから結構な時間が経っている。

 今では私自身もこの世界の住人(NPC)は本当に生きているのでは無いかと錯覚する事も多くなってきている。

 そんな世界で自身の過去の境遇に似た環境で生活をしている者達が居るのなら、それに感情を揺さぶられる事があったとしても不思議な事ではない。


「ここ…だよね?」

 そうやってリンと言葉を交わしながら歩みを進めていると教えてもらった場所には木造ではあるものの堅固な作りの立派な屋敷が存在していた。

 周りは荒屋ばかりだと云うのに、その場違い的な建物にリンが私に自信無さ気に聞いて来る。


「力を誇示する為の象徴としては悪くないし、ゲームだったとしても存在を際立たせる符号としての意味合いとしてもお手本通りといった感じだね」

 私はマイト団の拠点であろう建物を前にして、その素直な感想を述べる。


「ともかく銃を手に入れる為にも住人(NPC)に話を聞こうじゃないか……」

「そうね……」

 そうリンに告げて私は立地的に不釣り合いな立派なドア開け、その建物の中に足を踏み入れた。

 リンはその私の堂々とした感じに気圧される様子で曖昧な相槌を打ちつつ、後に続く。

 マイト団の集うであろう建物の中は意外にこざっぱりしており、映像作品でよく見られる様な朱の絨毯が敷き詰められた広間となっていた。


「いらっしゃい、今日は何用で?」

 扉を開け入ってきた人物に気が付き、その奥で控えていた少年が近付きながらそう声を掛けて来る。


「あの、銃が欲しくてここに来たんですけど……」

 背の低い私に隠れる様にしていたリンが、気さくに声掛けして来た少年に安堵した様子でその目的を告げる。


「銃が欲しいだって? ゴルダ商会のヤツがすでにお前と取引してるだろ、オイラ達を笑いに来たなら帰ってくれ!」

 屋敷に入って来た私達に声を掛けて来た少年はリンの姿を確認すると一瞬驚いた表情を見せた後、まるで敵に対する様に半ば怒鳴かの如く言葉を投げ付けて来た。

 何故ゴルダ商会?

 窓口を担当しているであろう少年はリンの事を知っている様だが、私達はフェイバーに昨日到着したばかりでこの町の事は知らないに等しい。

 私やリンの預かり知らぬ所で面倒事に巻き込まれたのだろう事が容易に想像できた。

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