04・アクティブ マーメイド
今回の視点は主人公とは別行動になってしまった幼女組と……
「白ちゃん、ごめんねぇ」
先程の戦闘でボロボロになって、真っ白な身体の所々に裂傷によって赤く染まってしまった守り役を涙を零しながら謝り、[生命小回復]を何度も使ってその傷を治す。
ツヨシ兄ちゃん達を探しに行くにしてもミラと白ちゃんだけではまだまだ弱くて、旅に出るには力不足なのを実感する。
それでも最近は巨大な蛇も白ちゃんは余裕を持って倒す事ができる様になったので、それよりも多少強い敵でさらなる成長を試みたのだが、それが大失敗。
【鑑定】の熟練を持っていなければ白ちゃんの状態も分からないまま、ミランダの大切な友人は永遠に失われるところだった。
「蛇を簡単に倒せるようになったら次は鹿か猪だってお姉ちゃんは言ってたのに……お姉ちゃんの嘘つき……」
傷だらけでボロボロになった白ちゃんを力無く抱え、思わず零してしまう。
思えば白ちゃんの訓練している間、ツヨシ兄ちゃんかお姉ちゃんのどちらかは必ず後方に控えており、危なくなるといつもその前に助けてくれていた。
イリュシオンの地下水道で意識を取り戻し、ツヨシ兄ちゃん達と離れ離れになってしまってから街の近場の大蛇で白ちゃんの訓練をしている時はあまり気にならなかったが、思い出してみれば白ちゃんと戦闘訓練をはじめてスグの頃はいつもツヨシ兄ちゃんやお姉ちゃんが手を貸してくれていたっけ。
「ミラは自分の足で想いを叶えられる人魚だから、泣いてちゃ駄目なの!」
お姉ちゃんから聞いた人魚姫のお話はせっかく地上を歩く足を貰ったなら、自分から幸せを歩いて迎えに行かなきゃ幸せなんて掴めないんだよって聞いたの。
そしてお姉ちゃんはミラも地上を回遊する人魚なんだよって教えてくれたの。
ミラは人の子なのに何で人魚なの? とも思ったが、一人になって自分の足で目的地を決めなければ何も出来ない今の状態になって、お姉ちゃんの言いたかった事が何となくだけど分かったの。
だからそうやって自分に言い聞かせる様にわざと声に出して言ってみる。
そうする事で自分の中の不安が少しだけ軽くなった気持ちになる。
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「畑山さん、六十一号関連のですか?」
私のデスクに腰を預けながら資料の紙束に目を通している人物に問いかける。
「関係あると言えばそうだけど、それとは別件。どうも彼等と関わる対象は何かと想定外の事を起こして色々な部署に火種を振りまくよねぇ……」
資料を捲りながら男は髪を掻き上げながら面倒そうに言葉を返してくれる。
「システムに無い行動登録の次は何が起こったんです?」
興味深そうに資料を確認している男に聞いた。
「開発部からの報告書なんだけど、システムの一部が自我を持った可能性があるんだって。自己生成システムを採用しているとは言え、人工知能の範疇を超えて自我となると、門外漢の自分でも突拍子も無い事が起こっている事は理解できるよ」
そう眉根に深い溝を作りながら言葉を漏らす畑山さん。
「え? そんな報告書、私の所には届いて無いわよ?」
白衣の女は畑山さんが手にしている資料について疑問を投げかける。
「そりゃそうでしょ、前回の会議の時はそれ程問題にとは思わなかったから開発部に資料投げて白雪姫には報告してなかったからな。そしたらデスクに面白そうな物が先程届いたから、勝手に見させて貰ってるのよ」
「はぁ? 貴方、私宛の資料を勝手に見てるの? 確かに私は年下で、貴方とは同期だけど、上司宛の資料を勝手に見るのは問題じゃないのかなぁ? それと私の事を白雪姫と呼ぶな!」
脳生理学の研究室で研鑽を重ねていた白座雪子はこの部署が始動した頃からのメンバーで、畑山さんとは同期の関係だが、同時にこの部署のチーフでもある。
彼は名字と名前から一文字ずつ取り、女性でもあった事からこの同期の畑山と云う男は私の事を白雪姫の愛称で呼んでいるがその呼ばれ方を気に入ってはいない。
すでにこのプロジェクト終焉の牢獄、その頭文字を取れば奇しくもE.D.E.Nと同様だった事から、こちらは裏エデンなどとプロジェクトに参加している者達から呼ばれている。
その裏エデンが動き出してから十年近くが過ぎようとしているが、植物状態だったり精神異常者、もしくは重篤な犯罪者の精神を直接仮想世界に接続し、その後の回復や精神疾患の治療、構成プログラムを促すと云う目的で三年程前に立ち上げられた比較的新しい部署である。
この見方によっては非人道的な表立って発表も出来ない牢獄の様な環境から終終の牢獄などと皮肉めいたプロジェクト名が付けられているが、その目的は被検体から膨大なデータを収集し、柔軟な対応を可能とする人口知能を構築するのが目的である。
同期の畑山さんは被検体に感情移入が過ぎるきらいがあるが、現在はその関係も大きな問題が生じていない以上、上司の権限を振るうのも躊躇われる。
「なんなのこれ……これが事実ならプロジェクトは成功とも言えるけど、同時にプロジェクトが崩壊してしまう可能性が高い内容じゃない!」
畑山さんから資料を奪い返した私はその資料に書かれていた内容に驚愕する。
被検体と呼ばれる者たちは裏エデンにおいて、次の世代の技術革新の核として極秘裏に進められていたものであるが、畑山さんが手にして資料に書かれていたものはその根本を台無しにするかもしれない事柄が記されていたのである。
内容は先日行われた裏エデンで行われたアップデートの事と、それに伴って発生した事柄が記載されていた。
先日行われたアップデートについては被検体達から収集したデータにより、裏エデンにおける住人達をより柔軟な対応がある程度可能になった事が記されていた。
これ自体は概ね上手く実装できたとの事だが、一部の住人が自我に近いものを持ち、その役割を逸脱して勝手な行動をはじめるモノが現れたとの事だった。
自我を持つ人工知能、その点だけ見ればプロジェクトそのものが一気に加速した様にもみて取れる。
本来であればそこに到達するまでは膨大な被検体のデータを収集し、それを精査、反映させる事を積み重ねて行き、完成に至る予定であった。
最終的にはそれらをパッケージ化し、広く普及させられる基盤を整えるのがプロジェクトの目的である。
現在のプログラムと云う存在は様々なツールを使い、直接コードを入力していく必要なほとんど無い。
それらで作られたものを人工知能を併用して運用し、人工知能がそれらのデバッグや修正を行う事でより人への負担が軽減された状態で動かされているのが殆どだ。
だが人工知能が行う修正は無駄な情報を多く吐き出してしまう為、現在のプログラマーはそれらの無駄に吐き出されたソースをより無駄なく最適化する事を生業にする者達を指すものに変化していた。
それ所、柔軟な人工知能と云うものが実現化すれば、その無駄な情報を吐き出す事も少なくなり、人類の発展に大きく貢献できる。
だがそれはパッケージ化できる状態でなければ意味が無い。
しかし今回、自我に似たものを持つ住人についての情報は追加したパッケージには該当するものが見当たらず、これまで構築してきたそれらのどこか、もしくは全体にバラけて存在するのではないかと云う推測の報告だった。
この様な状態になってしまうと現在のプログラマーでは符号を読み解く事が出来ず、直接符号を書き込みシステムを作り出す上位の職種である者達の力に頼るしか無い。
それらの上位職種である直接符号を書き込む者もプログラマーである事には違いないのだが、これを行えるだけの技術を持った者は現在では殆ど存在せず、それらを行える人物は敬意を込めて電算魔術師などと呼ばれ、プログラマーとは別格に扱われる。
報告書の中に記されている内容は自我を獲得したであろう人工知能の情報がどこに存在するかを捜索し、パッケージとして纏める為に開発チームが抱えている数少ない電算魔術師達が寝食を投げ捨ててまで作業している事が記されていた。
これは日夜裏エデンを矛盾無く動かす為に汚い情報吐き出す人工知能と電算魔術師との戦争と言い換えても良い内容だった。
最悪は裏エデンの稼働を止めてまで自我を持った住人の捜索をしなければならない。
そうなると被検体達のデータの蓄積性が失われる可能性も高くなり、被検体達の自我すら崩壊する危険性も孕んでいる。
現在稼働している裏エデンと云うシステムは被検体と直接機械を接続する事でその体を成しているが、その中での経験や記憶と云うものは裏エデンのシステムに大きく依存している部分が大きく、なぜそれで成り立っているのか、理解が及ばないまま運用されている面がある。
もちろん過去には裏エデンから帰還し、社会生活に戻っている者も少ないながら存在はしている。
しかしそれは裏エデンと云うシステムが稼働している上での帰還である。
そのシステムの裏打ちが無い状態で帰還させた場合、どの様な状態になるのかは実証する為のデータが存在しなかった。
帰還者に何か問題があったとしても重篤な犯罪者ならまだ社会の風当たりはそれ程強くはならないだろうが、これがそうでない者達だった場合、最悪は母体の組織すら存続が危ぶまれる事になる。
「あぁ、それと…」
畑山さんは頭を抱えている私に対して、更なる頭痛の種を差し出して来たのだった。
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「お嬢さん、本当に間違いないの?」
求められた魔法書を用意しながら魔術師ギルドの受付のお姉さんは困惑した様子で聞いてきたの。
「うん【命中補助】と【生命回復】が欲しいの」
ミラが今覚えている身体魔法は【失明】【動体視力】【生命小回復】のみっつ。
【失明】は対象に対して視界を悪くして攻撃を当て難くし、【動体視力】は相手の動きが良く見える様になって攻撃を避けやすくする魔法、そして【生命小回復】は白ちゃんの体力回復をする為に良く使っている魔法。
今までのその魔法の他に白ちゃんに【命中補助】を使って今よりも沢山の攻撃を当てられるようにし、【生命回復】で今までよりも白ちゃんの体力を大きく回復させようと思ってお姉さんに魔法を売ってくれる様に頼んだの。
「お使いかな? ちゃんとお金は持ってる?」
心配したようにお姉さんは聞いてくるの。
ちゃんとお金は持ってるし、お使いでも無いもん!
「ミラ、ちゃんと使えるもん!」
白ちゃんを抱えたまま【生命小回復】を使って、ミラが魔法を使える事を見せる。
「魔法は……まホ、マ、mah……」
ミラが魔法を使ってみせるとお姉さんは何だか分からない事を言ったと思ったら、そのまま人形の様に全く動かなくなっちゃった……
ミラが欲しかった魔法書ふたつを持ったままだから、お金を置いて持って行く事もできない、困ったな。
「お嬢ちゃんは小さいのに魔法が使えるなんて凄いね」
「……あれ?」
少しのあいだ真っ暗になったと思ったら受付のお姉さんの手にさっきまで持ってた魔法書は無くなっていて、でもミラが魔法を白ちゃんに使ったのを知っているみたいで……
すぐにミラが欲しかった魔法書を用意してくれたけど、何だかおかしな気分だったの。
「これより凄い魔法はどこに行けば買えますか?」
お姉さんの動きが無くなって少しのあいだ真っ暗になったのは気になるけど、それよりも魔法書が買える場所をその用意してくれた魔法書のお金と交換した時に受付のお姉さんに聞いてみる。
「これより上位の魔法となると買えるのはケンニスだけだよ」
「ケンニス?」
「湖に浮かぶ街でとても幻想的よ。アンビティオの更に先の街になるわ」
魔術師ギルドのお姉さんはそう教えてくれた。
一杯の蛇肉を売ったお金だったけど、魔法書をふたつ買っただけでミラの残りのお金は凄く少なくなっちゃった。
アンビティオってあの嫌な人が居た闘技場のある街だっけ?
お姉ちゃん達とあそこに行った時は馬車でだったけど、お金足りるかなぁ?
白ちゃんに新しい魔法を試してみて、それからどうするか考えた方が良いのかも。
自分の足で新しい場所に向かえる人魚姫でも、そこに行けるだけの準備をしなきゃお腹空いて哀しい気持ちになっちゃうものね。
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