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03・検証

「アタイが前で踏ん張ってるんだ、何をビビる事があるんだい?」

「──は、はい!」

 私はリンと共にスミソニア周辺に生息している熟練(スキル)上げ定番とも言える大蛇を相手ながら叱咤した。

 勢いに押されまいと彼女は返事はするものの、腰が引けたままでは引き絞った弓では大蛇に届くのがやっとで傷を与える事は出来なかった。


「ほぃ、っと」

 私を飲み込もうと鎌首を上げた大蛇に対し、私は【盾攻撃】を合わせて防御すると共にその太い躯体を仰け反らせる。

 その大きく仰け反った躯体に私は自身の身体を回転させ、その遠心力を利用して持っていたブロードソードを力任せに叩き込む。

 リンの攻撃とは対象的に私の勢いの乗ったそれは大蛇の太い胴と頭を無惨にも分離させたのだった。


「そんな状態じゃお金は掛かっても銃器の方が良いのかねぇ……」

 エデンで物理的な遠距離攻撃方法は弓の他に銃器の存在もある。

 それはこのエデンに似た世界でも同様だった。

 弓は装備自体は銃器に比べて軽量だが、その攻撃力は扱う者の筋力に依存する。

 対して銃器はどんな相手に対しても一定のダメージが保証されるが、装備としては重く、またその銃弾も矢に比べたら十倍近く重く、また自身で作るにしても高価である。

 最終的にはどちらも筋力と云う熟練(スキル)は必要になるのは変わらないが、扱いの方向性は大きく異なる。


 この世界はエデンのそれと似ているが、ツヨシ君と行動を共にしてた事でゲームであるエデンとは異なる箇所もいくつか見付けている。

 そのひとつが各熟練(スキル)に用意されている技だが、そのおおまかな部分はエデンと同様に動き(モーション)は強制的ではあるが、その動きになぞった上で力の加減などを意識的に行えば、エデンのそれよりも効果が大きくなったり、追加の効果が得られると云う事だった。

 それは逆を言えば先程のリンの様に例え通常の攻撃であっても腰が引けた状態で行っては本来の効果を得られない事を意味している。


「ちょっと、今のは何なのよ?」

 リンが扱う武器に思いを巡らせていた私にその彼女から叫ぶような疑問の声があがる。


「何って……何が?」

 彼女が何を言いたいのか理解出来ずに私は聞き返した。


「ここは精神は閉じ込められているけどエデンと同じゲームの世界なのよね?」

「そうだけど?」

「なら、おかしいじゃない。何でゲーム以外の動作が出来るの?」

 この世界はエデンと云うゲームを基礎として構築され、作られた世界であるのは今までの経験から間違いないものだと私は確信していた。

 それは昨晩彼女と情報共有した際にも話をした事だった。

 それ故に何故彼女が改まってその事を確認してきたのかが理解できなかったし、ゲーム以外の動作と言われても何がそうなのか分からなかった。


「さっきの動きから見るに最後の一連の動きは【盾攻撃】からの【通常攻撃】よね? それにしてはどちらの動きもゲーム世界だとしたらその効果はゲームとしては有り得ないものよ」

 エデンと同様とするなら盾攻撃を行っても先程の様な大きな仰け反りは起こらないし、身体を回転させてからの【通常攻撃】で勢いを乗せた攻撃で威力が増す事も無い。

 だがそれはエデンなら(・・・・・)だ。

 ここはエデンと似てはいるが別の世界だ、エデンと同様である訳がない。


「昨日は関係ないと思ってたから話てはいなかったけど、現実(リアル)ではプログラマーをしていたの。そのプログラマーとしての意見から言わせて貰うなら、さっきのグレイビーちゃんの動きに対して返された結果はゲームとして見たら有り得ない事(・・・・・・)なのよ」

「だからアタイはちゃん付けされる歳じゃ無いんだが……」

 ちゃん付けされるのは多少気になるが、そう熱量を持って言葉にする彼女だが、何が有り得ない事なのか私は理解が出来ずに居た。


「いい? プログラムってのはね、予め用意されたものに対してその結果を返す事しか出来ないの。ここがエデンと同じゲーム世界だとしたなら、グレイビーちゃんの先程の【盾攻撃】と【通常攻撃】と云う技を使った事に対しての決まった結果しか返さない。それ以外の結果を返すとしたら、特定の行動をした際に別の判定を用いたものを予め用意しておかない限り、別の結果を返すって事は有り得ない訳、それは理解してもらえる?」

 そう説明され、ようやく彼女の言いたい事を理解した。

 つまりより効率を求めて動きを工夫したつもりだったが、その動きに対してのプログラムが存在しなければ与えられる結果としては通常の【盾攻撃】であり【通常攻撃】と変わらないと云う訳だ。


「なら、その理屈ならリンの腰が引けて腕の力だけで放った【通常攻撃】だっておかしいって事になるんじゃいかい?」

 腰が引けたまま使った【通常攻撃】はエデンで使用するそれよりも威力が低いものだった。

 リンの理屈なら、その様な状態のプログラムが存在しなければどんな体勢で使う【通常攻撃】であっても一定量の威力の結果を返さなければおかしいと云う話になる。


「そうね……」

 指摘されその答えを出せずに力無く言葉を返すリン。


「何にしても今はリンの戦闘能力向上の為に来ているんだ。検証や考察は後にしようじゃないか」

 そう言いながら私は飛び掛かって来た大蛇に対し、自身の半身を隠す程の盾を大きく振るいその攻撃を去なした。




「出来てしまったね」

 リンからの疑問を投げ掛けられた後、本来のエデンには存在しなかった効果を出す動きの検証を行いながら彼女の熟練(スキル)上げを行った。

 結果を言えば効果を上げる為の動きに似たエモートを挟む事で同様の事が行える事が分かった。

 リンの言い分が正しいのであれば、エモートとの掛け合わせによって効果を上昇させる技が存在する事を示唆していた。


「ねぇグレイビーちゃん、ダメージを上げる為の効果がではじめたのはいつ頃から?」

 おもむろにリンがそんな事を聞いてくる。


「えっと、ツヨシ君と出会ってスグの頃だから……」

 自身の記憶を遡り、どれくらいの時間が経過していたのか記憶を遡る。


「現実時間で一ヶ月半くらい前になるのかな?」

 私がこの世界に来てから現実世界でどれだけの時間が経過しているのか正直な事を言えば分かっていない。

 この世界での三日が現実世界での一日になる訳だが、現実世界とは異なり眠気が訪れる訳でも無く、こちらでの一日が早いサイクルで構成されている為にこれが現実世界との時間感覚をかなり狂わせる。

 一月半くらいと言ってはみたものの、本当にそれだけの時間が経過しているかどうかさえ怪しい状態だ。


「でも、アタイよりも前にこの世界に来て、エデンと違った動きをしていた馬鹿も居る事を考えると、アタイのそれよりももっと前からだと思うよ」

 馬鹿とはアンビティオの闘技場で出会ったネモィエの事だ。


「グレイビーちゃん、貴女今まで何人のプレイヤーと出会って来たの?」

 私の過去を振り返った言葉から半ば呆れる様な口調でリンは疑問の言葉を重ねる。


「リンで三人目だね」

「私はグレイビーちゃんよりも随分と前からこの世界に居るけど他のプレイヤーに会った事なんて無いから、それってかなり多くない?」

「そうかな? この世界がどれだけ広いかは知らないけど、分かっているだけでも六十人以上はこの世界に送り込まれているみただし、それぞれの街に一人づつくらいは居ても不思議じゃないと思うけどなぁ……」

 ツヨシ君が被検体六十一号と呼ばれていた事から、それだけの人数はこの世界に送り込まれていた事は確実だ。

 彼の様にこの世界から離脱した人も居るのだろうが、それでもある程度の人数はこの世界に残っていると推測できる。


「六十人以上って、なんでそんな事をグレイビーちゃんが知ってるの?」

 驚いた様に聞き返してくるリン。


「嫌な呼ばれ方だけど、この世界に送り込まれた人は管理側からは個人名じゃなくて被検体って言われているみたいなの。これは先日まで一緒に旅していたツヨシ君って子が六十一号だってのはその担当者から直接聞いているから、少なくともそれだけの人数がこの世界に送り込まれていた事になるよね」

 私はあの妖しげで軽薄そうな男の事を思い出しながら自身の知っている情報を明かす。


「昨日の話ではそんな事全然言って無かったよね?」

 昨晩の情報共有した時点では明かさなかった事実に困惑した様子でリンは聞き返してきた。


「プレイヤーが実験動物みたいな扱いをされているのは気分の良い話じゃないでしょ……だから、正直その話題には触れたくなかったんだよ。それよりも動きの違いで効果の増減がある事と、それらがエモーションを交えても再現可能かどうかの話題だったはずだろ?」

 卑怯だとは思ったが、自身の言葉を誤魔化す為に本来の話題に強引に戻そうとする。


「それよりも私の知らない事をグレイビーちゃんは色々と知っているみたいだから、その事についてじっくりと話し合いましょうか」

 ……誤魔化せなかった。

 リンは厳しい表情になり私の襟首を掴み引きずる様にスミソニアに戻るのだった。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「ちょっと気になってる事あるんだけどさ……」

「何?」

 スミソニアに戻り手伝いを行っていた食堂で今度こそ私が知っている事の全てを明かして落ち着いた頃、話題を変える為にリンに尋ねてみる。


「リンは五感全てを持ってるって事だけどさ、嗅覚についてはどうなの?」

「どうなの……とは?」

「ほら、この世界ってさ一部科学技術みたいなモノは存在しているけど、中世黄金時代と呼ばれていた時代でも下水道ってものが無かったが故に人の住む場所はそこらに中に汚物は撒き散らされ、それが原因で疫病も蔓延していた訳じゃない。なので、その中世を模したこの世界の(にお)いはどうなのかな? と、少し気になったんだよね」

 生命維持と云う観点からすれば触覚に伴う痛みと云うのは深刻な問題だとは思う。

 だが今の私にとってそれは何とでもなる事から、それよりも気になるのは嗅覚の方が気になって仕方がない。

 現実の歴史と同様に中世を模しているあろうこの世界が汚物まみれの耐え難い臭いで溢れている状態なら、それは痛みを感じるよりも深刻な問題である。


「真剣な顔して聞くから何かと思ったらそんな事?」

 そう言ってリンは笑い出す。


「この世界の建物って確かに中世時代のそれらと同じくトイレって存在しないけど、そもそも私も含めてトイレに行かなくて良い訳だから必要無いじゃない。臭いの原因が無いのにそんな汚物まみれの状態になると思う?」

 ひとしきりリンは大笑いした後、そう説明を返す。

 ……そうだった、ツヨシ君と地下水道に行った時に私自身が彼に説明した事を思い出す。


「だからそこらは心配しなくて良いんじゃないかな?」

 過去に他人に説明していた事を忘れ、気になっていた事に答えてくれたリンの顔を見るのが恥ずかしくなり、そっと視線を逸して私は自分を誤魔化すのだった。

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