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02・情報の共有

「何とか終わったけど、やっぱり稼ぎも熟練(スキル)の上がりも良くないねぇ」

 手伝いを終え、その賃金である報酬の少なさに溜息まじりに呟く。

 エデンでの工房や食堂の手伝いは仕事(クエスト)として扱われていた。

 この世界でもそれは同様で決まった時間帯で該当の熟練(スキル)を使い続ける事で報酬を得る事ができる。

 ただこの仕事(クエスト)は物資などを自身では入手できない初心者(ビギナー)向けのもので、その報酬も微々たるものだし熟練(スキル)の上がり方もその材料を用意しなくて良い分だけ上昇率も通常の熟練(スキル)使用時の五分の一程度に抑えられている。

 いくら試行回数が熟練(スキル)上げに必要とはいえ、はじめたばかりの者であればその状態であっても熟練度を上げられるが、流石に七十近くまで上昇してしまった熟練(スキル)では手伝いをしはじめてから上がっていない。


「流石にこの世界で材料入手するアテは無いにしても少しは自分の足で探してみようかね……」

 そうぼやきながら挨拶もしないまま食堂を後にしようとする。

 すると入り口のところで一人の人物がその壁に身を預けていた。

 気になってその人物を確認すると、昼に会ったあのエイリル族の女性だった。


「あんた……」

 驚いて思わず声を漏らす。


「お昼はお礼すら言えなかったので……一番大きな食堂で手伝ってるって言ってたのでお仕事終わるまで待ってました」

 すこしおどおどした様子で話すエイリル族の女性。


「会いに来たなら店に入ってくればよかったのに」

 なぜ気弱な感じでその女性が良い外で待っていったのか分からなかったので、そう言葉をかける。


「私……その、お金が無くてお店で食事とか出来ないので……」

 私の言葉に対し女性は弱々しく応えてくれる。

 エイリル族の女性の装備を確認してみるとツヨシ君の時とは違い、初期のものでは無く、それなりの物を身に着けている。

 それから考えると食堂を利用するにしても数十クレジットもあれば食事可能なの、に何故彼女がそこを利用せずに外で待っていたのか分からなかった。

 その様に思いを馳せていると彼女はおもむろにお腹をおさえ、空腹を示す動きを取る。


「お腹空いてるのかい?」

 そう聞きつつ私は荷物枠(インベントリ)からミラちゃんの為に作り過ぎてしまった感のあるハンバーガーを彼女に差し出す。


「アタイは料理人をしているグレイビーってんだ。これは名刺代わりみたいなモンさ。遠慮なく食ってくれ。アンタ、名前は?」

 腹を空かせているであろう女性にハンバーガーを差し出しながら聞く。


「……リンといいます。その、本当に頂いても?」

 私が差し出したハンバーガーに興味はあるものの、それを本当に受け取って良いものか決断できないようで聞き返してきた。


「構わないよ、それよりひとつ聞きたい事があるんだが良いかい?」

 言葉だけでは受け取ってもらえないと思い、差し出したハンバーガーをリンと名乗った彼女の手に半ば無理矢理持たせて聞く。


「アンタ、その姿から推測するにこの世界に来てからしばらく経っているようだが、何故お金が無い? エデンを全く知らない感じでも無い感じだろうから、そうなればますます金が無い状態と云うのが不思議でならない」

 エデンと云う端末の普及率から考えたら、その端末に付属しているエデンの世界を体験していない者は関わりの度合いの違いはあるにしても存在していないと言っても良い程だ。

 ツヨシ君の様な端末の使用が許可されていない歳でこちらの世界に来た者は例外になるが、その様な状況であるのが特殊な事だろう。。

 だとすればこの目の前の女性は少なからずエデンと云う世界に触れた事がある人物のはずである。

 ならばこのエデンと似たこの世界は本来のエデンと共通する事も多く、その知識を活かせば金を稼ぐ事はそれ程難しくは無いはずだ。

 現に私自身もこの世界に降り立ってからと云うもの混乱する事は多少あったものの、生活をするだけなら困る事の無い程の金は稼げている。


「……確かに私もエデンを体験した事はあります。でも似ているのはその見た目だけで攻撃を受ければその痛みは時が経つにつれ増すばかりですし、戦える人も極端に少ない為に生産だけで生活する事もままならない。あなたの様子からするとこの街以外から来たように思いますが、街を繋ぐ馬車なども無いに等しいのにどうやってこの街に来れたのでしょう?」

 少し戸惑った後に話しはじめた彼女は自身の中にある疑問をぶつけて来た。


「そうか、アンタは痛みを感じてしまうだね……」

 あのキャラクター選択の間で出会った白衣の男の話によればプレイヤーは視覚と聴覚の他に味覚、嗅覚、触覚のうちいずれかの感覚を持ってこの地に送られれると言っていた。

 私はそのうちの触覚を持っているようなのだが、その感覚持ちの中では特殊な存在らしく、その感じ方が極端に薄いらしい。

 だがこのリンと名乗った女性は管理側が認識している触覚の感じ方のそれと云う事なのだろう。

 触覚で感じるものの中には肌で感じる全ての感覚が備わっている為、当然その中には痛覚も含まれる。

 多分彼女もこの地に降り立ってスグの頃にはエデンと同様に戦闘行為を行った事だろうが、そこで敵性存在からの攻撃で耐え難い痛みを与えられたのだろう。

 そう云うのを経験してしまっては戦闘行為など普通なら出来るはずが無い。


「なんですかそれ? その言い方だとまるであなたは痛みを感じない様な言い方じゃないですか!」

 渡したハンバーガーを握り潰してしまうかの如く全身に力が入った状態で叫ぶように彼女は言う。


「アタイもある程度の痛みを感じる事はあるさ、だけど耐えられないものじゃない。そして他のプレイヤーに関しては痛みを全く感じず、味覚だったり嗅覚をその代わりに感じるプレイヤーが居る」

「まだ貴女(あなた)は初期の段階なのですね……」

 彼女は弱々しく言葉を返す。


「アタイもこれから感じる痛みは増すと云うのかい? だとしたらおかしな話だ。私の知っている限りで申し訳ないが、段階的に痛みが増して行く様な話では無かったよ。」

 ツヨシ君の担当だと云うあのふざけた格好をした白衣の男性は彼をこの世界から離脱させると言っていた。

 担当者によってその対処方法は異なるだろうと推測はできるが、段階を踏まず激しい痛みを感じるなら何かしらの対応の為に何かしらの接触があってもおかしくは無いはずだ。

 なのに私にしても彼女にしても自身の担当官と思われる存在からの接触は無い。


「その話はどこで聞いたのですか?」

 私の返答に彼女は疑問を投げかける。


「キャラクター選択の間だね」

「キャラクター選択の間って何です? まるでログアウトが出来るみたいに感じるのですが……」

「え?アンタ、ログアウトできないのかい? まぁ、ログアウトしたところで現実世界に戻れる訳じゃ無いんだがね」

 私は自身がログアウト出来ていたし、ツヨシ君もそうだったから彼女もそうだろうと思っていたのだが、どうやら全てのプレイヤーがログアウトできる訳では無いようだ。

 と、云うことはだ……プレイヤーそれぞれで細かい部分での仕様が異なるのが推測できる。

 私自身が痛みをそれ程感じないのはリンと名乗った彼女が言う通り初期の段階のものなのか、それとも私個人に与えられた仕様なのかは判断できるハズも無いが最悪を想定して今後を考慮した方が良いだろう。


「ここはエデンに似た世界で熟練(スキル)やそれを確認する為の表示が視界内に現れるけど、エデンと違ったのはログアウトが出来なかった事。だから私はこの世界がラノベやアニメで云うところの異世界転移なんだと自分に言い聞かせてここでどう生活を成り立たせるかを考えるようにしていたわ。でも貴女の話を聞く限り何者かによってこの世界に閉じ込められていると思って良いのかしら?」

「ゲームの中にその身を置くなんて技術はアタイ自身も知らないが、それは間違いないだろうね。何にしてもアタイとアンタはお互いを何も知らない。せっかく会いに訪ねて来てくれたんだ。渡したのも駄目にしたみたいだし、どこか落ち着いて美味いものでも食ってお互いを知ろうじゃないか」

 彼女に渡したハンバーガーはすでに握り潰され、光の粒子が上がりその形状を崩壊させていく状態になっていた。


「でも、私はお金が……」

「そんな事は明日心配すれば良いさ。このプレイヤーの極端に少ない世界で出会えた幸運をお互いに喜ぶとしようじゃないか」

 そう言って半ば強引にリンと名乗った女性を食事処に強引に入れた。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




「嬢ちゃん、昼は問題ないのかい?」

「オーナー昨晩は好き勝手してごめんよ。昼は昨晩作ったのだけで回せると思うけど確認だけ頼めるかい?」

 手伝いをしている食事処で色々作り、それをリンと名乗った女性に振る舞い朝までお互いのこれまでの事を語らっていた。

 そうして時間も忘れ話をしていていた所にオーナーの女性が今日の営業を心配して私に声を掛けて来た訳だ。


「もう昼営業の分は作ってあるって事なのかい?それは手際が良いね」

 そう言いながら作った料理の確認をする為にオーナーの女性は厨房に消えていった。

 【調理】と云う熟練(スキル)は融通が利かない。

 調子にのって作り過ぎてしまったハンバーガーを例にすれば、その材料はレタス一玉、トマト四個、パン二十個、ハンバーグ二十枚のセットで【調理】する事になる。

 そうすると出来上がるのは二十個のハンバーガーである。

 ひとつだけ欲しかったとしてもこの材料セットで出来上がる個数は二十個固定で出来上がるので、残り十九個は余ってしまう事になる。

 これが【調理】の融通が利かない部分だ。

 ハンバーガーは極端な例だったとしても大抵【調理】で出来上がる料理は複数個生成される。

 それ故、昨晩の様に色々な料理を振る舞おうとすると余る料理も大量に発生してしまう事になるのである。


「それじゃアタイは今日で手伝いを終える事をオーナーに伝えてくるよ」

 昨晩リンと色々話してみて分かった事だが、彼女は一番大きな感覚は触覚であるのは間違いないのだが、その他に味覚と僅かばかりながら嗅覚も発現していた。

 つまり五感の全てを持ってたのである。

 料理を振る舞っていて、これは美味しいだの、あれは香りが良いだのと言われ、それらを感じられない私はつい色々と料理を作り過ぎてしまい、結果として昼営業に出しても余る程の量を作ってしまった。

 そんな感じで料理を作り過ぎてしまった私だったが、今日の手伝いを最後に明日から彼女と一緒に行動を共にする事を決めていた。


 それは彼女が痛みを感じるが故に戦闘行為から離れてしまっていた事にも繋がるが、何よりも自身の装備の充実をはかる為だ。

 彼女はこの世界に来て、最初は戦闘一辺倒の戦闘職でこの世界を渡り歩こうと思っていたのだが、触覚による痛みを感じるせいでその思いは早々に打ち砕かれた。

 ならば防具を充実させれば対処できるだろうと云う事で、【裁縫】を上げつつその材料を自身で賄えばと思ったそうだ。

 だが感じる痛みは時間の経過と共に増大していき、その材料を集めるのさえ困難になってしまった。

 今では工房の手伝いを行いながら細々と日々の生活の為の稼ぎと【裁縫】の熟練(スキル)を上げる毎日であり、この街から離れられなくなっていたと云う訳だ。


 幸いにして私は格下相手の敵性存在になら盾役を行えるだけの熟練(スキル)は持っている。

 リンには後方からの火力を担ってもらい、これから生き抜く為の装備の材料を集めと、その作成をして貰うつもりでいた。

 その提案についてはすでに了承を貰っており、どうせなら行動は早い方が良いだとうと云う事で手伝いは今日で終了させ、明日から早速共に行動する事となった訳だ。

 とは言ってもリンはだいぶ前に戦う事を諦め、その装備なども手放していた為に明日は彼女の装備に関しての相談や購入になるのであるが、新しい人物との関わりに私の胸の内は期待感に膨らむのだった。

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