ストーカーは勇者?
まず脚が目に入った。
黒のニーソックスに包まれた柔らかな起伏。ソックスの縁太腿にむっちりと食い込んでいる。
スカートは裾を短めに詰めているのか、脚の付け根近くの危うい部分まで露わになっている。
スカートにかぶさる白鎧と、紺のローブが合わさっているような奇妙な形の鎧は打って変わって余り気味で、
胸元で左右合わせられた手は指先ぐらいしか覗けていない。
問題はその手に隠された……胸、というやつだが。
「おお……」
これは恐るべき事に、重ねた手の形だけへこんでいる。
乳房。それもおそらく巨乳、と分類されるサイズではないだろうか?
この女性の肉々しさと言ったら、太っているわけではないのに、要所要所でしっかり膨らんで艶めかしいラインを描いている。
男性平均程度の魔王がやや視線を下に向ける必要があり、そこにクリッと丸っこいチャーミングな目があった。
「えへへ」
はにかみ笑いも愛らしく、幼さの残る顔立ち。
「死ね」と陰口が飛んでくるのもうなずける美少女ぶりだ。
「あのキミは……」
魔王は当惑を隠せずに視線を右へ左へやった。
「えへへ、来ちゃった」
彼女が視線を追って顔を右へ左へ動かすと、左右で括った髪が小動物のように跳ね回る。根本から明るいカラーリングの髪。
揺れる髪……はしゃぐ少女。
見慣れた街並み……でも、どこか違う。いつもより塀も屋根も高い。
多分、昔の頃の思い出。
隣にいる女の子は、明るい髪の毛をしていてクリッと丸っこい目をしていて……
しっかり手を握りしめてくる。両手で、愛おしげに。
「魔王さん!」
思い出の少女と、目の前の少女の声が一つになった。
「エ……リン……?」
その一言で、彼女は弾かれたように腕を開いて抱きついて来た。
甘い匂いがする。鼻孔の奥まで染み込んで、頭を甘美な感覚に染めあげる匂い。
「会いたかった、魔王さん!」
耳に染み入る懐かしい声。
そうだ彼女は勇者だ。
なぜ今まで忘れていたのか、そんなことすら忘れるほどに懐かしい感覚に、魔王はたまらず彼女を抱き返した。離ればなれだった時間を引っ張り寄せるように強く、激しく、ひしゃげてもなお柔らかさを失わない乳房に驚嘆しながら。
「久しぶりだな、エリン」
よくぞこんなにも育った、勇者よ。
魔王はまだ気づいていない。
彼女の髪の毛が近頃よく見かけた金髪である事に。
冷ややかな視線をエリンに向ける四天王達の姿があったのだ。