マリアの手料理がストーカーに捨てられた!?
「まぁ、おかしいんですけどね」
声を上げたのは四天王達の中で唯一の例外、不死のハーデスだった。
子猫のように小首をかしげて、ムゥーと唸る。
「おかしいってどういうことだハーデス?」
魔王がハーデスに訊ねると、ハーデスは首を逆方向に傾げて、ムゥーとまた唸る。
「だってこの世界で、魔王様にアプローチする女性なんてありえませんし」
「さりげなく傷つくこと言ってくれるなハーデス」
「いや、そういうことじゃなくて……」
言いかけたハーデスの口を、まわりの四天王達が慌てて塞いだ。
不自然に口元を引きつらせ、愛想笑いを魔王ではなく明後日の方向に向ける。
「な、なんでもありませんよ」
「そうそうなんでもありません」
「ただひたすらに魔王様が女性から見て魅力ゼロってだけの話しだから」
「多角的な意味で死にたくなってきたよ俺……」
魔王は四天王達への殺意すら忘れてうなだれた。
四天王一同のはやしたてる声も、時間が過ぎるにつれて徐々に収まっていった。
次の朝になって郵便受けを見ると、血文字のラブレターが十通ほどまた差し込まれていた。そればかりか、自室に戻ろうとしたら自分の服の背中に金髪でハートマークの刺繍がほどこされていたのだから、四天王達でさえ言葉を失った。
「えっと……きっと可愛い子だと思いますよ?」
哀れみまじりの励ましを投げかけられると、さらに気が滅入る。
縫い付けられた髪の毛を抜いてくのも辛かった。
沈黙のまま視線を向けてくる四天王達に油汗まみれの笑顔を向けた。
「さぁみんな!飯の時間だ!食えオラァ!」
ヤケクソに叫んで恐怖を乗り切るしかなかった。
恐れを知らぬケダモノの心意気で餌をむさぼろう。マリアの手料理ならきっと怯えた心を励ましてくれる。
だが、見慣れた料理はどこにもない。
時同じくして、ハーデスが廊下からスカートをはためかせて駆け込んでくる。
「マリアの手料理、城の外に捨てられてるよ!」
魔王は凍りつき、四天王達は青ざめた。
「戦争がはじまるわ」
「死人が出るわね、これは」
物騒なヒソヒソ話を耳にしながら、魔王はプラス思考を心がけた。
食欲なんてとっくに消えていたから好都合。
むしろ吐きたいくらいだった。