ラブレター?
「平和だなあ、いやはや平和だ」
「それが、魔王がいう言葉ですか……」
四天王達と別れを告げて、郵便物を拾う。
郵便物のも、日常……
では、ない。
「……はい?」
ハートマークのシールが封がされた、可愛いらしい封筒。
魔王様へ、と丸文字で宛名が書かれている。差出人の名はない。
非日常がそこにあった。
「ラブ、レタ、ア?」
鼓動が大きく弾んだ。
『魔王様にも春が訪れたのですね』
いつのまに居たのか、四天王達が背後に立っていた。
「うわっ、お前たち!」
『一体誰からの文でしょうか?』
「プライベートな問題だから内緒に決まってるだろ!」
彼女達の手の届かない高みへ封筒を掲げる。
『私達は幼馴染みですから見てもいいでしょう!』
「な、なんだよそれ!いくら幼馴染みでもそれは無し!ありません!」
「吹っ飛ぶよ、こんなもんもらったら!ラブレターだよ!これは!」
今まで一度ももらった事のラブレターは、ミキサーに妖精を入れてかき混ぜたものよりもインパクトのある不思議現象。それが魔王にとってのラブレターだった。
「というわけでお前達、俺はちょっと妖精さんとランデブーしてくる!」
突き動かされたかのように魔王は駆け出した。
『あっ、魔王様!妖精さんとは?』
四天王達の呼ぶ声を振り切り、自室へと飛び込んだ。自室に入って、封筒を開き、便箋を取り出すと、
「これがラブレター……」
魔王は手紙を埋め尽くす赤い丸文字に目を通し始めた。
ふう、と嘆息して、魔王は目を閉じてまぶたを揉んだ。
目を開く。
なかなか個性的な手紙だ。まず、余白がない。便箋二十枚の表裏に、隅から隅までびっしりと赤い丸文字が埋め尽くされている。それもかなりの小文字である。四百字詰め原稿用紙換算で何十枚分、いや百枚は下らないか。
「封筒……おまえがんばったなあ」
二十枚の便箋を折り畳めば相当な分厚さになるが、それを納めていたことで封筒の口はばっくりと開き気味になっていて、その内側にも赤い丸小文字がびっしりと書き込まれていることがわかった。
「これが……ラブレター?」