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第9話 悩み

前回のあらすじ

老夫婦の所でお世話になることになった

 

 アメジストの町で発生した、異端審問官が処刑予定の魔女を連れて逃走するという前代未聞の事件から一ヶ月が過ぎた。


 ワルプルギス機関アメジスト支部は総力を注いで彼らの行方を追っていたが、未だに所在を掴むことが出来ずにいた。


 そんな状況を打破するために、アメジスト支部支部長のノワール・ブランはある人物を自分の下に呼び寄せた。




 ◇◇◇◇◇




 コンコン、と支部長室のドアをノックする音が響く。

 ソレにノワールが返事をすると、彼女が呼びつけていた人物が入室してきた。


 その人物は例の事件の唯一の生き残りで、左腕は無く、右目は眼帯で覆われていた。

 その人物はノワールが座る机の前までやって来ると、彼女に向かって敬礼をする。


「ルイ・ルイン一級異端審問官、参上いたしました」

「よく来てくれたわね、ルイ審問官」


 ノワールがそう言うと、ルイは手を下ろす。


「それで、本日は私に何用でしょうか?」

「貴女にしか出来ない仕事を任せようと思ってね」

「私に、ですか? それはいったい……」

「ゼクス・クレスタ元特一級異端審問官と、彼が連れ去ったSS級魔女の行方の捜索よ」


 ノワールがそう言った瞬間、ルイの左目に狂気と復讐に満ちた炎が灯る。

 彼女は無意識の内に、ノワールの方へと歩み寄っていた。


「その仕事、是非私にお任せを! いえ、私にやらせてください!!」

「貴女ならそう言うと思ったわ」


 ノワールはそう言い、机に肘をついてルイの方に身を寄せる。


「本日付けで、ルイ審問官を第零分室に配属するわ。つまり異動ね」


 第零分室というのは、主に規則違反をした異端審問官を処罰する部署のことだ。

 ちなみにルイが分室長を務め、ゼクスが配属されていた第三分室は、他支部の応援が主な仕事だった。


「それと技術部の方に依頼して、貴女のための義手を造ってもらったわ。後で受け取っておいて」

「私のためにそこまで……。ありがとうございます」


 ルイはそう言うと、ノワールに向かって深々と頭を下げる。


「お礼はいらないわ。その代わり、結果を示してちょうだい」

「はい。……それで、いくつか質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、答えられる範囲でなら」


 ノワールが頷きながらそう言うと、ルイは彼女の言葉に甘える。


「では……彼らの足取りは掴めているのですか?」

「いいえ。貴女には、まず最初にその足取りを掴んで欲しいの」

「畏まりました。次ですが、彼らを見つけた場合の対処方法は?」

「貴女に一存するわ」

「それは……その場で『処分』してしまっても構わない、ということですか?」


 ルイの言う『処分』というのは、ゼクス達を問答無用で殺すことを意味する。

 彼女の言葉に、ノワールは肯定するように首を振る。


「ええ。彼らをどうするかは、貴女の裁量に任せるわ」

「分かりました。それでは私はこれで失礼させていただきます」

「ええ。健闘を祈るわ」


 ルイはノワールに背を向けると、支部長室を後にした。

 その左目に、燃え盛る狂気と復讐の炎を宿らせながら―――。




 ◇◇◇◇◇




 僕とノインがこの集落―ガーネット村にやって来てから、一ヶ月半の時が過ぎた。


 最初の内は、一週間ほど滞在したら立ち去る予定だったけど、居心地が良すぎて結構な長期間滞在してしまっていた。


 と言うのも、この村の住人全員が、過去に何かしらの事情を抱えているようなのだ。

 だから僕達も名前を聞かれただけで、詳しい事情を聞いてくる人はスピアリ夫妻を除いて誰一人としていなかった。


 ソレを抜きにしても、この村の雰囲気がとても良くて、ついつい長居してしまっていた。




 ◇◇◇◇◇




 その日はなんだか寝付けなくて、気分転換に外へと出る。

 もちろん、【幻影仮装イリュージョン】での変装も忘れない。


 外に出て、無数の星と半分に欠けた月が浮かぶ夜空を、壁に寄りかかりながらぼうっと眺める。

 気候的には温暖な方なので、夜でも肌寒さは感じない。


 しばらくそうしていると、家からロミオさんが出て来た。


「何をしとるんじゃ、こんな夜中に?」

「ロミオさん……。いえ、なかなか寝付けなくて、気分転換に夜空を眺めに来たんです。そう言うロミオさんは?」

「ワシは、用を足しにの。寝室に戻ろうとしたら、玄関の方から物音がしての。気になって見に来たんじゃ」


 ロミオさんはそう言うと、僕の近くにあった木製のベンチに腰掛け、僕と同じように夜空を眺める。

 すると彼が、ポツリと呟いた。


「……何ぞ悩みでもあるんか?」

「えっ……?」


 その言葉に反応してロミオさんの方を向くと、彼はいつになく真剣な表情を浮かべていた。

 だけどそれも一瞬のことで、彼はすぐにいつもの飄々とした笑みを浮かべる。


「悩みがあるなら、この老いぼれに話してみぃ。気が晴れるかもしれんぞ?」

「そうですね……」


 僕はそう呟き、ロミオさんの言葉に甘えることにした。

 僕はロミオさんと共に夜空を眺めながら、今抱えている悩みを彼に打ち明ける。


「……このままでいいのかな? って、最近考えるようになったんです」

「……続けてくれ」

「はい……。ロミオさんも知っての通り、僕とノ……ナインは旅をしていたんです。と言っても、始めたばかりだったんですけど……。その途中でロミオさんと縁が出来て、この村に居着くようになったんですけど……」

「このまま村に居続けるか、それとも旅を再開するか悩んでいる、と」

「はい……」


 言いたかったことを先にロミオさんに言われ、それに肯定する。


「ふむ……。これはワシの友人の話なんじゃがな」


 ロミオさんはそう前置きして、語り始める。


「ヤツも今の君のように悩んでおったそうじゃ。ヤツは愛する女と共に駆け落ちしたが、二人を追う追手もいたそうじゃ。それで二人はある村に逃げ込んで、そこで追手をやり過ごそうとしたようじゃ。しかしヤツが苦悩したのはその後じゃ。その村の居心地が良すぎて、逃避行を続けるか村に永住するか悩んだそうじゃ」

「その、ロミオさんの友人はどんな答えを出したんですか?」


 ロミオさんの方に顔を向けてそう尋ねると、彼は首を横に振る。


「分からん。じゃが、ヤツはその答えに後悔はしていないと手紙で教えてくれた」

「……僕も、その人のように答えを出せるでしょうか?」

「ワシからは何も言えん。じゃが、助言だけは出来る」


 ロミオさんはそう言って、僕の顔を真っ直ぐに見据える。


「大いに悩め。悩み抜いて、答えを出せ。その答えが間違っていたら正せばいい。それが出来るのは若者の特権じゃからな」

「はい……」

「それに、君にはパートナーがいるじゃろ? 彼女とも話し合った方がえい。一人で考え込むより、二人で考えた方が納得する答えも出るよって」

「そう、ですね……そうします」


 ロミオさんに悩みを打ち明けたからか、胸の奥に突っ掛かっていたナニカがスッと消える感じがした。


 すると途端に、今まで感じていなかった眠気がゆっくりとやって来た。

 僕は壁から背中を離し、家の中へと戻ろうとする。


「寝るのか?」

「はい。ロミオさんは?」

「ワシはしばらくここにいる」

「そうですか。身体に障らない内に戻ってくださいね。それじゃあ、おやすみなさい」


 ロミオさんにそう言って、僕は家の中へと戻って行く。

 ベッドに入ると、すぐに睡魔が襲い掛かってきて、僕は意識を手放した―――。






ゼクスが出す答えは……。




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