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第8話 スピアリ夫妻

前回のあらすじ

お爺さんを助けた

 

 お爺さんは、「ロミオ・スピアリ」と名乗った。

 僕とノインもそれぞれ名前―もちろん偽名の方―をロミオさん名乗った。


「いや〜、すまんのぅ。助かったわい。……あ、そこの分かれ道を左じゃ」

「いえ、困っている人がいたら助けなさいっていうのが、僕の親の教えだったので。……左ですね」


 僕達は馬車が横に二台並んでも余裕のある道から、馬車がなんとか一台通れるほどの幅しかない道の方へと足を向ける。


「おじいちゃんはあんな所で何してたんですか?」

「ワシか? ワシは狩りをしてたんじゃよ」


 ノインがそう気さくに質問すると、ロミオさんも軽く答える。


「狩り、ですか?」

「おうとも。この辺りだと、鹿や猪じゃな」

「でも、ロミオさんの近くに動物の死体とかありませんでしたよね?」

「何を言っとる。魔法袋があるじゃろうて。そいつに狩った動物達を放り込んだんじゃ」

「あぁ、なるほど」


 魔法袋の存在をすっかり失念していた。

 それなら、ロミオさんが手ぶらだったのも頷ける。


 すると今度は、彼の方から質問が投げ掛けられた。


「それでお二人さんは、こんなところで何してたんじゃ?」

「いえ、僕達は旅の途中で……」


 逃避行中とは流石に言えないので、そういうことにしておいた。


「ほうほう、若い男女が二人きりで旅か。……駆け落ちか?」

「かっ、かかかか駆け落ち!?」


 ロミオさんの言葉に、ノインが耳まで真っ赤に染め上げる。

 そして彼女は照れながらも、彼の言葉を否定する。


「ち、ちちち違います!! わたしとゼ……シックスはそんな関係じゃないです! わたし達は……そう! ただの幼馴染です!」


 ……幼馴染なのは確かだけど、『ただの』では無いと思う。


 僕がそんなことを思う中、ロミオさんはノインの様子を見て、けらけらと笑い声を上げる。


「かっかっか! そうかそうか、そういうことにしておこう」

「……あまりナインをからかわないであげてください」

「うむ、そうか。肝に命じておこう」


 僕がロミオさんにそう釘を刺すと、彼は素直に応じた。

 ノインの方に目を向けると、彼女は両手で頬を押さえていた。熱を冷ましているのだろう。

 その仕草を僕は微笑ましく見つめていた―――。




 ◇◇◇◇◇




 時間にして一時間ほどだろうか。

 森を抜けると、小さな集落が視界に入った。


「ロミオさん、あそこですか?」

「うむ、そうじゃ」


 僕がそう尋ねると、ロミオさんは肯定した。


 ノインと共に集落の方へと歩いて行き、集落の中へと入る。

 ロミオさんの案内に従って、彼の家へと向かう。




 彼の家に無事たどり着き、ノインにドアを開けてもらい中に入る。


「ばあさん、帰ったぞ〜」

「は〜い」


 ロミオさんがそう言うと、家の奥の方から返事が返ってきた。

 パタパタと足音を響かせながら、家の奥からお婆さんが現れた。


 お婆さんは僕とノインに目を向けると、首を傾げて尋ねてくる。


「あら、どちら様?」

「僕はシックス・レスタと言います。こっちの女の子はナイン・エアリア」

「ナインです」


 僕の紹介を受けて、ノインはお婆さんにお辞儀をする。

 僕はそのまま、事の経緯をお婆さんに説明する。


「僕達は森の中で、腰を痛めて歩けなくなっているロミオさんを見つけまして。それでロミオさんをこの家まで運んできたんです」

「まあまあ、それは親切にどうも。ささ、おじいさんをこちらに運んでちょうだい」

「はい、失礼します」


 そう断りを入れてから、お婆さんに導かれる形で家の中を突き進む。


 二人の寝室のベッドの上にロミオさんを下ろすと、お婆さんが腰の治療にあたる。

 ベッドから離れると、近寄ってきたノインが僕の背中を優しくさすってくる。


「お疲れ様」

「そんなに疲れてないよ。でも……ありがとう」


 僕がそう言うと、治療を終えたらしいお婆さんがこちらに目を向ける。

 そして深々と頭を下げてくる。


「おじいさんをここまで運んできてくれて、どうもありがとう。大したもてなしも出来ないけど、もし良かったら少し休んでいって」

「どうする?」


 僕はノインの方に目を向け、彼女の意思を確認する。


「いいんじゃないかな」

「分かった。……それでは、お言葉に甘えさせていただきます」


 僕はお婆さんの方に向き直り、そう返事をした―――。




 ◇◇◇◇◇




 お婆さんは、「ジュリエット・スピアリ」と名乗った。ロミオさんの妻だそうだ。


 リビングでジュリエットさんにお茶とお茶菓子を振る舞われる中、彼女の質問攻めに遭っていた。

 そして彼女にも駆け落ちなのかと聞かれ、僕とノインは全力で否定した。

 長年連れ添った夫婦というのは、思考も似るらしい。


 しばらくすると、寝室の方からロミオさんがやって来た。

 痛めた腰は大丈夫のようだ。


「ロミオさん。腰は大丈夫なんですか?」

「ああ、大丈夫じゃよ。それで、二人に相談なんじゃが……」

「なんですか?」

「二人共、しばらくウチに泊まって行かんか? 急ぐ旅なら無理に引き留めはせんが。いいじゃろ、ばあさん?」

「ええ、わたしもいいですよ」

「どうする?」


 僕は隣に座るノインに、そう尋ねる。

 するとノインも、僕の方に目を向ける。


「わたしは良いよ。そんなに急ぐ用事じゃないでしょ?」

「でも……いや、うん、分かった」


 ノインは楽観視してるけど、機関の追手がいつこの集落にやって来るか分からない。

 本当なら今すぐにでも、この集落を離れるのが一番いい。


 だけど僕は、ノインの意思を尊重することにした。

 追手が来たらその時はその時だ。腹をくくるしかない。


 僕はある程度の覚悟を決めて、ロミオさんの方に向き直る。


「ロミオさん、それとジュリエットさん。しばらくの間、お世話になります」


 そう言って僕は、二人に頭を下げる。


 こうして僕とノインはしばらくの間、スピアリ夫妻の家に泊まることにした―――。






ゼクスとノインは否定してますけど、端から見れば二人の行動は立派な駆け落ちです。




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