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第5話 確認

前回のあらすじ

本来の魔術が目覚めた

 

 ジェミニ王国にある地方都市、アメジスト。

 三日前にこの町で、前代未聞の大事件が発生した。


 その事件とは、特一級異端審問官が処刑予定だったSS級魔女を連れ去ったというものだった。


 この事件はワルプルギス機関アメジスト支部だけでなく、近隣の町に点在する各支部、果てには同じ南大陸に居を構えるワルプルギス機関本部にも衝撃が走った。


 その事件の主犯である特一級異端審問官、ゼクス・クレスタは、異端審問官としての資格を永久に剥奪された。

 そして彼が連れ去ったSS級魔女、ノイン・フェアリアと共に機関に指名手配された。


 アメジスト支部と近隣の支部は協力体制を敷いて、彼らの行方を全力で追っていた―――。




 ◇◇◇◇◇




 アメジストの町から北にあるルビーの町。

 その町まで続く街道の途中に、二人の異端審問官が立ち塞がっていた。

 彼らはアメジスト支部の要請を受けルビー支部から出向き、ここでとある人物達を待ち構えていた。


「先輩。本当にその人達ってここを通るんスか?」

「わかんねぇからこうして待ち構えてるんじゃねぇか。てめえももちっとシャキッとしろ」

「う〜っす」


 先輩審問官に注意され、後輩審問官は気持ち緩まっていた緊張の糸をピンと張り直す。


 そんな二人の視線の先、アメジストの町の方向から、マントを羽織りフードを目深に被った二人組が歩いて来た。

 その格好からして、旅人なのだろう。

 だけど顔が見えないので、少し怪しかった。


「止まれ、そこの二人」


 審問官の近くまで旅人がやって来たその時に、先輩審問官が二人を呼び止める。

 すると旅人達は大人しくその歩みを止めた。


 先輩審問官は警戒しながら、旅人風の謎の二人組に近付いて行く。


「我々は今、とある人物達を捜索していまして。失礼ですが、フードを取っていただいても?」

「……分かりました」


 先輩審問官がそう言うと、背の高い方がそう答えた。

 その声音から、若い男性なのだろう。


 先輩審問官の言葉に従い、二人組はフードを取って素顔を晒す。


 背の高い方は茶髪に紫色の目をした若い男性で、背の低い方はウェーブがかったピンク色の髪に灰色の目をした若い女性だった。


 二人の顔の特徴は、彼らが追っている人物とは一致しなかった。


 先輩審問官は彼らに一礼する。

 後輩審問官も、先輩に倣い頭を下げる。


「協力ありがとうございます。実はこう言った人物達を捜していまして……」


 先輩審問官はそう言い、魔法袋から一枚の紙を取り出して旅人の男性に手渡す。


 その紙には、ゼクスとノインの身体的特徴が書かれていた。


 紙を女性の方に渡しつつ、男性が先輩審問官に尋ねる。


「何故この人達を捜しているのですか?」

「実は……」


 そう前置きして、後輩審問官がアメジストの町で起こった事件のことを旅人達に説明した。


 その説明を聞いて、男性は何度か頷く。


「……なるほど、分かりました。もしこの人物達を見つけた場合はどうすれば?」

「お近くのワルプルギス機関の建物にお知らせください」

「分かりました。この紙は……」

「お持ちになっていただいて結構です」


 女性が紙を返そうとすると、後輩審問官がそう言う。

 先輩審問官は二、三歩横に移動して、道を開ける。


「お手数お掛けしました。どうぞ、お進みになってください」

「お仕事頑張ってください。では」


 男性はそう言って審問官達に一礼して、女性と共にフードを被り直す。

 そして旅人は二人の前から立ち去り、ルビーの町の方へと向かって行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 二人の異端審問官から十分に距離が離れ、僕はふぅ……と息を吐く。

 バレるんじゃないかと内心ドキドキしていたけど、杞憂に終わったようだ。


 そんな僕の気持ちを察したかのように、彼女が僕の手を握ってくる。


「バレなかったね」

「うん。きちんと発動してるみたいだ」


 彼女の言葉に、僕はそう返す。


 僕とノインは今、一言で言えば魔術で変装していた―――。




 ◇◇◇◇◇




 森の中の廃屋で一夜を過ごし、僕は改めて魔剣の能力を確認していた。

 ちなみに食事は、僕が持っていた保存食で済ませた。


 ……魔剣ソウルイーターの能力が僕の予想通りなら……。


 そんなことを思いながら、僕は魔剣に宿っているハズの魔術を発動させる。


「……燃え盛れ、【灼熱地獄ムスペルヘイム】」


 この魔術は、【氷結地獄コキュートス】の本来の持ち主だった魔女を処刑した次の日に処刑した魔女が使っていた魔術だ。


 そして僕の予想通り、魔剣から炎が出現した。

 出力を抑えているからマッチの炎くらいの火力しかないけど、僕の仮説を裏付ける証拠としては十分だった。


 僕の持つ魔剣は、どうやら今まで処刑した魔女の魔術を発動することが出来るらしい。

 魔術は魔女の魂と言っても過言ではないので、魔女の魂を喰らうことで成長する、という謳い文句に嘘偽りはなかったようだ。


 すると、その様子を見ていたノインが、興奮したように僕に近付いてくる。


「すごいね、ゼクスのその魔剣」

「まぁ確かに。能力としては破格だね。それを言うなら、ノインの方がすごいよ」

「わたし?」


 ノインはそう言って、コテンと首を傾げる。

 その仕草はとても可愛らしかった。


「そうだよ。ノインの魔術は【森羅万象ルシファー】、あらゆる魔術が使える魔術なんだから」

「そう言われても、わたしにそんな魔術が使えるっていう自覚なんてないよ?」

「じゃあ、今使ってみよう。危ないと思ったら僕の【魔導封殺サタン】で打ち消すから、安心して」

「うん、分かった。頼りにしてる」


 ノインは僕に全幅の信頼を置いたような笑顔を浮かべ、そう頷く。

 その笑顔を見て、僕の胸に温かなモノが込み上げる。

 好きな子に頼られるというのがこんなに嬉しいこととは……。今までの人生を損していた気分だ。


 僕はノインに軽く魔術発動の手解きをする。

 そして彼女は両目を瞑り、意識を集中させる。


「……目覚めて、【森羅万象ルシファー】」


 ノインがそう唱えると、彼女の周りに天使のような羽がいくつも出現した。

 これが彼女の魔術のようだ。


 ノインは両目を開いて、自分の状況を確かめる。


「これが、わたしの魔術……?」

「そうみたい。だけどノインの魔術の能力は、コレじゃないでしょ? 何でもいいからやってみて」

「うん。……吹雪け、【氷結地獄コキュートス】」


 ノインがそう唱えると、彼女の周りに漂っていた羽の一枚が氷り漬いて、そこから冷気が放たれた。威力は調整されているようだ。


 それを見て、僕は何度も頷く。


「うん。ちゃんと発動出来るみたいだね」

「よかった〜」


 ノインはそう言うと【森羅万象ルシファー】の発動を止めて、僕にもたれかかってくる。

 昨日お互いの気持ちを確かめ合ってから、ノインが積極的になっている気がしないでもない。


「ゼクスの役に立てそうで嬉しいよ」

「たとえノインが魔女じゃなくても、僕の役に立ってるよ」

「そう?」

「うん。ノインと一緒にいると、すごく安心するから」


 そう言うと、ノインは顔を赤くして照れてしまった。






ゼクスとノインの二人がどんな魔術で変装するのかは、次回のお楽しみということで……。




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