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第4話 逃避行

前回のあらすじ

逃避行を開始した

 

 右手に魔剣ソウルイーターを持ち、左手でノインの手を引きながら路地裏を駆け抜ける。

 辺りからは、僕達以外の足音も響いていた。


「いたか!?」

「こっちにはいない! そっちは!?」

「こっちにもいない! いったいどこに……」

「こっちにいたぞー!」


 その掛け声と共に、後ろから聞こえる足音が一気に増えた。

 僕は肩越しにチラリと後ろを振り返る。


 数は一、二……、六人か。

 この程度なら問題にならない。


 僕達を追ってくる追手達に対して、僕は躊躇なく魔術を発動する。


「吹雪け、【氷結地獄コキュートス】!」


 魔剣から冷気が放たれ、追手達を物言わぬ氷像へと作り替える。


 原理は分からないけど、今はこの魔剣の能力がとても頼もしかった。

 何となく予想はつくけど、それを確かめるのは無事この町を脱出してからだ。


 何回か角を曲がり、町の外まであともう少しというところで、僕は足を止めた。

 それにつられノインも足を止め、僕の名前を呼ぶ。


「ゼクス……?」

「そこまでです。特一級異端審問官、ゼクス・クレスタ」


 そう言ったのは、僕達の前に立ち塞がるルイさんだった。

 彼女の周りには、武器を構えた第三分室のメンバーが控えていた。

 後ろからも足音が聞こえ、退路が塞がれる。


 ルイさんは一歩こちらに足を踏み出して、僕に尋ねてくる。


「ゼクス君。貴方が何をしているのか、本当に理解しているの? 処刑が決まった魔女を逃がすのは、重大な規則違反なのよ?」

「ええ、知ってますよ。そうじゃなかったらノインを……魔女を連れ去ったりしませんよ」

「ならその魔女を引き渡しなさい。そしたら、今回の件は不問に伏すわ」


 ルイさんはそう言ってくる。

 それに対して僕は、ノインを僕の背後に庇いながらキッパリと断言する。


「お断りします」

「そう……。残念だわ」


 ルイさんは、本当に残念そうな表情を浮かべる。

 だけどすぐに切り替えて、彼女は部下達に命令を下す。


「現時刻を以て、ゼクス・クレスタの特一級異端審問官の資格を永久に剥奪。そして……暫定SS級魔女、ゼクス・クレスタと指定する! 分室長権限において、一級異端審問官以下の上位魔女との交戦・迅速な処刑を認める! 交戦開始!!」


 ルイさんがそう言うと、彼女の部下達が僕達に接近して来た。


「吹雪け、【氷結地獄コキュートス】!!」


 だけど僕は魔術を発動させて、彼らの足を氷漬けにして足止めする。


「くっ……!? 全員、魔法で攻撃! 魔女ゼクスのこの力は、魔剣譲りよ! 本人の魔術は魔術を無効化するだけで、大したことないわ!」


 ルイさんは大声でそう指示を出し、部下達は僕達に向かって魔法を放ってきた。

 背後にいるノインは悲鳴を上げるけど、僕はそれを冷静に眺めていた。


 ルイさんの言った通り、僕の魔術は魔術を無効化するしか能がない。自分でもそう思っていた。

 だけど今この瞬間、僕の脳裏には本来・・の魔術の名前と能力が浮かび上がっていた。


 僕はソレを発動させる。


「―――奪い去れ、【魔導封殺サタン】!!」


 そう叫んで魔術を発動させると、僕達に向かっていた魔法が悉く消え去った。


 僕に宿っていた魔術は【魔導封殺サタン】。

 その能力は、敵に触れることなく、敵が発動させるあらゆる魔法・魔術を無効化する。

 今まで使っていた【魔術殺サタンし】は、この魔術の一部だったわけだ。


「なっ……!?」


 魔法が消え去ったのを目の当たりにして、ルイさん達は驚愕する。

 けれどすぐに気を取り直して、再び魔法を発動させようとする。

 だけど、一人足りとも魔法を発動させることは出来なかった。


「ど、どうして魔法が発動出来ないの!?」

「僕の魔術ですよ、ルイさん」


 そう言いつつ、僕は魔剣を頭上に掲げる。

 そして第三分室のメンバー達に、別れの挨拶をする。


「ルイさん、第三分室のみんな。今までお世話になりました。みんなのことは忘れません。―――吹雪け、【氷結地獄コキュートス】」


 そう言って、みんなを物言わぬ氷像へと作り替える。


 魔剣を鞘に納め、僕はノインに向き直る。


「早くこの町から立ち去ろう。次の追手が来るかもしれない」

「その通りだけど……わひゃっ!」


 ノインを抱き寄せ、彼女の身体を抱き抱える。

 いわゆる、お姫様抱っこというヤツだ。


「《ブースト》!」


 身体強化魔法を発動させて、脚力を強化する。

 その場でジャンプして近くにあった建物の屋根へと飛び乗り、屋根伝いに町の外へと走り去って行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 僕達は追撃を受けることなく、町の外に出ることが出来た。

 そしてそのまま、町の近くにある森の中へと入っていく。


 しばらく森の中を走って行くと、一軒の廃屋を見つけたので足を止める。

 森を駆け巡っている間に陽の光は傾き、辺りには薄闇が広がっている。

 今日はこの廃屋で一夜を明かすしかない。


 そう思い廃屋に近付こうとした時に、腕の中にいるノインが弱々しく話し掛けてくる。


「えっと……ゼクス。わたしはもう大丈夫だから、そろそろ下ろして。その……恥ずかしい……」

「あ、うん。分かった」


 ノインの言葉に素直に従い、彼女を地面に下ろす。

 彼女は耳まで真っ赤にしていた。


 そんなノインの手を引いて、廃屋の中へと入る。

 廃屋は元々猟師などが使うことを目的として建てられたのか、家と言うよりも小屋と言った方が正しいような、そんな小ぢんまりとした造りだった。


 僕はノインから手を放して、彼女と向かい合う。


「さて、と……。今日はここで一夜を過ごそう。辺りももう暗いしね」

「そ、そうね……」


 ノインはそう答えるけど、その声はやや上擦っていた。

 どうしたんだろう? と首を傾げていると、ノインが僕の顔を真っ直ぐに見つめてくる。


「なんでわたしを助けたの?」

「それは……」


 僕は言い淀んだ。

 頭の中ではいくつもの理屈が思い浮かぶけど、僕の本心はたった一つだった。


「ノインとずっと一緒に生きて行きたかったから」


 ノインにそう告げると、彼女は顔をリンゴのように真っ赤に染めた。


「そ、それって……」

「え〜っと、うん。簡単に言うと、ノインのことがその……好き、だから」


 言ってて僕も恥ずかしくなってきた。

 するとノインは僕に抱き着いてきて、僕も彼女の身体を抱き締め返す。


「わたしもゼクスのことが好きだよ」

「うん……。だから僕は、何があってもノインを絶対に守り抜く。約束するよ」

「約束したからには絶対に守ってよね、わたしのナイト様♪」


 ノインはそう言うと、いつも通りの輝くような笑顔を浮かべた―――。






魔剣の能力の説明は次回にでも……。




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