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第34話 一年後

前回のあらすじ

西大陸に行こう

 

 魔剣を振るい、異端審問官を斬り伏せる。

 その隙を突いて魔法が飛んでくるけど、【魔導封殺(サタン)】で無効化させる。

 他にも異端審問官達がいるけど、そっちはツヴァイが処理してくれた。


 西大陸に渡ってから約一年。

 本当なら異端審問官達を殺しまくるなんて派手なことをするつもりはなかったけど、こうせざるを得ない理由があった。


 その理由とは――アナスタシアさんに回収を任された魔弓イチイバルと魔盾イージスは、この大陸にいる特一級異端審問官が所有しているからだった。


 入手しようにも、殺してでも一度彼等の手を離れなければ手に入れることも困難だった。

 だから彼等を前線に引っ張り出すためだけに、こんな派手なことをしていた―――。




 ◇◇◇◇◇




 二ヶ月くらい前から拠点にしている町、ピーコックに戻ってくる。

 ちなみに、西大陸にある町の名前は東・南大陸と異なり、鳥の名前に由来していた。


 この町では部屋を借りていて、そこに戻っていく。

 ファミリー層向けの集合住宅の三階の角部屋が、僕達が借りている部屋だった。


 着ていたダークグレーのマントを脱ぎ捨て、ソファーにドサッと腰掛ける。

 そしてボーっと天井を眺める。


「はぁ……今日もダメだったか……」

「でもそろそろ出てくるんじゃないッスか? 今日は一級異端審問官も何人かいたみたいですし」

「ツヴァイ兄さんの言う通りですね」


 僕の呟きに、ツヴァイとドライはそう返してくる。

 そうなるように立ち回っていたし、僕も薄々と予感はしていた。

 たぶん、後一、二回くらい暴れたら特一級異端審問官が出てくるとは思う。


 この大陸での基準ははっきりとは分からないけど、特一級異端審問官は誰も彼も戦闘能力が非常に高い。

 きっと一筋縄ではいかないだろう。

 そのためにも……。


 姿勢を戻し、手元にある魔剣に目を向ける。

 覚醒の兆しは全く見えないし、きっかけすらなかった。


 何としても、特一級異端審問官が出てくる前に、覚醒を物にしなきゃいけない。

 そうでなければ、特一級異端審問官相手に返り討ちに遭う未来しかない―――。




 ◇◇◇◇◇




 任務を終えたわたしは、ルイさんと共にワルプルギス機関アメジスト支部へと戻ってくる。


 一年前のあの日、捕まったわたしはそのまま南大陸まで連行された。

 そしてルイさんが個人所有する魔女として、ワルプルギス機関に籍を置くことになった。


 ルイさんが所属する部署が第零分室という場所だったからなのか、わたしの肩書きは特別異端審問官になっている。

 ちなみに当の本人は、わたしを捕らえた功績からか、特一級異端審問官へと昇進していた。


 建物の中に入り、第零分室がある三階を目指す。

 その途中、この支部の支部長であるノワールさんと出会した。


「やあ、ルイ審問官。お疲れ様。大活躍だったって聞いたよ? 流石は『鋼鉄の乙女』」

「お疲れ様です、支部長。お褒めに与り恐縮です」


 ルイさんがノワールさんに挨拶を返し、わたしは無言で頭を下げる。

 ちなみに『鋼鉄の乙女』というのはルイさんの異名で、その由来は彼女の義肢からだった。


「その魔女の調子はどうなの?」

「はい。流石はSS級魔女、と言ったところでしょうか。ゼクス君とは別の意味で強力な魔女ですよ、彼女は」

「確か……全ての魔術を行使出来る魔術だっけ?」

「はい、そうです」

「確かに強力だね。……そろそろ異端審問官にも慣れた頃合いかな?」


 ノワールさんはルイさんの方から、わたしの方へと視線を変える。

 答えてもいいのかどうかを確認しようとルイさんの方を見ると、ルイさんは無言で頷く。


「……はい。慣れました」

「なるほど。……同胞を殺すのは辛い?」

「まさか。自分が生き残るためです。そんなこと言ってられる身分でも状況でもないことは自覚してますよ」

「へぇ〜……ゼクス元審問官と似たことを言うのね?」

「ゼクスも言ってたんですか……」


 その事実に、わたしは少し嬉しくなる。

 同胞である魔女を殺すことが辛くないわけがない。

 でもそうしなければわたしはすぐさま殺されるだろうし、そうならないためにもたとえ修羅の道であっても進まなくちゃいけない。


「話はそれだけですか? なら私達は報告書を作成しなければならないので失礼させて……」

「実はここからが本題なの。本当はノイン審問官だけ連れて行こうと思っていたけど……まあ、主であるルイ審問官が同席していても構わないでしょう」

「……? ノインちゃんに用が?」

「うん。だから二人共。私についてきて」


 そう言うノワールさんの後を、わたしとルイさんはついていった―――。




 ◇◇◇◇◇




 連れて行かれたのは支部の地下室で、そこには一本の大鎌が鎮座していた。

 ノワールさんは振り向き、わたしに向かって告げる。


「アレをノイン審問官に授けるわ」

「支部長、一つ質問が」

「何かしら?」

「私の予想が正しければ……あの大鎌は、一年前に接収した魔心霊装の一つ、魔鎌デスサイズでは?」

「ええ、その通りよ」


 ルイさんの口から出た言葉に驚いたし、それを肯定したノワールさんにも驚いた。

 それに、わたしにも疑問に思っていることがある。


「なんで……」

「うん?」

「なんでそんな強力な武器を、わたしなんかに与えるんですか?」


 そう尋ねると、ノワールさんは律儀にも答えてくれた。


「ゼクス元審問官の傍にいた貴女なら、彼が魔剣ソウルイーターを所持していたのは知っているでしょう? アレも魔心霊装の一つよ」

「……? はい、知ってますけど……それが?」

「魔心霊装はとても強力な力を持つ魔女か、その寵愛を受けた人間にしか扱えないのよ。だからこの支部で……いいえ。この大陸で異端審問官としてデスサイズを扱えるのは、貴女一人しかいないのよ」

「……拒否権は」

「あると思う? 宝の持ち腐れはしない主義なのよ、私は」

「……分かりました。ちなみになんですけど、魔鎌の前の所有者って判ってたりするんですか?」


 あまり期待はしていなかった質問だけど、ノワールさんの口から予想外の答えが返ってきた。


「魔鎌デスサイズの前の所有者は――ロミオ・スピアリ。三十年以上前に組織から離反した、『金色の死神』の異名を持った元特一級異端審問官よ」

「……っ!?」


 こんなところでロミオさんの名前を聞くとは思わなかったし、ここに魔鎌があるってことは恐らく……。

 その考えを頭を振って振りほどき、ノワールさんの顔を真っ直ぐに見据える。


「…………分かりました。魔鎌デスサイズは、わたしが所有します」

「ええ。その力で、新たな『死神』になってくれることを切に願うわ」


 ノワールさんの言葉を聞きつつ、デスサイズに近付いていく。

 そしてその血塗られた大鎌を手に取った―――。






魔心霊装の所有者になったノイン。




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