第33話 覚醒
前回のあらすじ
八つ当たりした
隠れ里を一通り見て周り、時折出会した異端審問官達に八つ当たりしてからその場を後にする。
すると、僕と同じ理由なのか、隠れ里の様子を確認しに来ていたらしいフィアとアインさんと合流した。
「えっ、ゼクス……って、血塗れじゃない! 大丈夫なの!?」
「魔術で傷口は塞いだから大丈夫だよ」
「……? そちらにはノインがいたんじゃないのか?」
「ノインは………………異端審問官に捕まりました」
今すぐにでも自分の心臓を握り潰したいくらいの衝動に駆られながら、そう告げる。
すると、フィアが駆け出そうとしていたから、彼女の腕を掴んでそれを止める。
「離してっ!」
「追い掛けてどうする? 返り討ちに遭うだけだ」
「アンタこそ何冷静でいられるの!? 悔しくないの!? 魔女がどんな扱いを受けるか……」
「冷静でいられるハズないだろうっっっ!!!」
そう叫ぶと、フィアはビクッと肩を竦める。見ると、アインさんも驚いた表情を浮かべていた。
冷静にならなきゃ、と思ってはいるけど、一度触発された激情はそう簡単には止まらなかった。
「魔女がどんな扱いを受けるか? 知っているさ! 異端審問官だったからな! だから僕はどんな敵が来ようともノインを守ると誓った! 心に決めた! だけど……だけど僕はノインに守られた! それが悔しくないわけないだろう! ああ、今すぐにでもノインを取り返しに行きたいよ! でも今の僕の実力じゃああの人に敵わない! それは僕が身をもって知ってる! 自分の無力さを知った! 弱さを知った! 無力な僕に一番苛ついてるのは僕自身だ! 出来ることなら今この場で殺したいくらいだよ、自分自身を!!」
胸の裡を吐露した勢いのまま、フィアから手を離して地面にへたりこむ。
「……これからどうしろっていうんだよ……敵は強大で、僕は弱い……こんなんじゃ、また……」
……ノインが自らを犠牲にするしかなくなる……。
そう思うと、僕の目から涙が零れ落ち、地面を濡らす。
「ならば、強くなるしかございませんわね」
ザッザッという足音と共に、誰かがやって来る。
顔を上げると、そこにはアナスタシアさんの姿と、彼女の後ろにツヴァイとドライの姿もあった。
「……強くなるって、どうやってですか? これ以上強くなることなんて……」
「魔心霊装を覚醒させるのです。そうすれば、ゼクス様はさらに強くなりますよ」
「覚醒って、そんなこと……」
「出来ない、と思われますか? ではアイン様。お手本のほどを」
「了解しました」
アインさんはアナスタシアさんの言葉に頷くと、懐から一つの槌を取り出す。
ただの槌かと一瞬思ったけど、ソレからは僕の魔剣と同種のただならぬ力の面影を感じ取った。
「ゼクス。一度だけ手本を見せよう。物に出来るかどうかはこれからの努力次第だがな。……目覚めろ、魔槌ミョルニルに宿りし魂。『怠惰』の寵愛を受けし魔女、スロウス」
すると突然突風が吹き荒れ、思わず両手で顔を庇う。
徐々に風の勢いが衰え、恐る恐る目を開ける。
すると目の前には、ウェーブ掛かった茶髪を長く伸ばした女性が立っていた。
突然の出来事にポカンとしていると、謎の女性が深々と頭を下げてくる。
「お初にお目にかかりますわ。わたくしはスロウス。今の世では『怠惰』の悪魔から魔術を授かったとされる、魔女の始祖の一人ですわ」
「あ……これは……」
……何なんですか? と尋ねようとした次の瞬間、魔剣が突然強く輝きだした。
思わず目を瞑り、光が収まった後に目を開くと、僕の傍らに燃えるように赤い髪をウルフカットにした女性が仁王立ちしていた。
「あら、ラースちゃん。自力で出てきちゃったんですか?」
「スロウスか。お前の覚醒に引き摺られる形で、一時的だけどな。どうしても一言言いたくて出てきた」
ラースと呼ばれた女性は僕の方に目を向けると、何を思ったのか僕の胸倉を掴んで立ち上がらせる。
そして顔を近付け、至近距離から凄んでくる。
「アタシはアンタには絶対に手を貸さないし、認めない。アタシに吸収させた魔術を使うのは全然構わないが、それだけだ。アタシを覚醒させられるなんて思うなよ?」
それだけ言うと女性の姿は霧のように消え、代わりに女性がいた場所には魔剣が突き刺さっていた。
「ラースちゃん……なるほど。それが貴女の……」
「あの……貴女はいったい何者なんですか?」
「……先程申し上げた通りですわ」
「じゃあ、本当に……」
「はい。スロウス本人ですわ」
「そして魔心霊装の魂が本来の魔女の姿を取り戻す手段のことを『覚醒』という」
スロウスさんに続くように、アインさんがそう言う。
「コレを僕に習得しろと?」
「ああ。しかし簡単ではないぞ。何故なら、彼女達自身に認められないといけないからな。俺も相当苦労したぞ」
「あら。わたくしは他の娘よりも優しい方ですよ?」
「アレでか……?」
アインさんほどの人でも相当苦労しているみたいだった。
「でも、強くなれるんですよね?」
「ああ、格段にな」
「じゃあ、覚醒させるにはどうすればいいんですか?」
「どうもしない。彼女達に認められる他ないんだ。それが今日かもしれないし、明日かもしれない。もしかしたら一生出来ないかもしれない」
「つまり……覚醒するかどうかは彼女達の気分次第だと?」
「そうだな」
その手段を聞いて、僕は頭を抱えたくなった。
僕の魔剣に宿っていたラースという女性は、僕のことを絶対に認めないと言ったからだ。
これじゃあ覚醒なんて夢のまた夢……。
でもそれで諦めるわけにはいかない。
ノインを取り戻す手段がとても小さく細くとも、それにすがり絶対に物にするしか方法がないからだ。
「……分かりました。覚醒出来るように頑張ります」
「では次は私から。ゼクス様に頼みたいことがございます」
「何でも言ってください。僕なんかの力で力になれるかどうかは分からないですけど……」
そう卑下すると、アナスタシアさんは首を左右に振る。
「いいえ。ゼクス様のお力はとても頼りになります。魔術も、魔心霊装の力も。……だからこそ、ですかね。ゼクス様には、魔弓イチイバルと魔盾イージスの発見、ならびに確保の方をお願いします」
「分かりました。ちなみに、場所とかって判ってるんですか?」
「西大陸にあるとの情報を掴みました」
「一人だと何かとキツいだろう。ツヴァイとドライもゼクスに同行させる。俺は残って隠れ里の再建に尽力する。こちらはフィアに協力してもらうから安心していい」
「えっ? アタシ聞いてない――」
抗議の声を上げるフィアを無視して、アインさんにお礼を言う。
「弟さんと妹さんの力、ありがたくお借りします」
「ああ。存分に使い潰してくれて構わない。……無茶はするなよ」
「そちらも」
アインさんが手を差し出してくるので、その手を握り返して固い握手を交わす。
それから三日後。
僕はツヴァイとドライを連れて西大陸に向けて出発した―――。
物語の展開としては、ここで一旦一区切りです。
次回からは新展開を迎えます。
とうとう七人目のSS級魔女が本格的に登場します。
彼(彼女?)の活躍をお楽しみに!
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