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第3話 公開処刑

三話目!

今日の更新はここまでです

 

 次の日にもう一人のS級魔女を処刑して、その次の日にトパーズの町を発った。


 アメジストの町へと戻って来て、僕は帰路には着かずに、僕の本来の職場であるワルプルギス機関アメジスト支部へと向かう。

 明日以降の仕事の予定を確認するためだ。


 トパーズ支部と同じ造りの建物の中へと入って行き、三階に上がる。

 その階にある第三分室へと入り、自分のデスクに向かう。

 その途中で、直属の上司に声を掛けられた。


「お〜い、ゼクス君! ちょっと来て〜!」

「はい、今行きます」


 そう返事をして、窓際にある上司のデスクへと向かう。

 そして机を挟んで、上司と対面する。


 ルイ・ルイン。

 童顔で小柄な見た目の女性が、僕の上司だった。

 彼女は数少ない、僕の異名を聞いても態度を変えない人の一人で、尊敬に値する人だ。


「僕に何の用でしょうか、ルイさん」

「トパーズから帰って来て早々悪いけど、明日SS級魔女の処刑が決まったの。処刑方法はこの町の広場での公開処刑。ゼクス君は、その魔女の処刑の担当ね」

「はぁ……分かりました」


 溜め息を吐きつつ、了承する。

 出来れば本当は明日休みたかったけど、この支部にいる特一級異端審問官は僕しかいないから、仕方ないと言えば仕方ない。


 ルイさんは机の上で手を組んで、コテンと可愛らしく首を傾げる。


「どうしたの? 不満?」

「いえ……。ただ、明日はゆっくりしたいと思っていたところなんですけど……」

「それなら、明後日は有休使っていいよ。ここのところ働き詰めだったでしょ?」

「ありがとうございます」


 そう言って僕はルイさんに頭を下げる。

 ルイさんは見た目はともかく、部下想いの良い上司として僕を含めた部下からの人望が厚かった。


 するとルイさんは、机の引き出しから一枚の紙を取り出す。


「忘れるところだった……。これが明日処刑する魔女の資料ね。目を通しておくように」

「はい」


 そう言ってルイさんから資料を受け取り、その場でソレに目を通す。

 SS級は危険度が最大の魔女だから、どんな能力を持った魔女なのかを確認する。


 能力名は【森羅万象ルシファー】。

 あらゆる魔術を使用出来る魔術のようだ。

 僕の【魔術殺サタンし】とは、ある意味では正反対とも言える。


 そして魔女の名前が記された欄に目を移したその時、僕の身体に衝撃が走った。

 青天の霹靂とは、正にこの事だろう。




 名前の欄には、「ノイン・フェアリア」と記されていた―――。




 ◇◇◇◇◇




 僕は急いでフェアリア家へと戻る。

 こんなに全力疾走したのは、子供の時以来かもしれない。


 そして家のドアを乱暴に開けて、中へと入る。

 息も絶え絶えになりながら、リビングの方へと向かう。

 するとそこには、ソファーにもたれ掛かり泣き崩れているタリアさんの姿があった。


「タリアさん……」


 僕がそう言うと、タリアさんは顔を上げて僕の方へと目を向ける。


「ゼクス君……。ノインが……ノインが連れてかれちゃった……」

「……知ってます」

「あの娘はなんにも悪いことしてないのに、どうして魔女として処刑されなくちゃいけないの……?」

「……すみません」


 僕はいたたまれなくなり、タリアさんから目を逸らす。

 どんな慰めの言葉を掛けようとしても、僕が異端審問官である限りその言葉には重みはない。


 だから、彼女がなるべく安心出来るような言葉を掛ける。


「ノインの処刑担当者は、僕になります。出来るだけ苦しまないように、ノインを……処刑、します。恨むなら僕を恨んでください」


 そう言い残して、僕は自分の部屋へと引きこもる。


 その日は、一睡も出来なかった―――。




 ◇◇◇◇◇




 そして翌日。

 運命の日がやって来た。


 町の中央広場には、公開処刑用の特設ステージが設けられていた。

 そのステージに、僕とノインは立っていた。


 ノインは普段の明るい表情とは打って変わり、暗い表情を浮かべていた。

 無理もない。これから幼馴染の手で殺されるというのだから……。

 そんな彼女は猿ぐつわを噛まされ、両手は手錠で拘束されていた。


 僕はステージの上から、辺りを見回す。

 ステージの周りには、多数の人達が集まっていた。

 魔女の公開処刑は滅多に見られるモノではないので、物珍しさ故に隣町から来ている人もいるのだろう。


 そんな人混みの中でも、タリアさんの姿は今のところ見当たらない。

 当たり前か。子供が処刑されるところを見に来る親なんていない。


 処刑の時間になったので、ノインを膝立ちにさせ、彼女の猿ぐつわをほどく。

 その時に彼女の身体に軽く触れ、【魔術殺サタンし】を発動させる。

 これでノインは、魔術を発動することが出来なくなった。


 僕は鞘から魔剣を引き抜き、上段に構える。


「魔女ノインよ。最後に言い残すことはあるか?」


 一応仕事なので、普段ノインに接する時とは異なる口調で、そう問い掛ける。

 彼女は俯いたまま答える。


「一つだけ。わたしの大好きな幼馴染に、わたしのことで気に病む必要はないって伝えてください」

「……了承した」


 ノインの遺言をしっかりと聞き届け、僕は魔剣を彼女の首目掛けて振り下ろす。


 その時、時間の流れが遅くなった。

 それと同時に、僕の頭をある想いが埋め尽くした。


 ノインを、殺したくない。


 僕はずっと、ノインと一緒に生きて行きたい―――!


 そう思った瞬間に、魔剣がドクン! と脈動した。

 その後、信じられないことが行った。


 ガキンッ! と、ノインの首を覆った氷の壁が、僕が振り下ろした魔剣を弾き返した。

 それに驚くけど、さらに驚愕の事実が僕を襲う。


 辺りを見回すと、処刑を見に来ていた人達全員が氷漬けにされていた。

 氷像から流れる冷気を辿って行くと、それらは僕が手にする魔剣へと集約されていた。


 そしてこの現象……いや、『魔術』の名前が、僕の脳裏にはっきりと浮かび上がってきた。


「【氷結地獄コキュートス】……?」


 その魔術の名前は、三日前に僕がこの手で処刑した魔女の魔術モノだった。


 この現象については後回しにして、僕は未だに俯いているノインに尋ねる。

 僕がこれからやろうとしていることは重大な規則違反だけど、そんなことはノインが生きていることに比べたらどうでもいい。


「ノイン! 今この場で僕に処刑されるか、それとも……僕と一緒に逃げるか! 好きな方を―――」

「ゼクスとずっと一緒にいたい!!」


 選べ、と言う前に、ノインは顔を上げてそう答えた。

 彼女の目からは、一筋の涙が零れ落ちていた。


「……分かった。後悔はしないんだね?」

「ゼクスと一緒なら何処へだって行くよ」


 その答えを受けて、僕はノインに掛けられた手錠を魔剣で破壊する。

 そして彼女の手を取って立ち上がらせる。


「まずはこの町から立ち去るよ、いいね?」

「うん……!」


 ノインの手を引っ張って、ステージから降りる。

 そして町の外へと向かって行く。




 こうして僕とノインの、二人きりの逃避行が始まった―――。






逃避行が始まりました。




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