第13話 死神&魔女VS元上司
前回のあらすじ
元上司が現れた
僕は魔剣を振り回し、ルイさんは大剣をぶん回す。
ルイさんの太刀筋には、僕に対する殺意がこれでもかというほど籠められていた。
その死の太刀を捌きつつ、急所を狙う攻撃を繰り出すけど、その尽くを大剣を盾にする形で防がれていた。
「轟け、【穿光雷鳴】!」
ノインも魔術で僕をサポートしようとしている。
けれど、ルイさんが左手を翳すことで魔術の発動が阻害されて不発に終わる。
元上司と斬り合いをしつつ、思わず毒づく。
「厄介ですね、その左手!」
「そうでしょう? だって……キミを殺すためだけに用意したからねぇぇぇぇ!!」
ルイさんはそう叫ぶと、大剣を横薙ぎに振るう。
それを魔剣で防ぎ、その勢いを利用して後ろに跳ぶ。
そしてノインを守るように立ち、ルイさんと一定の距離を保ちつつ相手の出方を窺う。
警戒しつつチラリとノインの方を見ると、【森羅万象】発動時に出現した天使のような羽は、未だに彼女の周りを漂っていた。
どうやらルイさんの左手は、発動前の魔術にのみ作用するようだ。
ノインが生み出した羽が、その根拠を裏付けている。
あともう一つ、確かめなきゃいけないことがあるけど……。
僕は背後にいるノインに確認する。
「ノイン。まだ魔術は発動出来る?」
「うん、まだまだいけるよ」
するとノインから、頼もしい返事が返ってくる。
そして僕達は特に示し合わせるようなことはなく、全く同時に別々の魔術を発動させる。
「吹雪け、【氷結地獄】!」
「轟け、【穿光雷鳴】!」
ルイさんは再び左手を翳すけど、阻害したのは片方だけだった。
ノインの魔術が発動を阻害され、僕の魔術は無事に発動出来た。
僕達とルイさんの間に、氷の剣山が形成される。
僕が確かめたかったのは、ルイさんは複数の魔術の発動を阻害出来るのか、ということだった。
そして結果は、今見た通りだった。
本当は僕の【魔導封殺】で、ルイさんの魔障石製の義手から放たれる魔術阻害波を無効化出来ればよかった。
だけど僕の魔術は、魔法と魔術を無効化出来るだけで、魔道具の効果までは無効化出来ない。
これが僕の魔術の唯一にして最大の弱点だった。
だからその場で、ルイさんの義手の効果を確かめる必要があった。
そして僕の頭の中にはいくつか対策が浮かぶけど、優先すべきことはそれではない。
僕は後ろを振り返って、ノインに向かって言う。
「ノイン、逃げるよ! 彼女の相手をするのは時間の無駄だ!」
「分かった!」
そう返事をするノインの手を引っ張って、ルイさんの前から逃走した―――。
◇◇◇◇◇
森の中を突っ切ると、谷のある場所までやって来た。
慎重に谷に近付いて谷底を覗くと、遥か下から水の流れる音が聞こえる。
谷底が暗くてよく分からないけど、川が流れているらしい。
谷から離れて、僕達がやって来た方向に目を向ける。
ルイさんは追って来ていないようだった。氷の剣山が壁の役割を果たしているようだ。
でもそれも長くは続かないと思う。
僕はノインの手を引いて、谷に架かる吊り橋を渡る。
ギシギシと嫌な音が足下から聞こえてくる。
するとノインが手を離し、僕の腕にぎゅっと抱き着いてきた。
彼女の顔を見ると、両目も固く閉じられていた。
「え〜っと……怖いの?」
そう尋ねると、ノインは無言で何度も頷く。
そう言えば確か、ノインは高所恐怖症だったような……。
そんなことを思い出しつつ、彼女に優しい声音で言う。
「それじゃあ、僕の腕にしっかり掴まってるんだよ。いいね?」
するとまたノインは、無言でコクリと頷いた。
ノインの温かさを左腕に感じながら、吊り橋を渡り切る。
足下の感覚が変化したのを察したらしく、ノインが恐る恐る尋ねてくる。
「……もう、大丈夫? 橋、渡り切った?」
「うん、大丈夫だよ」
そう答えると、ノインは閉じていた目を開いて僕の左腕から離れた。
そして追手がこれ以上追って来られないようにするために吊り橋を落とそうとしたその時、森の方からルイさんが姿を現した。
彼女は僕達の方を見ると、ニタリと口角を歪ませる。
目付きが完全に捕食者のソレだった。
ルイさんが吊り橋の方に走ってきて、僕は急いで吊り橋に綱を魔剣で切っていく。
ルイさんの姿がだんだんと近付いて来ていて、綱を切断しなければという気持ちが逸る。
そして全ての綱を切断し切り、吊り橋を落とした。
その時にルイさんは橋の中央付近にいて、その崩壊に巻き込まれる。
ルイさんは谷底へと落下していくけど、最後の抵抗で大剣を僕に向かって投擲してきた。
飛んできた大剣を魔剣で弾き返すと、大剣も谷底へと落下していった。
しばらく谷の方を見ていたけど、ルイさんが谷底から這い上がってくる気配はなかった。
そもそもとして、この谷は結構深いようだから、下に川が流れているとはいえ生きている確率は限りなく低い。
「はぁ〜〜〜……」
僕は大きく息を吐いて、その場にしゃがみ込む。
張り詰めていた緊張の糸が緩んでいくのを感じる。
まさかルイさんが現れるとは思いもしなかった。
だけど今回ので、彼女はもう現れないに違いない。
何度か深呼吸してから立ち上がる。
「……行こう、ノイン。他に追手が来ないとも限らないしね」
「そうだね、行こう」
そうして僕とノインは、逃避行を再開した―――。
ルイは呆気なく退場しました。
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