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第12話 邂逅

前回のあらすじ

村人達が交戦を開始した

 

 僕はノインの手を引いて、スピアリ夫妻の家を出る。

 人の流れからして、異端審問官達は僕達が初めてこの村にやって来た時に通った入口の方から来るようだ。


 なので僕は、その入口と反対側にある出入口の方へと向かう。

 その途中、見知った人―村人達とすれ違う。


 彼らは皆僕達の本当の姿を見ても動揺することなく、むしろ温かい眼差しで僕達を見送っていた。

 そのことに微かな疑問を抱くけど、今はそれを気にする暇などない。


「シックス君、ナインちゃん! ちょっと待って!」


 村の出入口まであと少しというところで、後ろからそう呼び止められた。

 僕とノインは足を止めて、後ろを振り返る。


 するとそこには、この村で雑貨屋を営む女性―ローナさんが駆け足で駆け寄って来ていた。

 彼女は僕達と比較的年齢が近いこともあって、よく世話を焼いてくれていた。


 ローナさんは僕達の前までやって来ると、一通の手紙を手渡してくる。


「コレ、持ってって」

「コレは?」

「ロミオおじいちゃんから預かってた手紙。シックス君達が村を出て行く時に渡して欲しい、って前から頼まれてたの。……あ、その手紙を読むのは後にしてね? ここで読むのは絶対にダメ」

「そうですか……。分かりました」


 その手紙を受け取り、腰に吊り下げた魔法袋の中に仕舞う。

 ついでに、万が一の時を考えて魔剣を取り出しておく。


 すると何故か、ローナさんが魔剣を凝視していた。

 そのことが少し気になった。


「? ローナさん、この魔剣がどうかしたんですか?」

「……いいえ、何でもないわ」


 ローナさんはそう言って頭を振る。


「だけど、一つだけ……。その『子』を、大切にしてあげてね? そうすれば、その子は君の気持ちにちゃんと応えてくれるから」

「? 分かりました……」


 彼女の言っていることがイマイチ理解出来ないけど、とりあえず頷いておく。


 そしてローナさんとも別れを告げて、僕とノインはこのガーネット村を出て行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 村を出て、森の中をただひたすらに駆け抜けて行く。

 時間は分からないけど、結構な距離は走った気がする。


「ゼ、ゼクス……、ちょっと待って……。わたし、もう……」


 ノインが息も絶え絶えといった様子で、そう言ってくる。

 彼女の手を引っ張りながら僕のペースで走っていたから、彼女にはキツかったのかもしれない。


 僕は走るペースを徐々に落としていき、やがて徒歩と変わらない速度で歩き始める。


「ゴメン、ノイン。キミのペースも考えないで走って……」

「はぁ……はぁ……。わたしは、大丈夫だよ……。ふぅ……」


 ノインはそう言うけど、息が上がっていた。


 するとちょうどいい感じの倒木が、視界の片隅に映った。


「少し休憩しよう」


 僕はそう言って、そこにノインを座らせる。

 僕も彼女の隣に腰掛けるけど、周囲の警戒は怠らない。


 今のところ、周囲に敵影はないようだ。


「……ゴメンね、ゼクス。わたしにもうちょっと体力があれば……」


 呼吸が落ち着いてきたらしいノインはそう言うと、肩を落とす。

 そんな彼女を励ますように、彼女の頭を優しく撫でる。


「気にしないで。これからは、ノインのペースに合わせるから」

「うん、ありがとう」


 ノインはそう言うと、頭を撫でる僕の手に身を委ねてくる。

 しばらく撫で続けていると、うなじのあたりにピリピリとした感覚があった。


 座っていた倒木から立ち上がって、剣の柄に手をかけながら周囲を警戒する。

 ノインも立ち上がり、僕に尋ねてくる。


「ゼクス……?」

「……敵がいる。僕の傍を離れないで」

「うん」


 ノインの方を見ずにそう告げると、彼女は僕の後ろに隠れる。


 警戒していると、僕達の前にある茂みからがさがさと物音がしてくる。

 僕は鞘から剣を引き抜いて、臨戦体勢を調える。

 ノインも、【森羅万象ルシファー】を発動したようだ。


 そして茂みから、敵が現れた。

 しかしその敵の姿を見て、僕は呆気に取られた。


「ゼ〜ク〜ス〜くぅぅぅん。みぃ〜つけた〜♪」


 その敵―ルイさんが、身の丈もありそうなほどの大剣を引きずりながら、変わり果てた姿で僕達の前に現れた。


 ルイさんは右目を眼帯で覆っており、愛嬌のあった顔を醜悪に歪めていた。


 目の前の現実が信じられず、僕はワナワナと口を震わせながら無意識の内に彼女に尋ねていた。


「なんでルイさんがここに……? 貴女は僕が殺したハズ……」

「あっはははははははははははははははははは!! 確かに私はキミに殺されたわ!! だけど私は地獄の底から舞い戻って来たのよ!! キミに復讐するためにねぇ!!」


 ルイさんは左目に燃え盛る怒りの炎を滾らせ、僕を睨み付けてくる。

 その視線だけで人が殺せるんじゃないかと錯覚するほどに、強烈だった。


 そして彼女は激情のまま、胸の内を吐露する。


「あの日、キミに殺されてから一日たりともキミを憎まなかった日はないわ! 私の大切な部下を殺し、私の未来までも殺した! だからキミに復讐するのよ! 私をこんな身体にした代償を、今すぐ払ってもらうわ! キミのその命でねぇぇぇ!!」


 ルイさんはそう言うと、僕に向かって斬り掛かってくる。

 彼女は見た目とは裏腹に、片手で大剣を振り回している。


「吹雪け、【氷結地獄コキュートス】!」


 けれどその前に、僕は魔術を発動―させようとした。

 ルイさんが僕の方に左手を向けると、何故か魔術の発動がキャンセルされた。


「えっ!? なんで!?」


 驚愕の声を上げるも、すぐに気を取り直して魔剣でルイさんの大剣を受け止める。


「知りたい? ねぇ、知りたい!?」


 鍔迫り合いをする剣の向こう側から、ルイさんが僕を煽るように言ってくる。

 僕は目線だけを彼女の左腕に向ける。


 ルイさんはいつも手袋をしてるから気付くのが遅れたけど、手袋とコートの袖の隙間から、独特の光沢を放つ金属が見えていた。


「その左腕……魔障石の義手か!?」


 僕がそう言うと、ルイさんはニタリと口を歪ませる。


 魔障石というのは、魔術の発動を阻害させる効果がある鉱石のことだ。

 この鉱石は主に、捕まえた魔女を拘束する時に使う手錠に使用されている。


 その鉱石を、兵器として義手に使用したということか……。


 そんなことを考えつつ、僕はルイさんの大剣を弾き返し、ノインを守るようにして立つ。

 距離を取り、体勢を立て直したルイさんは僕達を睨んでくる。


「……そこの魔女がいなければ、あの事件は起きなかったのよね。今からでも遅くはないわ。この世から消え去りなさい! 私が引導を渡してあげるわ!!」

「ノインには指一本触れさせないっ!!」


 僕はそう宣言すると、魔剣を手にルイさんに斬り掛かっていった―――。






ルイからヤンデレ臭がする……。

きっと気のせい。




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