第11話 『死神』と呼ばれた男 後編
前回のあらすじ
本名が老夫婦にバレた
ゼクスとノインを見送ったロミオとジュリエットは、身支度を調えて村の中央にある広場へと向かう。
するとそこにはすでに、彼ら以外の村人が全員集まっていた。
このガーネット村に子供は一人もいないので、大人の姿しかない。
村人達の手には、各々武器が握られていた。ロミオの手にも、身の丈ほどもある大鎌が握られている。
中にはジュリエットのような、武器を持たない人達もいる。
スピアリ夫妻が広場に姿を現すと、村人達は皆、彼らの方へと身体を向ける。
そんな村人達に、ロミオはいつものような飄々とした表情を浮かべながら声を掛ける。
「ほっほっほ。よう集まってくれたのぅ」
「何言ってんだ。ロミオ爺さんの呼び掛けに応えない住人なんて、この村にいないぜ」
そう答えたのは、ロミオに異端審問官達が接近していることを伝えに来た男性―ローレンだった。
他の村人達も、彼の言葉に同意するように頷く。
そんな村人達を一瞥し、ロミオは彼らに言う。
「初めに言っておく。戦いたくない奴は、今すぐこの村から逃げ去れい。ワシはそれを咎めん」
ロミオはそう言うが、この場から立ち去る人間は誰一人としていなかった。
それを見て、彼は苦笑する。
「お主ら、みんな馬鹿じゃのぅ」
「何を今更。この村にいる奴等はみんな、ロミオ爺さんとジュリエット婆さんに大きな恩があるんだ。それを返さずに立ち去れるかってんだ」
ローレンがそう言うと、他の村人達も「そうだそうだ!」と声を上げる。
「分かった分かった。静かにせい」
ロミオにそう注意され、村人達は静まる。
そして姿勢を正し、村人達を代表してローレンが口調を変えてロミオに言う。
「我々に指示を、スピアリ卿。我々は貴方の指示に従います」
「うむ。……我々の希望はすでにこの村を旅立った。皆もそれを目にしたな?」
ロミオがそう尋ねると、村人達全員が頷く。
その様子に満足し、彼は無言で頷く。
◇◇◇◇◇
ロミオの言う希望とは、ゼクスとノインのことだった。
二人が何故彼らの希望なのか?
それには、このガーネット村の特殊な環境が影響している。
この村には、元異端審問官と魔女が共存している。
元異端審問官は機関の方針に疑問を抱いて出奔し、魔女は安住の地を求めてさまよう。
その果てにたどり着いたのが、このガーネット村だった。
元々ここには、スピアリ夫妻が暮らす家しかなかった。
この二人もゼクスとノインと同じく、元異端審問官と魔女のカップルだった。
各地から流れて来た人は二人の雰囲気に感化され、ここで暮らし始めるようになった。
そしてそれが積み重なり、村と呼ばれる規模になるまで発展を遂げた。
彼らには共通した、たった一つの希望があった。
それは、人間と魔女が共存する世界を創り、それを次代に繋げることだった。
しかしこの村には、それを繋げるための世代がいなかった。
そんな時に現れたのが、ゼクスとノインだった。
二人が元特一級異端審問官とSS級魔女というのはすぐに判明した。
しかし村人達はそのことについて尋ねることはなく、逆に自らの正体を語ることも無かった。
ゼクスとノインには、先入観を抜きにして、この村の良さを知っておいて欲しかったからだ。
そして今日、ゼクスとノインはこの村を旅立った。
その時の二人の顔には、名残惜しそうな表情が浮かんでいた。
その表情を見た村人達は皆、自分がやってきたことは間違っていなかったと確信した。
そして彼らは見送った。
若い二人に、自分達の未来を託して―――。
◇◇◇◇◇
「それでは、私から皆に最初で最後の命令を下す。我らの希望のために、その命を捧げろ」
「「「はっ!!」」」
現役時代の口調に戻したロミオがそう命令を下すと、村人達は彼に向かって揃って敬礼する。
そして彼は続けて作戦を説明する。
「よろしい。では、作戦を伝える。元異端審問官達は私について、相手の迎撃に当たる。魔女達は我が妻、ジュリエットにつき、彼女の指示に従え」
ロミオがそう言うと同時に、村の入口の方から複数の足音が聞こえてきた。
そちらの方に目を向けつつ、ロミオは素早く指示を出す。
「どうやらお客が来たようだ。まず私とジュリエットが先行する。皆は私の後についてこい」
「「「はいっ!!」」」
村人達は力強く返事をして、ロミオはジュリエットと共に村の入口の方へと向かう。
◇◇◇◇◇
村の入口には、十人ほどの異端審問官がいた。
彼らの手にはそれぞれ武器が握られている。
大鎌を持ったロミオに驚く審問官もいたが、リーダーらしき審問官は顔色一つ変えずに、二人に近付いて行く。
ロミオは好好爺といった表情を意図的に浮かべながら、その審問官に話し掛ける。
「こんな所に、異端審問官達が何の用じゃ?」
「突然すみません。この集落に、このような二人組はいませんか?」
そう言ってリーダーの審問官は、ゼクスとノインの身体的特徴が記された紙をロミオに手渡す。
その紙を受け取り一瞥した後、彼は答える。
「そういやぁ、見かけたなぁ」
「本当ですか!? その二人組がどちらに向かったか、教えていただいてもよろしいですか!?」
「―――断る」
ロミオは鋭い口調でそう言うと、持っていた大鎌を振るい、リーダーの異端審問官の首を撫でる。
鎌の刃先が、審問官の首の皮を薄く切るだけだったが、それで十分だった。
次の瞬間、その異端審問官は全身の穴という穴から血を吹き出し、絶命した。
突如目の当たりにした異常な光景に、他の異端審問官達はパニック状態に陥る。
ロミオが持っているのは、魔鎌デスサイズと呼ばれる代物だった。
その能力は、その鎌で傷をつけた生命を直ちに亡き者にするというモノだった。
この鎌の能力に加え、ロミオ本人の天賦の才に努力と経験によって裏打ちされた技量により、彼は現役時代『死神』と呼ばれていた。
その技量は、現役を退いた今でも健在だった。
「ジュリエット!」
「奏で上げて、【強壮楽団】!」
阿吽の呼吸で、ジュリエットが魔術を発動させる。
彼女の魔術は、半径百メートル以内にいる味方の身体能力を大幅に引き上げるといったモノだった。
その魔術の効果で強化されたロミオは、未だに浮き足立っている異端審問官達に、見た目によらない速さで接近する。
そしてすれ違い様に彼らに傷をつけ、絶命させる。
彼らを始末した後、ロミオは息を吐く。
「ふぅ……。やっぱりトシには勝てんわい。たったこれだけの人数を相手にしただけで、息が上がっとる。それに鎌を振る速度も落ちとる」
「本当ですね。私も、魔術の発動が遅くなっていました」
二人はそう言うが、現役の異端審問官や魔女にも引けを取らないほどの攻撃速度と身体能力だった。
そんな二人の前に、新たな異端審問官の一団が現れる。
その人数はざっと見ただけでも、先ほどの三倍以上だった。
するとタイミング良く、村人達もロミオ達の背後に現れた。
村人達は一団を目にすると、すぐに臨戦体勢を調える。
そんな彼らに対して、ロミオは最後の指示を出す。
「いいか、みんな! 奴等を我らの希望に近付けさせるな! 一人も逃すんじゃないっ!!」
「「「おおっ!!」」」
ロミオの指示に、村人達は大きな声で答える。
そして彼らの希望を守るための戦いが始まった―――。
……とまあ、サブタイトルの『死神』は彼だったわけです。
ジジイはだいたい強キャラ(偏見)。
評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。




