第10話 『死神』と呼ばれた男 前編
前回のあらすじ
悩みを打ち明けた
翌日。
ロミオさんのアドバイスに従って、僕はノインと話し合う。
ノインに宛がわれた部屋に入り、彼女と向き合う形で床に座る。
そして彼女に、ガーネット村に滞在し続けるか、それとも逃避行を続けるかを尋ねる。
「わたしはどっちでもいいよ?」
「僕はノインの意思を尊重するから、遠慮しないで言ってくれ」
「遠慮なんかしてないよ。わたしはゼクスがしたいことを全力で支えるだけだから、ゼクスが決めていいよ」
「……そっか。ありがとう、ノイン」
そう言って僕は、正面に座るノインを抱き締める。
彼女の健気さに感化されて、無意識の内に取った行動だった。
ノインも僕の身体に腕を回し、耳元で囁く。
「……それで、ゼクスはどうしたいの?」
「僕は……この村に居続けたい」
そうはっきりとノインに告げる。
すると彼女は抱擁を解いて、僕の目を真っ直ぐに見つめてくる。
「分かったわ。わたしもそれでいいよ」
「うん、ありがとう。それじゃあ、ロミオさん達に伝えて来よう」
その言葉と共に立ち上がり、手を取ってノインも立ち上がらせる。
そして手を繋ぎながら彼女の部屋を出て、ロミオさんがいるリビングの方へと向かった―――。
◇◇◇◇◇
リビングに着くと、そこにはソファーに座るロミオさんの他に、彼と並んで座るジュリエットさんの姿もあった。
丁度良いので、二人に僕達の意思を伝える。
「ロミオさん、ジュリエットさん。お伝えしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんじゃ?」
ロミオさんは微笑を浮かべながら、僕に聞き返してくる。
彼には昨夜悩みを打ち明けたから、僕が伝えたい内容も予想がついているのだろう。
「僕達、この村で暮らしていこうと思うんです」
「ほぅ、そうか。ええんじゃないか?」
「わたしもいいと思うわ」
「それと、厚かましいお願いだとは重々承知ですが……。これからも、この家に住まわせてもらえませんか?」
「ワシはええぞ。ばあさんはどうじゃ?」
「わたしもいいわよ。家が賑やかなのは良いことですしね」
「あ……ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
二人は僕の意思に快く賛同してくれた。
そんな二人に、僕とノインは感謝の意を込めて揃って頭を下げる。
するとジュリエットさんが、声を弾ませながら言う。
「それにしても嬉しいわ。わたし達は子宝に恵まれなかったから……。このトシになって家族が増えるのは喜ばしいことよ」
「そうじゃな」
ジュリエットさんの言葉に、ロミオさんは同意するように頷く。
ノインも、彼女のある単語に反応する。
「家族……ですか」
「なんじゃ、不満か?」
「いえ……。わたし達のことをそういう風に思ってくれるのは、とても嬉しいです」
ノインはロミオさんにそう返すけど、内心実の母親であるタリアさんのことが気になるのだろう。
ほとぼりが冷めたら、アメジストの町に行ってみてもいいかもしれない。
そんなことを思っていると、家のドアが大きな音を立てて開かれた。
そしてそこから、村に住む一人の男性が現れた。
彼は僕達がいるリビングの方にやって来ると、ロミオさんの前に立つ。
「ロミオ爺さん! とうとう異端審問官達に、この村の存在がバレた!」
「それは本当か?」
「ああ! 武装した奴等の部隊がこの村の方にやって来るのを、森の中で見かけたから間違いない!」
「分かった……。みんなに戦いの準備をさせて、村の中央に集めておいてくれい。ワシらもすぐ行く」
「了解した!」
男性はそう返事をすると、駆け足で家を出て行った。
そしてロミオさんは立ち上がり、僕達の方に近付いてくる。
「そういうわけじゃ。二人は早くこの村から逃げい」
「そんな!? 僕達も一緒に戦いますよ!」
「そうですよ! わたし達も一緒に戦います!」
「年寄りの言うことは素直に聞くもんじゃよ、シックス君、ナインちゃん。いや……ゼクス・クレスタ君に、ノイン・フェアリアちゃん」
ロミオさんに本名を呼ばれ、僕達は動揺する。
「どうして、その名前を……」
「おや? 鎌をかけたつもりだったんじゃが、まさか当たるとはのぅ」
ロミオさんはいつもの飄々とした笑みを浮かべながら、そう宣う。
本名がバレてしまったので、僕は【幻影仮装】を解く。
ノインも僕と同じように変装を解いた。
それを見ても、ロミオさん達は特に驚きもしなかった。
そんな二人に、僕は尋ねる。
「……いつから気付いてたんですか?」
「初めからじゃよ。シックスとナインとか、偽名を名乗るにしても適当過ぎるじゃろ」
「うぐっ……」
そう言われては、反論の余地もなかった。
「じゃからこれからは、ワシらの名前を名乗るといい」
「えっ……?」
ロミオさんの言っていることが理解出来なかった。
言葉の意味は解るけど、その意味が解らなかった。
「ワシらの名前はありふれた名前じゃ。偽名だと疑われないじゃろ」
「それに、わたし達が『生きた』という証を、誰かに受け継いで欲しいの」
ロミオさんの隣にやって来たジュリエットさんが、彼の言葉を引き継いでそう言う。
「分かり、ました……。お二人の名前、有り難く名乗らせていただきます」
僕とノインは再び、二人に向かって頭を下げる。
感謝してもし切れないほどの恩を、この老夫婦から受けている気がする。
「お礼はいらんよ。そんなことより二人共、早く逃げい」
「一緒に戦う……と言っても、認めてくれないんですよね?」
僕がそう尋ねると、ロミオさんは無言で頷く。
そのことに納得出来ないけど、彼の指示に従うことにする。
「分かりました……。僕とノインは、この村を出ます」
「ああ、そうせい。……最後に一つ。ゼクス君、ノインちゃんと繋いだその手を絶対に離すなよ?」
「はい、約束します」
「うむ、良い顔じゃ」
ロミオさんはそう言って、僕の肩を力強く叩く。
ジュリエットさんは、僕と繋いでない方のノインの手を取って、両手で優しく包み込む。
「ノインちゃんも。絶対にゼクス君の手を離しちゃダメよ?」
「はい、絶対に離したりしません」
「うん、良い娘ね」
ジュリエットさんはそう言って、ノインの頭を撫でる。
そしてロミオさんが、僕達に促してくる。
「さぁ、行きなさい」
「はい……。ロミオさん、ジュリエットさん。短い間でしたが、お世話になりました。……行こう、ノイン」
「うん……。二人の恩を、わたし達は一生忘れません。さようなら」
二人にそう別れを告げて、僕とノインはお互いの手をしっかりと握り締めながら、お世話になった家を出た―――。
長くなりそうな予感がしたので、前後編に分けました! スンマセン!
サブタイトルの本当の意味は次回のお楽しみ、ということで勘弁してください……。
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