表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/36

第1話 異端審問官

新作です!

少しでも楽しんでいただけたら幸いです

 

 魔女―――。

 それは、『魔術』と呼ばれる異能の力を持った存在の総称だった。


 魔術は万人が使える魔法とは異なり、その個人特有の能力を有している。

 その能力はピンキリで、強大な能力の魔術を持った魔女はその気になれば一国どころか、大陸すらをも滅ぼせるとまで真しやかに噂されている。


 それ故、魔女は危険分子、世界の敵という認識がなされている。


 そんな魔女を専門に対処する者達が存在する。


 それが異端審問官。


 彼らは対魔女戦に特化した力を用いて、世界各地に存在する魔女達を日夜処分している。

 暗殺紛いの方法で魔女を殺したり、公衆の面前で魔女を公開処刑したりと方法は様々だった。


 それらは通称『魔女狩り』と呼ばれている。


 そしてそんな異端審問官の一人が僕、ゼクス・クレスタだった―――。




 ◇◇◇◇◇




 チチチ……と小鳥の囀ずる声が聞こえる。

 その声を聞きながらベッドの中で微睡んでいると、盛大な音を立てながら部屋のドアが開かれ、誰かが入ってくる。

 ノックもせずに入ってきたその侵入者はベッドの側に立つと、僕が頭から被っている毛布に手をかける。


「ほら、ゼクス。朝だよ〜! 起きて〜!」


 侵入者はそう言うと、僕から毛布を奪い去る。


 ……毎朝のことだけど、理不尽極まりない行為だと思う。


 そんなことを思いながらも、僕は侵入者に言われた通りに身体を起こす。

 そして侵入者の方に目を向ける。


 侵入者は綺麗な銀髪を三つ編みにして、ソレを右肩から身体の前へと垂らしている。

 瞳の色は空をそのまま落とし込んだかのような青色で、均整の取れた顔には活力に満ちた笑みを浮かべている。

 身体の方も女性らしい曲線美を描いていて、客観的に見ても美人の部類だろう。


 彼女の名前はノイン・フェアリア。

 僕より一つ年上の幼馴染で、居候させてもらっているこの家の一人娘だった。


 僕はノインに朝の挨拶をする。


「おはよう、ノイン」

「おはよう、ゼクス」


 ノインはそう言うと、柔らかい笑みを浮かべる。

 その笑みだけで並み居る男達を虜にしてしまうような、そんな魅力があった。


「もう朝ごはんが出来てるから、早く着替えて来てね?」


 ノインはそう言って、僕の部屋から出ていく。

 彼女が立ち去った後、僕はクローゼットへと向かい寝間着から普段着に着替える。


 ダークグレーのワイシャツに腕を通して、第二ボタンまで開ける。

 黒のスラックスを履いて、それを革製のベルトで固定する。

 少々ラフな格好だけど、出掛けるまではこれで十分だろう。


 クローゼットの扉を閉めて、リビングへと向かって行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 僕の部屋がある二階から階段を下りて、一階にあるリビングへと向かう。

 リビングにあるテーブルではすでに、ノインが朝ごはんを食べ始めていた。


 彼女の隣に座ると、それを見計らったかのように朝ごはんが運ばれてきた。

 僕は運んできてくれた人にお礼を言う。


「ありがとうございます、タリアさん。それと、おはようございます」

「はい、おはよう、ゼクス」


 彼女はタリアさん、ノインの母親だ。ノインと同じ髪色をしている。

 ノインの父親は二年前に持病が悪化して亡くなったおり、この家には僕達三人で暮らしている。


 何故僕がこの家に居候させてもらっているかというと、僕の両親はすでに他界しているからだ。


 今から十年前、当時僕が八才だった時に、両親は流行り病に罹患してその命を落とした。

 両親が亡くなった後、僕は家族ぐるみの付き合いがあったフェアリア家に引き取られた。

 そして実の娘のノインと共に、我が子同然のように育てられた。


 閑話休題。

 僕は「いただきます」と言ってから、朝ごはんを口に運ぶ。

 朝ごはんを食べつつ、昨日伝え忘れていたことをタリアさんに伝える。


「そうだ、タリアさん。僕は今日から隣町での仕事にあたるので、二、三日は家に帰って来ません」

「分かったわ。それで今回は……」

「トパーズの町ですね」


 この家があるアメジストの町から、馬車で半日ほどの距離にあるのがトパーズの町だった。


「そう。お仕事、頑張ってね」

「はい、頑張ります」

「お土産よろしくね、ゼクス♪」


 そう言ってノインが、清々しいほどの笑顔を僕に向けてくる。

 僕は若干呆れつつ、彼女に言う。


「遊びじゃないんだから、買ってくるわけないだろ」

「むぅ……。ゼクスのイジワル」


 ノインはそう言うと、可愛らしく頬を膨らませる。

 そんな彼女に苦笑しつつ、朝ごはんを平らげる。


 そして自室に戻って、身支度を調える。


 ワイシャツは第一ボタンまでしっかりと閉めて、黒地のネクタイを絞める。

 シャツの上から、異端審問官の証である漆黒のロングコートを羽織る。

 ロングコートが黒いのは、何者にも染まらないという理由があるらしい。


 そして腰に提げた魔法袋に、今回の仕事で必要なモノを仕舞っていく。

 魔法袋というのは、中が亜空間になっている袋のことだ。この袋は、一軒家が丸々収納出来るくらいの容量がある。


 必要なモノを粗方仕舞い終え、部屋を出る。

 玄関では、ノインとタリアさんが見送りに来ていた。


「それじゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい、ゼクス」

「いってらっしゃい。気を付けてね」


 玄関の扉を開けて、僕はトパーズの町に行く馬車が出る停留所へと向かった―――。




 ◇◇◇◇◇




 半日ほど馬車に揺られ、僕は無事にトパーズの町にたどり着いた。

 馬車から降りて、僕はその足で今回の仕事場へと向かう。


 大通りを歩いて行き、目的地へとたどり着く。

 僕の目の前には、五階建ての立派な建物がそびえ立っていた。

 この建物は『ワルプルギス機関』と呼ばれる、僕達異端審問官が所属する組織の施設、そのトパーズ支部だった。


 その建物へと、僕は躊躇無く足を踏み入れる。

 一階部分は天井が吹き抜けになっているロビーと、受付があるだけだった。

 受付へと向かうと、そこにいた受付嬢が営業スマイルを浮かべながら僕に対応する。


「ようこそ、ワルプルギス機関トパーズ支部へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「トパーズ支部支部長の要請を受けてやって来ました。支部長はいらっしゃいますか?」

「只今確認いたします。失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「ゼクス・クレスタです」


 僕がそう名乗ると、受付嬢の眉がピクリと動いた。


 ……僕の『異名』を知っているな、コレは。


 悪名、と言った方が正しい気がする。

 けれど受付嬢はすぐに営業スマイルを取り戻して、僕に向かって言う。


「今確認するので、少々お待ちいただけますか?」

「はい、構いませんよ」


 僕がそう言うと、受付嬢は通信用の魔道具でどこかと連絡を取り始めた。


 数分して、受付嬢が僕に伝えてくる。


「支部長のアールは今、執行場にいるとのことで、ゼクス様にはそちらまで足を運んでいただきたいとのことです」

「分かりました」


 それから受付嬢に執行場までの道のりを軽く説明してもらい、僕はそちらへと向かう。


 着いて早々、『仕事』のようだ―――。






ゼクスの異名は、彼の能力と関係しています。




評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ