第四十六夜|龍神様
author:蒼鉛
青い空高く、龍神様がひとりてくてくと歩いておりました。
「あー、ちと小便」
雲の通い路にさしかかったところで、龍神様は薄く長い衣をかき分け、またぐらから一物を取り出して立ち小便をはじめました。するとそのゆまりは細かに別れ、いつしか豊かな雨となり、広く山へ田へ、めぐみとなって降り注ぐのでした。
「あぁ~……んっしょんっしょ」
ふるふると腰を振りつつ龍神様は、雲間から覗く野の緑を見、そして満足そうにほほえむのです。
どこか、遠くの方で雨を乞う声が聞こえます。龍神様はまたゆるやかに歩きだします。そこへ風神様と雷神様が連れ立って飛んできました。
「どうしてアニキの耳はそんなに長いの?」
「それはな、うまし我が民の儂を乞う声を逃さんがためじゃ、雷神よ」
「何故兄貴の目はそうもギョロッとしてるのですか」
「それはな、うまし我が民の姿を見届けんがためじゃ、風神よ」
「じゃあ、どうしてアニキはそんなにションベン近いの?」
「それはな、儂が年寄りでかつ酒飲みだからじゃ、雷神よ」
「それでは何故兄貴は時に『精を出して』雨を降らすのですか? 大勢の娘と子がかわいそうだとは思わんのですか」
「それはな、許せ、風神よ」
「クソジジイ! 責任取れ!」
空の上、龍神様と風神様と雷神様がかけくらべ。白雲青雲黄色雲、突き抜け置き去りたなびかせてはいかな速駒も裸足で逃げる。ビュンビュンと音を上げてあっという間に民のもとへと辿り着きました。栄えある一番は龍神様。見下ろすと、村人の前でまだ宮司が祝詞をろうろうと聞かせています。
「オッ、なんだあいつ、よく見るとイケメンじゃわの。ちと小便引っ掛けてやろう」
「アニキのかわいいこどもが一人増えるね」
「孕ませないで下さいよっ。兄貴あなた相手が男でもお構いなしじゃないですか」
さて、龍神様は腰のひょうたんから酒をぐいとやると、もぞもぞと立ち小便を始めます。するとじょろじょろとしたゆまりがやがて夕立となり、そこらの土を濡らすのです。風神様と雷神様は手を取り合い、ぷうと息を吹きごんろごんろと太鼓を叩きます。すると吐息は風となり、木々をゆらして野面を撫で、太鼓の音は雷となり、暗雲を照らし田畑を肥やします。たちまち村は大喜び、民は諸手を上げはしゃぐのでした。龍神様、風神様、雷神様はそんな民草を、丸い眼を細くして眺めていらっしゃいました。
「しかし、ダメかの……こう、しゅしゅっと」
「駄目ですよ! あっ、こら!」




