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デカメロン同人  作者: 権兵衛(管理人)
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第二十三夜|神農さん

author:権兵衛

お暑うございます。虎です。虎造。へえ。竹ノ内の香具師(やし)連の。ごめんやっしゃ。

いやほんまに暑いなあ……ちょっと神官さん、なんぼ仁徳さんのご仁政にあやかる云うてもやな、境内にあまりわけのわからんもんに野放図さしといたら……え何。もう。神官ちゅう呼び方すな。はあ、左様(さよ)か……え、なんで?へえ。なんでもかんでもない、タイキョウセンプがわやになって。何や、(もと)のタイキョウセンプがわからんから、(あと)のわやが余計わからん。そんで、そのわからんもんがわやになったあとの神官さんは、どないしてお呼びしたらよろしおまんの。へえ。ぐ、宮司さん。な、なんやこそばいな。今までずっと神官さんで慣らしてきてもうたもんを、今さらそない言われてもなあ……。へえ?何しに来た?こおつと……。


あれ、わし何の用事で来たんやったかいな……こおつと……ちょ、ちょっ待っとくなはれ。確か、ぼちぼちお祭りの準備さしてもらわなあかん思うて、さっき香具師連中から出店の頭数を取って警察に出店願いを出いてきまして……それだけやったら許可は出されへん、言うて。届け出、突っ返されてまいよったんですわ。なんでじゃと尋ねても、なんでもかんでもない。あ、これさっきの神官さんと同じ物言いだんな。どこもお役人さんちゅうのは、似たような言い方しなはるなあ。

ほんで警察方の言うには、届け出さえ出したらあとは好き放題、取り決めも守らんとそこいらじゅうに出店を出して、揉め事になるなんちゅうことが増えてきとると。何でも松屋町あたりで買うてきたサラの玩具を路肩で売って、またその値段が箆棒に高い。そしたら案の定客と揉め事になってしもうて、しまいに刃傷沙汰になった、ちゅうて。ほんで、警察方でもしっかりそこらへんの取締が行き届くようなるまでは、出店願いもそうそう簡単には受理せえへん、なんて言われましてな。どんならん、そんな益体(やくたい)もない理由でわしらの凌ぎを取締まられてもなあ。正味の話、どんならんわ。何やねん、松屋町で買うてきた玩具て。あほくさい。


その警察方の言うには、此度の太政官布告で禄にあぶれた士族連中やら、不義理を働いてほとぼりの冷めん渡世人やら、挙句の果ては刑余の輩まで、まあ、届けさえ出せば店を持てる気軽さに惹かれてか知らん、山ほど出店願いが来たらしい。

おかしな話やおまへんか、我がの都合で改めもせんと盲滅法に出店願いを受けといてやで。ために本物(ほん)の香具師連中がいざ高市(たかまち)を開こうと届けだしたら、それは受けられへんと、こう抜かしよるんですわ。わしそれ聞いてトサカに来てまいよってな、思わずその巡査殿の胸倉掴んで、じゃかましいんじゃ、このニンコロが。己の匙加減で猫も杓子も露天商にしくさっといてから、皺寄せは全部(でんぶ)こっち持ちかい、眠たいこと抜かしよったらしばき倒すど、と。――まあ、そない言えたら胸もすくわいな。まあ、実際のところはそうも行かんわな、こっちが死ぬも生くるも(さき)さん次第や。こう、七重の腰を八重に折り、いやあ~堪忍(かに)しとくなはれお巡りさん、そら殺生な話やおまへんか、とだけ言うて今日のところは引き下がって参りまして。


いや、わしも道々、考えよったんですがね。わしら香具師連中にしても、ちょっと考えを改める必要があるで、と。そら、家光将軍の頃から此度の御維新に至るまでは、のんびりしたもんや、お上の取り決めに従うて、寺社の境内で自由気ままに高市だしてやってこられた。特に組合らしい組合もない、まあそれが(あだ)となってのこの為体(ていたらく)や。文明開化、四民平等、凌ぎのあてになりそうな新開の歓楽地ができたはええわい。それよりも()倍も五倍も(せん)に申したとおりの、にわか露天商がやって来てわしらの上前を撥ねて行く。売るもんも昔は香具に限られてたもんが、今はもう何でもありや、右も左もわからんもんが、仁義も切らんと好き勝手ワケのわからんモノを売る。品物は増えたなら、当然粗悪品も増える。そんだけならええわい、騙された客が怒ってきよるのも当然、それがもとで刃傷沙汰になるのも、まあ言うたら世の常やがな。

ただそれをひとえに警察の怠慢や、ちゅうて済ましてしまうにはあまりにも浅はかなことやと思うんです。世の中が変わったなら、凌ぎの有りようも当然変わる。文句だけ垂れて手をこまねいとったら、そら、露天商も界隈ごとわやになってしまいますよってな。よし決めた。わし組合作るで。そこ通さんと届ける奴は、すなわち香具師でもなんでもない、いわゆるモグリや。警察にしても、香具師連の事情に一々首突っ込まいでもようなる、揉め事も減らせる……あっはは、ええことずくめやないかいな。


今までは神農さん、神農さん言うて香具師連中を徳で引っ張って来られた、世話もない、のんびりした時代や。ただもう向後はそうも立ち行きませんわな。正味の話、わしらもちゃんとした組合を作って、内側から変えて行かな、どうもなりまへんで……そうそう。ちょうどさっきも、ここへ上がって来しなに、お稲荷さんの脇のところでいかつい図体した男が三味線持って、崇徳院さんの歌をどえらい大きな声で歌いよって。一体、何だんの、あれ。もう目つきからして、尋常一様やおまへんで。神官さん、あとでちょっと見てきてご覧なはれ。あんなん、絶対(でったい)におかしいで。あんなん、香具師連中には知り合いが居てない、角付けの(ぼん)さん見た様でもない。気色の悪い。それこそああいう手合いが早晩にも、そこらで若いおなごを(かどわ)かして手籠めにする、手籠めにしたあとは、扱いに困って(むしろ)に包んで道頓堀へボチャーンと……。


へえ?ほんで、何の用や?いや、お三味持った怪しい男のことは、どおでもよろしいねん。そんなん来しなに目の端に入って、ちょっと気になっただけでっさかいにな。気色の悪い。ただ、ああ、こういうワケのわからん(もん)を十把ひとからげに露天商やと思われるのも詮無い話や……あ。ああ!思い出したわ。わし、今度の高津さんのお祭りに高市を出そう思いましてな。ほんで警察に届けに出向いたところが、「此度の世情に鑑み業界の取締が行き届くまで受理すべからず」、とか何とか、けんもほろろに追い返されてしまいましてな、どうしたもんかと神官さんにご相談にあがりましてん、あれ?

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