第二十二夜|祖父
author:蒼鉛
祖父は俺に優しかった。だから俺も祖父のように優しくあろうと思った。
祖父は夏の日にはよく外を眺めていた。目の先には前の通りがあるだけで、たいした代わり映えもしなかったが、その実祖父がその通りを眺めている訳では無いのだということは彼を眺めていて感じられた。
今思えば、過去を懐かしんでいたのだろう。
祖父は男色家だった。
父は知らなかったが、祖母は承知していたようだった。きっとままならぬ事もあったろうが、祖父は皆を大切に扱った。
物心ついたときから俺は知っていたが、それにどういった切欠があったかなどはとんと覚えていない。ただ、4つくらいの時に祖父に「ぼくをすきになってもいいよ」などと言った覚えがある。今となってはお笑い種だが、その時は真面目だった。幼いながらに何かしら彼から感じとっていたのかもしれない。「ゆるしてあげたい」という気持ちがあったのだろうと思う(許すなどというのも尊大な物だ)。祖父は「そうかい」とだけ答えたが、その慈しむ笑みに俺はひどく安心したのを覚えている。
祖父は昔の友の話をするとき、あの「外を眺める顔」をしていた。きっと、祖父にとってはそれは昔の恋の話でもあったのだろう。
11の時に祖父は死んだ。涙は出なかった。ただ寂しさが俺の肩に腕を回した。
祖父と違い父は荒れやすかった。母と離婚してのちは2人で暮らしたが、深酒をしては手が飛んできた。そのうちに寂しさに加え、父への忌避が足に纏わり付くようになった。俺はなけなしの金でギターを買って、父の居ない間に没頭するようになった。
俺自身も男好きであるのだと知ったのもこの時期だった。離婚に際し、俺と父は海の近くの町に越していたが、俺はそこで近所の同い年の男に恋心を抱くようになった。ああ、俺も祖父と同じだったのだな、と胸の底にしみこむ温かさがあった。
彼とはよく遊ぶようになった。夏の海は泳ぐのには最適だったし、夜に花火をするのは愉快だった。なにより柔らかな彼の笑みはまだ平たな俺の胸を疼かせた。同時に俺は父をより避けるようになり、家にいる間は図書館に籠もるようになっていた。祖父は読書家だったので、自然と自分も本を読み漁るようになった。祖父が何を思って書を読んだのかを考え込むのは快だったし、現実逃避に最適だった。
3年ほどをそこで過ごしたが、結局彼に思いを告げることは無かった。中三の夏に、彼には可憐な恋人ができた(俺は失恋したのだ)。お似合いだと感じたし、実際2人は互いに思い合っていた。末永くお幸せに、と手を振ったのは、進学に際し海辺の町を離れる時のことだった。俺は、父のいるこの町から距離を置きたかった。しかし、友の存在と、彼と過ごした掛け替えのない時間は、この町での思い出を美しい物にしていた。
思えば、友と祖父はどこか似た雰囲気があった。俺はきっと、祖父の白髪と笑みに安心していたように、彼のすっきりとした空気と柔らかな笑みに心を預けていたのだろう。




