第五十二夜|かわいそうなイキモノ
author:送水こうた
兄が留守にしている間に、こっそり人魚を連れ出した。
二階にある彼の部屋の中は、遮光カーテンで閉め切られ、正午過ぎだというのに真っ暗だ。そっと足音を立てないようフローリングの床を進み、雑然とものが置かれている床の片隅に、透明なプラスチック製の衣装ケースが蓋もかぶせずに置かれているのを見つけた。
覗き込んでみると、中には半分くらい水が張られており、そこに人魚が薄いまぶたを閉じたまま水に浮かんでいる。
6、70cmほどの大きさのそのイキモノは、上半身が人間の子どものような姿で、下半身が普通の魚のように硬いウロコに覆われている。尾ビレの先は薄く透き通っているのが暗がりでも分かった。
仰向けで小さな子供のような腕を胸の上で組み、人魚は呼吸も微かに眠っている。水の中に広がる髪の毛が海藻のように揺れていた。
私は小脇に抱えていたバスタオルを床に広げてから、水槽がわりの衣装ケースに両腕を突っ込むと、人魚の首と尾ビレの真ん中あたりに手を差し入れ、水の中から抱き上げた。
滴り落ちるしずくから、潮の匂いがする。
起こさないように床に敷いておいたバスタオルで包み込み、息を殺して部屋を出た。
焦らずに。落ち着いて、ゆっくりと。
自分に言い聞かせながら階段を降り、廊下を進む。ドアを蹴り開けてバスルームに足を踏み入れ、冷めた残り湯が溜まっているバスタブに人魚を放つ。どういう仕組みか、そのイキモノは沈むことなく水面にぷかりと浮かんだ。
明るい中に連れ出された人魚は、まだ眠っている。薄いまぶたに、ぬめるような光沢のある肌。下半身の硬い鱗は黒くくすんだ銀色。
(……ソイみたいだな)
あまり生きている魚をマジマジと見る機会がなく、以前父と兄が釣ってきて見せてくれた魚としか比べようがない。その魚は、刺身にして食べた。両親や兄はアラまで三平汁にして平らげたが、強い潮の香りが苦手な私は結局汁物に口をつけなかった。
この人魚をさばいたら、ソイのように薄く桃色が差した白身の肉が現れるのだろうか。
そんな下らないことを考えながら、私はシャツを脱いで脱衣場に放り投げる。デニムのボトムも蹴り下ろして、あらかじめ着込んでいた水着だけになる。右足からバスタブに浸すと、つま先が冷たい感触に包まれる。
思い切って左足も水に入れ、ガスの給湯機パネルを操作してから座り込んだ。背中に出湯口のゴツゴツとした感触が当たっている。
風呂の水かさが増して、浮かんでいる人魚が川に流されていく笹舟のように揺れる。
次の瞬間、人魚はパチッと薄いまぶたを開いて覚醒した。
「…………!」
安らかな眠りを妨げられたイキモノは、仰向けに浮いたまま、瞳ばかりが大きくてまつ毛のない目で周囲をキョロキョロと見渡す。そして、私の姿を認めた途端、血の気を感じられない唇を歪めて、こちらを小馬鹿にするように笑ってみせた。
*
少し内気で、2つ年下の私に守られてばかりいる兄が、この生意気な人魚を拾ってきたのは、秋も半ばの頃だった。
兄は冬を迎える前に釣りをしておきたい、といって珍しく一人で出かけて行った。
私たちの住む札幌市には海がないため、隣の小樽市の埠頭まで足を伸ばしたと聞いている。
晩秋から冬にかけてはホッケが釣れる。久し振りに好物のフライが食べられる、と密かに期待していたのだけれど、兄がクーラーボックスに詰めて帰ってきたのは、ホッケでもカレイでもなく、人間とも魚ともつかない奇妙なイキモノだった。
「なに? コレ」
「たぶん、人魚だよ。アイヌの民話でも人魚の話があるんだって。小学校の頃図書館で読んだ妖怪事典に書いてあった。民話の中では道南の海に出たらしいけど、別に小樽の海にいてもおかしくないんじゃないかな」
「へー」
なんて、うさん臭い話だろうか。
妹である私の冷めた反応にも気がつかず、兄は喋り続けている。
「釣りをしていたら近くに寄ってきて、ずっとこっちを見てくるんだよ。声をかけたら『ケッ』って笑って逃げちゃうんだけど、またすぐ戻って来てさぁ」
そして最終的には、兄がタモ網を海に下ろして呼ぶと、自らその中に入ってきたらしい。
「それ、珍しいイキモノだろうから、勝手に捕まえたらダメなんじゃないの?」
「ダメかな。でも、そのままにしておいたら、他の誰かに見つかっちゃうかもしれないだろ。かわいそうなイキモノだよ。だから、ひとまず僕が連れて帰ってきたんだ」
すっかり自分のことを棚に上げた兄は、大事そうにクーラーボックスの中から不気味な魚を抱き上げると、赤ちゃんをあやすようにユラユラと揺らした。
人魚は薄い唇の端をつり上げ、せせら笑っているような表情を浮かべて周囲を見回す。口の裂け目から、細かく尖った歯が覗いていた。
「どう世話するかも分からないんでしょ。早く元いた海に帰してあげなよ」
「うーん」
しぶったような、ごまかしているような、どちらとも取れる返事をしたっきり。
この日から、兄はすっかり人魚に夢中になってしまった。
驚いたことに、息子が正体不明のイキモノに入れ込んでいることについて、父も母も特に問題視しなかった。
兄の仕事は在宅での作業がほとんどで、日中部屋から出てこないのは珍しくない。食事の時間だ、と呼べば部屋から出てきて一緒に食卓を囲むし、風呂にだってキチンと毎日入る。時折餌の魚を求めて買い物に行くため、完全に引きこもっているわけでもない。
人魚は普通の魚よりも生命力が強いのか、一度ストーブの熱気にあてられて衰弱した他は、魚の切り身を食べ、カルキを抜いた水道水の中で漂って元気な様子だった。
不気味なペットが増えたこと以外、特段今までと変わらないと判断され、家族内で反対しているのは私だけという状態だった。
(やっぱり、おかしくないか?)
私は何度も兄に人魚を海に帰すよう忠告した。実際に、この不気味な魚をクーラーボックスに詰めて海へ行ってこい、と何度も家から送り出したが、結局彼が一人で戻って来ることはなかった。
私の話に聞く耳を持たず、人魚を後生大事に扱う兄の姿は異様だった。
(これ以上お兄ちゃんを放ってはおけない)
冬になってから、とうとう私は兄が風呂に入っている間に部屋に忍び込んで人魚を連れ出し、家の近くに流れている川まで行って、そいつを投げ捨てた。
コンクリートに舗装された浅い川だったので、放り投げられた人魚の姿は丸見えだった。初めは何が起きたのか分かっていないらしく、ソレはぎょろりと目を剥いて私を見上げるばかりだったが、やがて、突然甲高い声で、
「おにいちゃん、たすけて」
と叫び始めた。
ヒトの言葉が分かるのか、と私が動揺しているうちに悲鳴を聞きつけた兄がやって来て川に降り、膝まで水に浸かりながらも人魚を助け上げてしまった。
「お兄ちゃん、馬鹿なの。風邪引くだけじゃ済まないんだから!」
「こんな所に放すなんて、何考えてるんだ。危ないだろ。誰かが見つけるかもしれない」
「捕まる前に、自力で海に帰ればいいんじゃない? 助けも呼べるんだから大丈夫だよ。元はといえば、お兄ちゃんが連れて来たのが悪いんでしょ」
兄が珍しく説教してきたが、気弱な彼には迫力が全くない。私が反論してそっぽを向いた瞬間、人魚が「ケッ」と笑った。
それが合図だったように思う。
妹の私よりも人魚をかばう兄と、勝ち誇ったような態度のイキモノに対して、怒りで胃の腑がカッと熱くなるのを覚えた。
(絶対に、こいつを追い出してやる)
私はそれ以来、隙を狙ってはなんとかこの不気味なイキモノを排除しようと試みている。
兄が寝ている時、私より食事を終えるのが遅かった時、仕事のネット会議中でパソコンのディスプレイから離れられない時……。
水槽代わりの衣装ケースから飼い主の注意が逸れている時を狙い、私は人魚を盗み出しては冬の川に放り投げた。
不気味な魚は、ヒトとは全く異なるイキモノだが、ある程度の知性はあるらしい。
自分にとって、誰が安全で誰が危険かを理解しており、自身に害が及びそうになればヒトの言葉を使って助けを呼ぶ。幾度も川に放り込まれるうちに私のやり口を学習し、いつしか私が兄の部屋に近づく気配を察しただけで「おにいちゃん、たすけて」と叫ぶようになった。
呼ばれるたびに、兄は流されていくイキモノを救出するため、濡れるのも構わず縁が凍りついている川に降りた。
「これ以上、かわいそうなことするな」
何度目かの時に、すっかり体が冷え、ガタガタ震えながら兄は私を叱った。私は「いつから魚がお前の妹になったんだ」と問い詰めたくなるのをこらえた。
いつも大人しくて、内気で自分に自信がなくて、私の陰に隠れてばかりいたくせに。あの世話の焼ける兄はどこに行ってしまったのだろう?
(お兄ちゃんは、私が守ってあげないと駄目なのに!)
兄の腕の中で、人魚は薄い唇を歪め、私を馬鹿にするようにニタニタ笑っている。
*
私は冷たい風呂に浸かり、薄ら笑いを浮かべる人魚と向かい合っている。
「おにいちゃん、たすけて」
人魚はいつものように兄を呼ぶ。
眠りから覚めた当初は状況が掴めていないのか、ポカンと目を見開いていたが、例によって私の仕業だと理解してからは、ヒトを馬鹿にしたような態度に変わったのが、また頭にくる。
口元に浮かべた笑みは、自身の絶対の安全を確信しているかのようだ。
「おにいちゃん。おにいちゃん、たすけて」
いつものように助けを呼ぶが、人魚が上げる高くて細い声は、風呂場に反響するばかりで、誰からの返事もなかった。
「助けなんて、来ない」
今度は私が人魚を鼻で笑い、突き放すように言い放った。
ここまでこぎつけるまでには、それなりに苦労した。
私がことあるごとに人魚を捨てようとするため、兄の警戒が厳しくなり、ここしばらくはなかなか近づくことができなかった。彼の言葉の端々から、兄が仕事のためにどうしても出社しなければならない日を特定し、いつものように大学へ行くふりをして、家族皆が出払うタイミングを見計って自宅へ取って返した。今、この家にいるのは一人と一匹、私と人魚だけだ。
「おにいちゃん……」
小さく不気味なイキモノは、せわしなく兄を探していたが、ようやく飼い主が来ることはない、と理解したらしい。大きな瞳をギョロリと剥いて私を見上げる。
「お前の飼い主は、お前を守ってなんかあげられないよ。あの人は、ずっと私が守ってきた。気が弱くて人見知りで、私がいなかったらいじめられて、学校にだって行けやしない。ずっと一緒に生きてきたのに、アンタはそれを台無しにしようとしてる」
かわいそうなイキモノだ。
調子に乗って何度も飼い主を頼りすぎた。
初めに私が川に投げ捨てた時、大人しく自力で海に帰ればよかったものを。
「わたしをたべるの」
人魚は薄い唇を開いてそう言った。
ようやく違う言葉を喋ったと思えば、とんでもなく見当違いなことである。
「食べたりなんてしない」
「わたしをたべるの?」
また、同じことを聞く。
「捨てに行く。今度は助けも呼べないし、絶対に戻っても来られない」
私の言葉の意味が分からないのか、人魚は子どものような顔つきのまま、ポカンと虚空を見つめた。
「わたしを、たべるの」
三度同じことを尋ねた人魚が、尾を激しくくねらせ始めた。どうやらようやく気がついたらしい。
「食べたりなんて、しない」
私もやはり同じことを答えると、バスタブの壁に密着させていた背を離し、両手で放心しているイキモノをしっかりと掴んだ。
冷たい水に浸かって芯まで冷えかけていた体が、じんわりと温まっていく。
ガス給湯器から電子音が鳴った。
追い焚きを経過を報せる音だ。風呂に浸かる際に設定しておいた。
出湯口から放出されたが、私の背に行き場を塞がれ、後ろにわだかまっていた追い焚きで温まった湯が、一気にバスタブの中に広がり始めたのだ。
「私ね、魚の汁物は嫌いなの」
急激な温度の変化に耐えかねて、人魚はみるみる力を失っていく。思った通り、このイキモノは低温には強いが、熱には弱い。
腕の中から抜け出したりしないように、がっちりと抱き締める。人間の姿の上半身は拘束から抜け出そうと、ぐにゃりと脱力し、魚の下半身は力強い筋肉でバシャン、バシャン、と水面を叩いた。
「わたしを、たべるの、たべるの」
全身でのたうち回る人魚を押さえつけていると、そのイキモノは細い腕を伸ばし、小さな爪の手で私の顔に掴みかかってきた。
知性があるようなそぶりを見せながら、そいつの動きは死に物狂いで生き残ろうする野生動物そのものだった。
「あッ」
揉み合ううちに私はバランスを崩して、バスタブの中で後ろ向きに倒れ込んだ。体制を立て直す暇もなく浮力で腰 が浮き、ひっくり返った胸の上に暴れる人魚が乗りかかってくる。
ザブン、と音がして、私はとうとう頭から湯の中に沈んでしまった。
慌てて脚をばたつかせるが、上体は一向に起き上がらない。息を止める間も無く沈んだ鼻の中に、容赦なくお湯が押し寄せてきて、目頭に近い鼻腔がツン、と痛んだ。
顔を掻き毟るように押さえつけてくる人魚の手を、何とか振り解こうともがき続ける。
(たすけて。たすけて、おにいちゃん)
私は心の中で初めて兄に助けを求めた。
その間にも、鼻や口の中にどんどん湯が流れ込み、意識が遠くなっていく。
「かわいそう」
キーンと頭の中に響く耳鳴りの合間に、クスクスと笑う声が聞こえた。あの、人を小馬鹿にしたような、人魚の甲高い声だった。
「かわいそうなイキモノ。たすけなんて、こない、こない」
うるさい。
うるさい、うるさい。
「たすけなんて、こないから、わたしをーー」
私はまた胃の辺りが燃えるような怒りに襲われて、顔を押さえつけてくる人魚の小さな手に思い切り噛みついた。
「ギャッ!」
鋭い悲鳴を上げて人魚は怯んだが、そのまま食いちぎってやろうと私はその指に歯を食い込ませる。気泡が立つ水中に、ユラユラと赤い煙のようなものが立ち込め始めた。
(お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん、おにいちゃん……)
そのまま目の前が暗くなり、深い海の中に放り出されたかのように、私は風呂の底へ沈んでしまった。
*
気がつくと私は病院のベッドに寝かされていた。
「よかった、気がついた」
顔色を真っ青にした母と、髪がボサボサに乱れた兄が強張った表情で私を見下ろしている。
聞けば、私は風呂場で溺れているところを急いで帰宅した兄に発見され、緊急搬送されたとのことだった。
体を起こそうとすると、兄に冷静に押しとどめられた。隣で「良かった、本当に良かった」と泣き崩れていた母が口を開く。
「お父さんは、今こっちに向かっているって」
鼻の頭がずっとツン、と痛んでいて、耳もボワボワと妙に音がこもっていた。やはり私は溺れていて、すんでのところで助かったらしい。
慌ただしく看護師と医者がやってきて、血圧だとか意識の状態などをあれこれ確認された。 ひとしきり診察が終わって、両親も飲み物を買う、と席を外してから、私は兄に尋ねた。
「……人魚は?」
「救急車が来る前に、僕の部屋に戻した。グッタリしていたけど、水の中に戻したからまたすぐ元気になる」
兄に宣告されて、私は絶望的な気持ちになった。
ここまで苦労してやったのに、結局振り出しに戻ってしまった!
呆然としていると、兄が私の顔を覗き込んできた。
「間に合って良かった。何度も言うけど、かわいそうだから、もう人魚には近づくな」
こちらの内心をつゆも知らない兄は、ほうっと安堵の溜息を吐き、お決まりの小言を口にする。
「お兄ちゃんはいつまであの魚をかばうの?」
死にかけた妹よりも、あのイキモノを心配している兄に我慢できなくなって声を荒げると、彼はびっくりしたように肩を震わせた。やっぱり、内気な兄が気迫で私に勝てるわけがないのだ。
が、珍しく兄は食い下がった。
「違う。僕がかばっているのは、人魚じゃなくて、お前のことじゃないか」
首を横に振り、はっきりと断言する。
「あの人魚は、僕にはただの珍しい魚だとしか思えなかったから。アレにとってはお前の方がたぶらかしやすかったんだ」
だからいつもお前を馬鹿にして気を引いていたじゃないか、と続ける。
「……どういうことなの」
私が続きをうながすと、いつものように自信がなさそうに、兄はボソボソと事情を説明をし始めた。
小樽の埠頭で見つけた人魚が、しきりに助けを呼んで釣り人を海に引き込もうとしていたこと。
犠牲者が出る前に、兄が連れ帰って部屋で隔離していたこと。
何度か海へ戻そうとしたが、やはりヒトを誘惑しようとするので放流してはいけないと思い直したこと。
いつしか人魚が、兄を独占されて冷静さを欠いていた私に目をつけて、わざと挑発するような言動を取るようになったこと。
なんだか、私の足元がとつぜん開いて、深い穴に落下していくような気分だった。私はずっと、自分が兄を守っているつもりだったのに、そこに付け入られていたということか?
「きっと、キツネやクマがヒトの食べ物の味を覚えてしまうのと同じことだ。人魚にヒトをたぶらかすことを覚えさせたら、もう野生に戻れない。昔話に出てくるみたいな、かわいそうなイキモノになってしまうんだと思う」
「なんでそんなことするのかな」
「さあ、分からない。群れからはぐれてしまって、淋しくて仲間が欲しいのかもしれない。でも、ヒトに危害を加えるなら見過ごせないし、かといって殺すことも出来ない」
どこにも行き場のない、かわいそうなイキモノだ。だから、ずっと僕の部屋に隠しておくしかないのかも。
兄は頼りなさげに呟いた。
「せめて悪さするんじゃなくて、ご利益があることしてくれたらいいのにな。ほら、人魚の血肉を食べると、長寿になるっていうだろ」
あれ、不老不死なんだっけ? と自問自答しているうちに、父と母が売店から戻って来て、部屋の中が賑やかになった。
ペットボトルのお茶やジュースを開け、喉を潤す家族を眺めながら、私は舌で自分の唇の裏側を舐めている。
(たすけなんて、こないから。わたしをーー)
あの時、あのかわいそうなイキモノは、何を言おうとしていたのだろう。
溺れた時に必死になって、人魚に噛みついた時に、口の中まで切れてしまったらしい。
舌の上に、じんわりと鉄の味が染みた。
おわり




