8話 拘泥
今回から通常(主人公)視点です。
ご了承の程よろしくお願いします。
「光結を生き返らせたのは、完全に俺のエゴだ。光結が気に病むことじゃない」
記者会見の終盤から少しづつ目を覚ました俺は、憤りを感じていた。勿論、自分にだ。俺は自分のために光結を蘇らせたと思いつつも心の何処かで、光結から
" 感謝されるんじゃないか " "特別な感情を抱いてくれるのではないか "と期待していたが、光結の叫びを聞いた後、打算的な自分が酷く醜く見えて、俺は "能無し " でも 能無しでなくても最低な奴だったとわかってしまったからだ。
「つ、ツッカー違うの・・・これは、」
(そんな顔しないでくれ、光結。あと先考えなかった俺が悪いんだ。)
「何も違わないでしょ? さっき口走ったことが全てじゃない?」
「だ、だって・・・第一、なんで佐山さんにそんなこと言われなくちゃいけないの!? 佐山さんはツッカーのなんなの!?」
「私は、異能管理局所属の異能執行官。唯一、専守防衛においてのみ人への異能の行使を許された者よ。
そして今は司くんのボディーガードに任命されているわ。でも、そんなこと関係無しに私は死ぬまで、いや、死んでも司くんの元で働き続けるわ」
「どうして、そこまで・・・・?」
「私に近寄ってくる人はみんな私の経歴や容姿目当ての下心を持った人ばかりだったわ。でも、司くんは違ったの。それどころか司くんは、父に早々に旅立たれて母は仕事でろくに一緒にいられない私に人が作るご飯の温かさを教えてくれた。人と一緒に食べるご飯の美味しさを教えてくれた。司くんの弁当は冷めていたけど、私の心は温かかった。たったそれだけのことって思うかもしれないけど、私にとってそれはとても大きなことだったのよ。だから・・・私は司くんさえいればそれでいいの。そのためなら何度死んだって構わない!」
俺はそんな風に思ってくれていたのか、と感動したが
それよりも、やはり自責の念が先立った。そんな風に思ってくれていた佐山をも俺は巻き込んでしまったのだ。俺はどうしようもない奴だ。ただ、佐山が俺に拘泥する様はいささか猟奇的に感じたが気のせいだろうか。
「それに比べてあなたは何?生き返らせてもらっておいて、事情を知った途端 "重すぎるので私には関係ありません "?随分と都合がいいことね?」
「だったら、私がもう一回死ねばいいんでしょ?そうすれば!」
(だめだ、それだけは)
「それだけは、やめてくれ光結。大丈夫だ、俺は、光結が、俺が繋いだ命で同じ世界に生きている。いつかは夢を叶えて、幸せな家庭を築いて、そうやって年老いてゆく。そう思うだけで幸せだから」
「ツッカー・・・・」
これは本心でもあり嘘でもある。今にも張り裂けそうな、いや、張り裂けた心の裂け目から心の奥底に眠る本心を取り出してぐちゃぐちゃに、握り潰している。
これは、どこまでも打算的で自己中心的で無能な俺が最後だけでも人のことを思いたいと言うせめてもの抵抗だった。
「ツッカー・・・・ごめん・・・」
今にも泣き出したいであろう光結は涙を瞳一杯にため、そう言って病室を飛び出していってしまった。去って行く光結の残像のように、溢れ落ち、真横に軌跡を描いた涙が煌めいたのをみて自分は未だ彼女の光に魅せられてしまっていることを自覚せずにはいられなかったが
(そうだ。これで良いんだ)
そう自分に言い聞かせつつも、表情には一抹の不安が宿っていたのだろう。いや、一抹どころではない。不安の群れにタコ殴りにされている気分だった。それを悟ってのことか、佐山は俺に微笑んだ。
「大丈夫よ。司くんは私が守るから」
まただ、彼女の微笑は、" 慈愛に満ちた " というより
" 妖艶な "と言った方が正しい気がした。
それでも誰かにすがりたくて、また佐山の前で泣いてしまった。 今度は涙は出なかった。
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しばらくして、俺が落ち着いて来ると話を切り出したのは佐山だった。
「ところで司くん。今後どうするか、決めてあるのかしら?」
「今後って?」
今後といってもいろいろあるだろう。
「生活する場所よ、退院してもマスコミや司くんのことを狙う連中が張り込んでて家には帰れそうにないわよ」
そうか、しかしこれも後先考えず、衝動的に行動してしまった俺の自業自得だ。自分でなんとかしなくては。しかし、こればかりは早急になんとかしなければいけない。いつまでも病室にいては、病院に迷惑だ。
俺が足りない頭を悩ませているとまた、佐山は俺に微笑み、言った。
「もしよかったらだけれど、私の家に来ない?」
それは、" 天使の施し " と言うより、" 悪魔の囁き " に聞こえた。
処女作なのですが、ジャンル別日間ランキング9位って・・・・・お恥ずかしい限りです。
人気に実力が追いついていない今日この頃ですが、どうか温かい目で見守っていただけると幸いです。
明日は卒業式ですが、「止まるんじゃねぇぞ」なんて僕には言えそうにありません。笑