7話 泥沼
この話は、高橋 光結 視点です。
また、テレビの音声を< >で表示しています。
ご了承の程よろしくお願いします。
一生人を生き返らせる、一見それは名誉な人生なのかも知れない。けど、その人生は交通事故で死ぬ人生なんかより、よほど残酷なのではないか、一人また一人と生き返らせるたび、ひとつまたひとつと、命の定義を穢してゆく。自分の中のなにかが一つまた一つと壊れてゆく。
「そんなのって!」
「落ち着いて。大丈夫よ、そんなことお母さんがさせないわ」
取り乱してしまった私を佐山さんがなだめてくれた。
佐山さんはキツいイメージがあるけど、なんやかんや優しい人なんだと思う。気を取り直してテレビを見ると佐山さんの言う通り負けじと切り返す所だった。
<日本には、権益の発生する異能を保持している人を国家権力の濫用による搾取から守る法律、特定異能保持者保護法があります。そのような考えがまかり通るとでも?>
<そんなことを言っている余裕は今の日本には無いのですよ。今や、中国は物質転移で流通を支配し、アメリカは小規模ブラックホールで軍事を支配している。日本は国際的に有利な異能が無いせいで不況に苦しんでいるのです。お偉いさんのアンタにはわからんでしょうなぁ、日本国民の不満はもはや、法律や倫理観で縛れる範疇を超え始めているのですよ。>
確かにお父さんやお母さんも私のアイドルとしての稼ぎが無ければ生活できないって言っていた。ツッカーが異能がないなんて、くだらない理由でいじめられていたのもその不満の現れなのかもしれない。
「うそ、お母さん!」
佐山さんのお母さんは黙り込んでしまった。シャッターの音がより一層激しくなる。
<これ以上こんな議論をしても無駄でしょう。次の質問お願いします。>
<なんだと!?>
a新聞の記者は怒りをあらわにし、佐山さんのお母さんに殴りかかろうとしたところを警備員に押さえられた。今回は記者が暴力的だったことでなんとか難を逃れたようだ。
<S文集です>
「最悪!なんでこのタイミングで!」
<重命 司さんの能力は間違い無くGRADE 4相当であると存じますが、異能の判定は幾つになるんでしょうか?>
「来たわねこの質問、でも今回の記者会見、この質問を答えるためにしたようなものだから。今度こそ頼むわよ」
佐山さんの話を聞き、わたしも自然と体が強張るのを感じた。
<そのことですが、私は今回 重命 司をGRADE5にするよう国連に申請しようと思います。>
その瞬間、先ほどの感嘆の声とは対照的に
<ふざけんな> <"今回も" だろ> <何回目だよ> などとヤジが飛ぶ。
「なんで?GRADE 5ってGRADE4より凄いってことでしょ!」
「あなた何にも知らないのね。GRADE5って言うのは組織の名前でもあるのよ、異能が出現してから異能者を巡って国同士が争うのを防ぐため、国連が、世界の理を改変してしまうような異能者を集めてその異能を世界平和に活かすって言う組織なの。本来、異能行使権は個人、一部国が持ってるけどこの組織に所属すると権利が国のものではなく公的なものになるわ。つまり、世界を敵に回すことになるから迂闊に手が出せなくなるってわけ」
「ツッカーが襲われなくなるってことでしょ。いいことじゃん!なんでみんな反対するの?」
「問題なのは、各国の自己申告制ってこと
アメリカはアメリカファーストとかいって申請しなくなったし中国なんて1回もしたことないわ。だから中国は異能規格拡大装置に物質転移の異能者を死ぬまで繋げて世界中の物の運搬を担っているし、アメリカは小規模ブラッホールをうみだす異能者を外交官にして他国を脅しまくってるわよ」
「そして日本は司くんで3回目よ。国際批判を恐れて全部申請しているわ」
「つまり2回もチャンスを棒に振ったのだから今度は申請するなってこと?」
「そう言うこと。よくわかってきたじゃない」
「でも、だからって一人が犠牲になるなんて」
「あなたも私も食べていけるからそう言えるのかもしれないわね。でも、明日のご飯も危うい人たちからしたらどうかしら?正義って余裕あるから振りかざせるものよ」
「・・・」
私は最初の勢いは何処へやらすっかり意気消沈してしまった。最初はツッカーを虐げようとする彼らを悪だと思っていたけど、私たちが肉や魚を喰らうように、彼らも生きるためにツッカーを喰らおうとしているだけなのかもしれない。
記者会見はその後、同じような質問に対して佐山さんのお母さんが、<これは決定事項です>と突っぱねる形を繰り返して終わった。だが、あの場の誰一人納得するどころか、ひどく憎悪を増幅させていたように見えたのは私だけなのだろうか。
しばしの沈黙のあと佐山さんが私に問いかけた。
「さぁ高橋 光結さん、あなたの答えを知りたいのだけど?」
「こっ答えって?・・・・」
私はすっかり狼狽してしまって、おどおどしてしまっている。
「決まってるじゃない。司くんに命を与えられた者として、司くんの幼馴染みとして、そして私のライバルとして、司くんを支えて行く覚悟があなたにはあるのか、よ」
「そんなの・・・・」
そんなのわからない。私にだってわからない。この問題は難しすぎる。底無し沼のようだ。考えれば考えれるほどわからない。私は佐山さんみたいに頭が良くない。佐山さんに分からないことが私にわかるはずない。何が正しいかなんて、私は決めたくない。
・・・・・・・もう考えたくない。
「ツッカーが、こんな風になるなら、私は生き返らせて欲しくなかった!! そもそもツッカーが勝手に生き返らせたんじゃない! 無駄よ!!余計なお世話よ!」
私は言ってしまったと後悔しつつも止まれなかった。最後に自分の心から一部を抉り取るように、言葉を紡いだ。
「重いよ・・・・」
「あなたね!!言っていいことと・・・・・・」
佐山さんが私の頬を叩こうとした時だった。
「・・・そ、うだよな。重いよな。ごめんな。光結」
「つ、つ、ツッカー!?」
あれほど聞きたいと冀求した声は、私に絶望の二文字を叩きつけた。
国公立大学の入試から帰ったら、僥倖にも、日間恋愛現実世界のランキングに入ってて驚きました。
これもひとえに読者の皆様のおかげです。
今後ともご愛読のほどよろしくお願いします。
(今日大学と自動車免許教習所、間違えたからその分の運が回ってきたのかなw)