6話 舌戦
この話は、高橋 光結 視点です
また、テレビからの音声を< >で表示しています。
ご了承のほどよろしくお願いします。
世間に疎い私でも記者会見の内容に私とツッカーの名前が出たと言うことで、今から始まる質疑応答は、私とツッカー特にツッカーの未来を左右するということを直感的に理解した。
<それでは質疑応答の前に私から今回のことの経緯についてご説明させていただきます。皆さんご存知の方も多いと思いますが、先日死去したはずの高橋 光結様ですが、現在都内某病院において生存が確認されております。これにつきましてはーー>
(どうしてもうそんな情報が、回ってるの?!)
「どうして?って顔してるわね。そりゃそうでしょ人一人生き返ってこうならないと思う?ましてや生き返ったのは国民的アイドル、あなたの通夜、心無い記者が張り込んでたらしいわよ」
不味いこれは非常に不味い、私でもわかる、ツッカーの人生を捨てると言う意味が薄々わかって来た私はより正確に事態を把握し無ければ不味いと思い、分からないことを恥を忍んで佐山さんに質問することにした。
「あの、佐山さん。異能管理局ってその・・・・」
「はぁ?あなた政治経済の授業ちゃんと受けてるの?
て言うか一般常識でしょ?」
アイドル活動をしているせいだ。けど今は言い訳をする場じゃない。佐山さんに呆れられてしまったけど、それでも私は知らなきゃいけない。佐山さんの目をジッと見つめ誠意を伝えようと努めた。
「はぁ、もうわかったわよ。異能管理は元々、行政の管轄だったけど、5年前内閣が異能者の戦闘部隊を秘密裏に編成していたことが、リークされて以来、行政権から独立した組織が異能管理局よ。" 三権分立から四権分立へ " ってやったでしょ」
「そうだっけ? あっ質疑応答はじまる!」
こんなに記者会見を食い入る様に見るのは、はじめての事なので、少し興奮してしまった。
<A社です。今ご説明いただいた内容から察するに、その重命 司さんには、人を生き返らせる異能があると言う事でよろしいのでしょうか?>
佐山さんのお母さんが返答する。
<ええ、ただ正確に言うと彼の異能は、命があったもの全てが蘇生対象です>
その後、会場はどよめき、記者たちは「おー」と口々に感嘆の声を漏らした。
<B社です。死体の状態など条件はあるのでしょうか?また、そもそも死体は必要なのですか、もし必要でないなら絶滅した動物や細菌、歴史上の偉人の蘇生も可能なのでしょうか?>
<わかりません。彼の異能行使例は極端に少ないので詳しいことはわかっていません。>
<C新聞です。生き返ったのは本当に生前の彼女なんですか?記憶がないとか、別人だとか生殖機能を失っているとか。ね、ゾンビみたいな>
(なんだこの人、感じ悪いなぁ、ツッカーはしっかり蘇らせてくれたよ!)
根拠はないけど、私は確実に私であると言う確固たる自信があった。
<ええ、間違いありません。完全蘇生です。その様な事実は認められておりませんし、しっかりとした医学的根拠に基づいて検査済みです。骨などは特に顕著で再生したと言うより元に戻ったと表現した方が正しいでしょう>
自信の籠もった宣言に会場は再び沸いた。
「ここまでは、想定通りの質問ね、あなたC新聞の記者に腹を立てていたようだけれど、こんなの序の口よ。そろそろa新聞 、S文集あたりが際どいのを仕掛けてくるでしょうね」
佐山さんに際どいとは、具体的にどういうことなのか聞いてみたかったけど、すぐに次の質疑応答が始まってしまった。いや、本当は聞くのが怖くなっただけかも知れない。
<G社です。なぜこのような特異かつ生産性の高い異能の存在を秘匿していたのですか?>
<法律上の問題や倫理問題などが生じるからですが、あえて言わせいただくとこうなるのが嫌だったからです。>
<a新聞です。>
「来たわね。・・・・・頼むわよ、お母さん」
佐山さんの呟きは、実の母親に向けて送る言葉にしては余りにも悲痛であるように感じた。
<重命 司さんの今後についてですが、どのようになされるおつもりなのでしょうか?やはり、これだけ稀有な異能をお持ちなら然るべき施設にて保護して頂いた方が異能の研究も進みますし、本人の異能の行使しやすい環境を整えることもできますのでよろしいかと思いますが?>
<いいえ、今のところその様な予定はありません。今まで通り学校に通っていただくつもりです。>
<何故ですか!?つい最近ロシアで未来予知の異能者が異能犯罪シンジケートに誘拐されたばかりだと言うのに!それでは、重命さんが余りにもかわいそうだ>
「え、?佐山さん、?この質問のどこが・・・・」
<a新聞さん。互いに含みを持たせる言い回しはなしにしましょう。つまりあなたは、司くんを監禁して一生生物を蘇生する機械として扱いたいということですね?>
「え?・・・・・そんなの可笑しいわよね!佐山さん
この人何言ってるのかしら」
「いいえ、残念ながらそういう思想を持ってる人がいる事は事実よ。しかも少数意見とは言えないくらいそういう人が居るのが現状ね。」
a新聞の記者はしばらく黙り込み会場はシャッターの音が響くのみだったが、記者は高笑いし、その沈黙を破った。
<ははっ、まさかそう来るとは、ええ、そうですね。彼には人体蘇生マシーンになって貰いたいものです。死者蘇生産業その経済効果は計り知れない!この長期にわたる日本の異能不況は終わりを迎えようとしているのです!>
私は今日初めて、世間と "血の気が引く "と言う状態の意味を知った。