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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第五章 戦士の精髄

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魔女王の褒美「魔術異界(疑似異界)」について

かなり小難しい魔導師同士の対話となってます。

精霊は自然界との調和ができる人には親和性がある、くらいに考えてもいいでしょう。

 かなり長い間、無意識領域の探索をし続けていると──体の方に呼びかける者が居るのに気づいた。

 魔術の門を閉じて目を開けると、目の前にある池の中から水の精霊が姿を見せていた。

 思った通り──三宝飾の指輪を通じ、精霊界との経路パスを開いていた事で魔女王ディナカペラに、こちらが呼びかけているのが伝わったようだ。


『久し振りねレギ。それで、いったいどうして私を捜していたのかしら? なにか困った事でも?』

 曖昧に頷きながら、俺は紫色の結晶を差し出す。

「これは魔女アーシェンが遺した物だ。あんたに渡してくれと頼まれた」

 すると、水の精霊がかすかに揺らいだ。

『アーシェン……そう、彼女の行方が分からなかったのは、結界に隠されていたからだったのね。そんな真似をするのは──レファルタ教? それとも魔神の仕業かしら?』

 水の精霊を使役するディナカペラの怒りが見えた気がした。察するに、配下の魔女の行方が分からなくなった事を気にかけて探していた様子だ。


「俺もこの結晶から彼女の記憶を見させてもらった。レファルタ教が彼女を化け物に変えたらしい。それも、邪神の力を使って」

 おそらくは邪神の手下かなにかを討伐した時に、邪神の力を行使する方法を見出だしたのだろう。それを使って今回の事件を企んだ奴が居たのだ。


 あれほど巨大な組織だ。布教活動を担う立場にある者が部下を使って仕組んだのではないだろうか。──さらに言えば、シン領内に教会を建てた奴らにはなにも知らせず、化け物が出現した時には率先して討伐に向かい、教会の威信を広めるよう行動するように、とでも言い含めていたのだろう。


『ああ、哀れなアーシェン。ツェルエルヴァール厶の加護を受ける為に、私の元まで来るよう行動を始めた事が、こんな結末を迎えるなんて……』

 水の精霊は紫の結晶を受け取ると、それを手の中に沈めた。

 アーシェンは今までディナカペラの守護によって間接的に、魔神の加護を与えられた魔女だったらしい。その加護を完全な物にする為に直接、魔神の元へ向かおうとしていたところだったようだ。


「……それと、遺灰を集めておいた」

 魔女はそれぞれの儀礼によって、遺体の処理方法が異なるらしい。魔女にも色々な派閥があるから、どれがどういった弔いをするのかまでは知らないが。

 水の精霊は皮の袋を差し出す俺に一礼する。

『あなたに感謝を、レギスヴァーティ。不幸な死を迎えたアーシェンではあるけれど、彼女の魂に救いを与える為に、彼女の遺灰を預かりましょう』

 遺灰を池の中に入れるよう言うので、俺は皮袋の中身を池の中に流し込む。

 灰は水の中に消え去り、それを水の精霊が取り込んでいるように見えた。

 水の精霊は池の上に浮かんだまま、黙祷もくとうするみたいに動かなくなった。魔女王と呼ばれた彼女の感情をそこから読みとる事はできない。




 アーシェンは影の魔術をも操る、才能のある魔女ではあったが、ディナカペラと接触し、ツェルエルヴァール厶の庇護を受ける魔女になったのは──ほんの数年前だったという。

『私がツェルエルヴァール厶の力を使って魔女に与える庇護の力では、充分に彼女の役には立てなかった。それが残念でなりません』

 封印されていた魔神の力がどのようにして働きかけるのか、それは分からないが、それよりもレファルタ教の秩序団──魔狩りと呼ばれる連中──の方が()()()()で、執着心が強かったという事だろう。

 ()()()()()()()()()るあまりに、()()()()()()()()のが、程度の低い人間が決まってやり出す手法だ。


「彼女は不運だった、そして力がなかった。そういう事だろう」

 俺はそう切り捨てた。

 戦うにしても逃げるにしても、上手くやらねば殺されてしまう状況というのは、()()()()()()()()()。どう足掻あがいても勝てない状況というのはあるが、それを前にしても生き残るすべを見出だせなければ、死ぬのは己なのだ。他の誰でもない。


 運がなかった、力がなかった、覚悟がなかった、武器がなかった。

 言い訳をしたければすればいい。

 だが、自分が殺されるという結果が訪れれば、そんな言い訳は意味を成さない。

 死とは理不尽に個人に降りかかる災厄だ。

 死の天秤を前に祈るのは愚か者。

 天秤の傾きをひっくり返してでも生き残る。

 それこそが魔術の、魔導の本懐だ。自己の徹底した管理と保存、己の運命すら自身の意志で決定づける。魂と肉体の滅びすらも否定する力、それらを追求し求める意志。


 死の回避だけがすべてではないが。

 何故なら魔術師の中には、自らの知りたい事柄の答えを得る為に、自らの命を消費する者も居たのだから。

 それら「目的」はその当人が設定し、求め続けるものなのだ。

 魔女アーシェンが道半ばで倒れたのは、過酷で不条理な現実に打ち勝つ事ができなかった、ただそれだけ。

 彼女の不幸なところは、その運命に逆らう力がなかった事だ。


『<魔術の(おきて)>か。まあ……魔術師にしろ、魔女にしろ──その道を志すからには、その道ならではの不幸を受け入れる覚悟は必要ですからね』

 ディナカペラの言った『魔術の掟』とは──随分ずいぶんと古くからある魔術書だ。

 魔術師になる心得なども書かれたその本の著者は、誰であるかも分かっていないが──おそらく裕福で、学識のある人物だったであろう。


 こうした魔術書に限った事ではないが、魔術書と銘打った書物の大半は、内容的に大した価値のない──時には無価値どころか、まったく誤った内容を真実として書いている──物もあり、注意が必要だ。

 生半可な魔術師気取りが書いた書物など有害なだけで、そうした書物を読む事は魔術師にとっては、散財と時間の無駄以上の愚かな作業になるだろう。


 その点『魔術の掟』は、貴族の手慰みにしては奥行きの深い、魔術の基礎的な知識と力の行使について書かれている書物だ。

 魔術師を志す者が一度は耳にし、あるいは目を通す価値のある一冊だと言える。


「邪神の妖卵とはどういった物か知っているか?」

 その言葉に水の精霊は手をさっと振って、汚らしい汚れを弾くみたいな動作をする。

『それは呪術の一つよ。邪神の力を使って人を異形の存在に作り替える邪法。レファルタ教の中に、そうした邪法を扱う者が存在しているのでしょうね、本当にふざけた連中よ』

 そう呟くと彼女は『奴らに破滅の風の呪いあれ』と、怒りに満ちた声色で呪いの言葉を口にする。


 破滅の風──魔神ディス=タシュの事だろうか? 彼女がツェルエルヴァール厶以外の上位存在を当てにしてまで呪いを口にするとは、彼女の怒り以上に、魔神ディス=タシュの力に対し畏怖いふを覚えた。そこまで強大な力を持つ上位存在だと認めているのだろう。


 魔神についても邪神についても、まだまだ分からない事ばかりだ。上位存在については憶測以上の事が書かれた文献などは、ほとんど見当たらない。

 ある魔導師が残した手記に「契約した魔神」について書かれた物が発見された、などという場合もあるが、多くは秘匿されているはずだ。魔神と契約しているなどと知られれば、レファルタ教に見つかるまでもなく、危険な魔神崇拝者として捕らえられ、死を宣告されるだろう。

 多くの人々はその無知によって、邪悪な魔神の所為せいで田畑が荒れたり、病魔が蔓延すると思っているのだろう。




『ツェルエルヴァール厶があなたに、アーシェンの事で迷惑をかけた謝礼をするように言っているわ。なにか希望はある?』

 しばらく沈黙した水の精霊が口にする。

『お金でも宝石でも、なんでもいいわ。言ってみて』と、俺の応えを催促するディナカペラ。

 俺は少し考えてみたが──以前に思いついた、彼女の使う技術について伝授して貰おうと思い至った。


「それなら──影の中から出す使い魔について教えてくれないか」

 俺も使役獣を使いたいんだが、そう応えると水の精霊を通じて魔女が、呆れたみたいな仕草をする。

『てっきり水の精霊を使役する方法を聞いてくるかと思ったら、そっちだったか』

 水の精霊の使役については一応、知識はある。だが、それを使役する精霊との契約には──緻密な秘術を駆使し、精霊界とのやり取りがあるはずだ。──さすがに今の俺ではそうした細かな術をおこない、精霊界との交信をするのは無理だ。

 ──例外的に魔術の才能は低くても、才能を持ち合わせた者がいとも簡単に精霊界との経路パスを繋げたのを学生の頃に見た。精霊と通じ合う適性とは、生まれ持っての資質が関係していると教師が言っていた。

 仮にディナカペラの援助を受けて精霊との契約を得たとしても、自在に別の場所に精霊を送り込み、己の意識を通じさせるなど、そんな高度な真似は不可能に近い。


「俺の技量では、まだまだ精霊契約など不可能だとわきまえている。俺が精霊を使役したとしても、戦いに使うくらいしか命令できないだろうな」

 まあ確かにと、ディナカペラも納得している。

 戦闘に精霊を使うなら、それなりの触媒を利用して精霊を召喚し、一時的に使役するやり方の方が格段に簡単だ。


 こうした技術は「エインシュナーク魔導技術学校」でも教わった──が、実際に精霊を召喚できた者は、その学年でも英雄的扱いを受けるほど希な存在だった。俺も精霊の召喚は学生時代に成功した事はない、そもそも精霊とは相性が悪いのだ。それはきっと多くの魔導師が経験するようなもののはず。


 魔術の中には、精霊界の禁忌タブーに抵触するものがあるというのは、昔からささやかれているのである。

 だからこそ魔女王や、一部の魔女が精霊を使役しているのは非常に珍しく、彼女らの魔術的な取り組み方には通常の魔術師にはない、独特な方法論や精神性があるのだろうと推測される。


「精霊と交信しながらも魔神でもあるというのは、改めて考えると異質だな」

 思った事を正直に口にすると、水の精霊を通して、魔女王ディナカペラは仕草のみで笑って見せる。

『そうでしょうね。まあ簡単に説明すれば、魔神となる以前から精霊との()()調()()を持っていたからよ。彼らのことわりには、抜け穴もちらほらとあるものよ』

 ……確かに一時的とはいえ、精霊を触媒をって使役し得るというのは、彼らの理法との矛盾を想起させる。精霊界の理法がどんなものか、それを完全に知る術はないが──大体このようなもの、というのは把握できる。

 そうした理解を以ってしても、彼らとの共存を果たすのは、少なくとも学生時代の俺にはできなかったのだ。


『使い魔──ああ、<冥府下り>の時にあなたの影に忍ばせたねずみの事? 小さな使役獣なら、そんなに難しいものではないわ。ただその為には精神世界から、()()()()に接続しなければ──』

「魔術異界? それはなんだ?」

 俺が尋ねると、水の精霊は動きを停止する。

『……そう、あなたはまだまだ魔術的な知識にかたよりがあるようね。──いえ、多くを独学で学ぶ魔術師には多い事ではあるけれど。<魔術異界>は別名──<()()()()>などとも呼ばれるわ』


 その言葉なら見た事がある、俺はそう応えながら──どの文献に書かれていた物だったか思い出そうと試みた。


「疑似異界は──魔術師たちが協力して作り出す、精神世界の中にあるという……訓練場のような場所の事だったか?」

『訓練場……とは限らない。私があなたに使役獣を獲得する為に教える<魔術異界>は、魔獣や霊獣が存在する、──文字通り()()()()()()()()()()()()()()よ』

 精神世界から半物質的な、魔素や魔力のある異界に向かい、そこで獣との契約をすのだと言う。


『まあ……多くの場合は、魔術師の先達せんだつから引き継いだり、一緒に精神世界に潜って行って、案内されて行く場所だからね。仮に精神世界を幅広く活動する魔術師でも、一人ではそうそう探し出せる場所ではないでしょう』

 興味深い話だ。まだ精神世界には俺の知らない多くの神秘や、隠された知識があるに違いない。

「それは是非、訪れてみたいな。使役獣の獲得も必要だが、そうした魔術師の寄り合い場には行った事がない」

 いいでしょう、と返事をするディナカペラ。


『しかし、向こうに行ったとしても、そうそう他の魔術師と接触する機会はないでしょう。私も何度も行っているけれど、知らない魔術師など会った事は一度もない』

 それに、仮に見知らぬ魔術師に精神世界で出会うとしたら、多くの場合は戦いになる可能性がある、と彼女は警告する。

 それは確かにそうだ、魔術師の多くは力で他の魔術師から、知識や物資を奪う事を平然とおこなう者が多い。魔術師とは元来、そうした戦いを精神世界で繰り広げてきたらしい。

(しかもそうした奪い合いは、顔見知りの魔術師の間で発生する事が多いのだ


 大昔から続く魔術師の組織があるという噂があり、いくつかの組織が互いににらみを利かせ、隙あらば相手の抱える秘術や知識を奪って、自らの力へと変えようと目論もくろむ訳だ。

 知性はあっても、多くの魔術師には共通する倫理観や、常識といったものが存在しない。むしろ力のない魔術師など、なんの価値もないので相手にしないくらいだ。


『それでは……そうね、ここから精神世界に導きましょうか。そこでの使役獣の獲得は、あなたの実力しだいでしょう』

魔術異界は魔導師らによって作製された「世界」魔女王が案内した魔術異界はかなり広大な世界であることからも、強大な力を持つ魔術師や魔導師が大勢で創った場所でしょう。

ここでは実は通常の魔法(レギたちがいる世界の魔法)が単純には使えなくなったりします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >強大な力を持つ魔術師や魔導師が大勢で創った場所でしょう。 維持も大変なんでしょうかね?。
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