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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第五章 戦士の精髄

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レギの兄弟と、その過去について

今回はレギの家族の話が中心。複雑な家庭というか、兄弟がクズで反面教師だった件。


たくさんの高評価とブックマークありがたいです。

感想なども頂けると嬉しいですね。肯定的な感想ほど作者にとって嬉しいものはありません。

 料理を堪能した俺たちは席に着いたままお茶のお代わりを頼み、給仕の女が戻るまでゆっくりとくつろぐ。

 シグンと俺は、その後も戦いの技について話し、いかにして強さを手に入れられるか、そういった命題について互いの意見を交換していた。

 剣闘士という闘いの中に身を置いた彼にとって、日常が闘いの中にあった訳だ。しかも子供時代からそうだったのである。意志の面でも、覚悟を持った戦士になる素養があったのだ。


「俺の生まれ育った田舎いなかではせいぜい農夫か、きこりになるくらいの生き方しか選べないような、さびれた場所だった」

 シグンの故郷とは、ここシン国の中でも荒れた土地の多い、せ地ばかりの土地柄であったみたいだ。川も森も少なく、乾燥した大地に栄養はなく、固い地面を掘り起こして、なんとか細々と作物を育てて生活していたらしい。


「国の中央からも見捨てられたような、そんな領土だった。領主は農民に重い税をかけるような愚か者ではなかったが、かと言って領民を助けるような人間でもなかった」

 彼はいち早く故郷の生活に見切りをつけ、シンの闘技場でも本格的な剣闘士を育成する街、イアジェイロまでやって来たのだ。

 彼が最近、ベグレザ国からシンに戻って来たのも、故郷に居る両親に金や食料などを届ける為だという。無骨で口数の少ない男だが、家族を想う心優しい人物でもあるらしい。


 俺から言わせれば両親を含め、家族などという者は──しょせん他人でしかない。

 血縁だからと言って無条件に受け入れられる者とは限るまい。うちの両親や兄弟は、少なくとも俺にとって、かけがえのない存在などではなかった。

「居ても居なくても問題ない」人間、──つまりは他人と大差ない連中だと感じている。


 シグンは一人っ子だったらしい、兄弟が居ないのは幸いだったかもしれない。まあ彼の家は農家であるらしいから、領地や家督かとくの事で揉める理由もなかっただろうが。




 俺には兄が二人居る。弟も居たが、弟は子供の頃に死んでしまった。

 はっきりした確証はないが、()()()()()()()()()()()()()()()と俺はにらんでいる。


 少年時代から聡明だったこの俺を、誰よりも憎んでいたであろう長男のスキアスは、いつも俺を目のかたきにしていた。この長男と次男のジウトーアは、いつもるんで悪巧わるだくみをしていた記憶しかない。

 ああ、あの愚かな兄たちを思い出すと、神という奴がいかなる者かと考えずにはいられない。あんな邪悪で出来損できそこないの被造物を生み出した親玉だ、おぞましく汚らしい人間を生み出した元締め、あらゆる悪と災いの総大将──そんな感じの奴だろう。魔神ラウヴァレアシュの言葉を借りれば、「天の災いの宗主」という事になる。


 俺の弟イスカは──血の繋がりはない、義理の弟というやつだ。俺と兄二人は、父ケルンヒルトと母エメランディアから生まれたが、イスカは父の再婚相手の連れ子だったのだ。

 二番目の母となったエンリエナは、温和おとなしく控えめな女性だった。愚兄ぐけい二人にいじめられる事もあった俺を気にかけてくれる優しい女性でもあった。──まあ、あの頃の俺は兄二人を「兄」と呼ぶ事はあっても心の中では軽蔑し、やがては「人」とすら思わなくなっていたのだが。


 とは言え俺は、それを不幸だと呪うつもりはない。生まれの不幸というものは確かにあるが、俺はその中でもマシな方だろう。──不幸なのは愚かな兄どもだ、あの愚かさのままで生き続けるなど、爬虫類と変わりがない。


 イスカと俺は歳も近かった為に、すぐに仲良くなった。義理の弟は内気で臆病ではあったが、気を許した相手には人懐っこく、まるで子犬のようだった。

 俺は兄たちとは違って、率先して字の読み書きをするようになった。本を読む為という理由もあったが、思考の範囲を広げるのに文字を、文章を覚えるのが重要だと悟ったからだ。……いま考えると、神童と言ってもいいくらいの幼少期を送っていたかもしれない。


 あの辺境にある街の中では大した事は学べなかったが、それでも希に訪れる冒険者などと交流を持ち、彼らから戦士ギルドの事や、魔法について教えて貰ったりしたものだ。

 そうした冒険者を紹介してくれたのは、親友と言って良いクーゼ・ドゥアマ。彼はエブラハ領で一番大きな街である「ブラモンド」に住み、俺の家族とも付き合いのある商家の子供だった。

 クーゼは雑貨屋と道具屋をねた店の番もする時があり、冒険者たちとも交流する機会が多かったのだ。


 そうした人脈を使って俺は冒険者らと関わる中で、親切な冒険者から魔法の基礎を教えて貰う機会も得た。

 その時だろう──俺には剣よりも、魔法や魔術などの方が自分には合っていると気づいたのは。


 領主の子供として、剣技や勉学を学ぶよう父から言われていたが……兄二人は、そうした勉学をなによりも嫌っていた。

 そのくせ中央に出て国王の姿を()()()()()、などとのたまっていたのを、呆れた気持ちで眺めていたのを覚えている。

 字の読み書きもろくにできない奴が中央(都会)に出て行って、なにをするというのだろう? せいぜい道化師ピエロになるくらいしかできはしない。それすら分からないのだ、あの愚かな兄どもには。


 自分に都合の良い考えだけを膨らませ、妄想たくましく都会への憧れを抱いている。……それがやがて()()()()()()()()()()()とも知らずに。──脳天気なものだ、あの二人を思い出すだけで気分が悪くなる。




 弟のイスカはしだいに俺を尊敬するようになっていった。イスカはまだまだ字を読み書きするのも苦手な子供だったが、俺にならって勉学に励もうとし始めたのである。


 そうした俺と血の繋がりのない弟の行動が、愚兄たちの劣等感を掘り起こしてしまったらしい。彼らは俺と弟がこのエブラハの領地を受け継ごうと画策している、とでも考えるようになっていったのだろうか。

 彼らは執拗しつように俺と弟に嫌がらせをするようになっていった。


 ある日、俺が冒険者から剣の訓練を受けていると、──イスカが行方不明になったという話を聞かされ、俺は直感的にスキアスとジウトーアの仕業だと察した。

 俺や両親や街の人々は、街中を探し回ったが──どこにも弟の姿はない。

 弟は街の外へ出ていた狩人によって発見されたのだ。

 街から少し離れた場所にある崖の下で、死亡していたのである。


 切り立ったが崖の上から足を滑らせて落下したのだろうと、大人たちは考えたようだ。

 だが臆病なイスカが街を出て、一人で森の中に出かけた事はない。なのに何故、一人で崖の上を歩いていた? ましてや弟は気弱で慎重な性格をしていた。崖に近づく事もしなかった彼が、崖から足を踏み外す訳がない。


 俺は弟の死の真相を探るべく、崖の上にある森から、崖の下まで調べ抜いた。その結果、スキアスたちの仕業ではないかという強い確信を得た。──だが、少年に過ぎなかった俺の言葉など、誰も信じはしなかっただろう。

 俺は告発する事もできずに、ただ堪えるしかなかったのだ。

 継母のエンリエナは泣き崩れたが、失われたイスカの命が戻る事はない。


 弟の死から数日後、俺はますます剣の修業や魔法の習得に励むようになった。

 このままでは俺も、愚兄たちに殺されるかもしれないと考えたのだ。

 街を守る衛兵から闘い方を教わったり、冒険者からも生きるすべについて貪欲に学んだ。──この頃の俺はまだまだ身体は小さく、腕力だって人並みくらいだったろう。

 子供の頃の三、四歳差というのは大人の時の比ではない。体格差だけでも三年の差というのは大きいものだ。──だからこそ子供の頃の俺は、剣や魔法の「技術」で身を守ろうと必死になった。


 スキアスは未だに俺が領地を奪おうとしている、と考えているのだろうか。

 愚兄たちが優れた三男坊をねたみ、その兄を尊敬していた義理の弟を殺して、のうのうと生き続けるなど──そんな馬鹿な話があるものか。

 あの腐り果てた魂が、身近な者に疑念を抱かずにいられるか? そんな訳があるまい。そのうち長男スキアス次男ジウトーアで疑い合い、猜疑心さいぎしんから相手を排除しようとするだろう。


 弟の死の真相について──俺はそのうち、はっきりとした答えを見てやろうと考えてもいる。

 今の俺にならそれが可能なのだ。

 あのクソみたいな愚兄二人と接触するのはうざったいが、会って少し話せば奴らの隠し事などすぐに見破れる。奴らの恐怖につけ込んで、隠された無意識の中にある真実を引っ張り出してやる。

 死の力を解析し続けた結果、面白い物を発見したのだ。それを使えば……


「……どうした?」

 シグンの声で思考を中断する。──クソ兄貴どもの事を考えて時間を無駄にしてしまった。


 食事に満足し、少々休憩を取ったあとで、俺とシグンは再び闘技場へと戻り、彼がベグレザに旅立つまでの小一時間を、最後の訓練に当てようと言ってくれた。

 闘技場の受付から木剣を借りると、乾いた砂の闘技場に向かう。──どういう訳かシグンは、きのう使っていた大剣型の木剣ではなく、俺と同じ長剣型の木剣を手にした。


 残りの一時いっとき(約二時間)を剣士シグンが体得した剣技を学ぶ時間にする。彼は午前中に俺が見せた闘い振りを見て、強力な剣技を見せると言ってくれた。

 魔物などを討伐する傭兵団に居た頃に学んだ技だと言う。


「魔法を使えない者でも、体内の気を扱うすべを覚え、周囲の魔素を操る事ができる」

 魔法使いならば知っているだろうが、と語るシグンに頷いて応える。

「気」を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事が可能だ。──シグンの言うように、これの利点は魔法を使用できない者も、魔法に近い攻撃が可能になる点だ。


 攻撃に魔素による攻撃効果を加える事で、通常よりも強力な攻撃を繰り出せる剣技。


 俺の持つ魔剣にも魔素を取り込み、斬撃に魔素による攻撃を加える効果がある。このお陰で霊体の存在にも効果のある攻撃が可能になっている。──その上この魔剣には、霊体から得られる力を奪う、特殊な力が備わっているのだ──通常の状態ではそれほど威力が高いとは言えないが剣技を使えば、その威力はさらに高まるだろう。


「『攻魔斬』などと呼ばれる技だ。この基本形を元にして様々な攻撃に変化させる。──その中でも、魔素を爆発させる使い方をする事で、剣圧から衝撃波を放つ剣技もある 攻魔斬については習得済みだ、そう語るとシグンは大きく頷き「ならば魔素を爆発させる『業魔斬』を見せよう」と言って、木剣ではなく背負った大剣を構える。

 闘技場には幸い人は居ない。


 彼は剣を握り、体内に流れる気を反転させて、陰の気を腕に集める。──それは危険な行為でもある。陰気は生物にとっては死に通ずる物でもあるからだ。

 それに引き寄せられる形で剣に魔素をまとわせると、大剣を振り上げながら体内に気を流し、腕には陰の気を、体の中心からは陽の気を力強く放ち出す。

 攻撃への集中をおこない、魔素による斬撃で空を切り裂く。剣先から重く、風を呑み込むみたいな音がした。


 俺には彼の振るった大剣から放たれた魔素が爆散し、飛散する様子が見て取れた。その剣技を使うシグンを、魔眼を使ってしっかりと脳裏のうりに焼き付ける。


 彼の中で沸き上がる陽の気が、剣に集められた魔素に向かって勢い良く流れ込む。剣を振り下ろすと同時に、その陰の気と魔素の混合体に陽の気をぶつけ、爆発力へと変化させるのが見えた。

 陰気と魔素に陽気をほとばしらせ、()()()()()()()()て、それを敵に爆発力として撃ち出す剣技だとシグンに言うと、彼は「その通りだ」と答える。


 確かに陽気と陰気がぶつかり合うと、互いに反発し合うが、それだけでは攻撃には使えない物だ。

 ……ところが魔素を加える事で、陰気と魔素が半物質化し、物体にも霊体にも通用する威力を持たせる事ができるのだ。こうした剣技があるとは聞いていたが、一部の優れた剣士などしか使えない技だろう。

 体内で二種類の気を制御し、それを剣圧と共に撃ち出すのだから、よほど正確な気の制御をしなければ不発に終わるだろう。習熟には相当の鍛練を必要とするはずである。


「さすがだな、一回の動作で業魔斬の技法を完璧に読み切るとは」

 シグンはそう言いながら大剣を鞘に戻し、木剣を手にする。

「業魔斬は魔物などには特に有効だ。多くの場合、奴ら魔物からは魔素が溢れ出ている所為せいで、剣に集まってくる魔素の量も必然的に多くなるからな」

 なるほど、と納得しながら俺も木剣を握り、「なんで大剣型の物を使わないんだ?」と尋ねていた。


「大剣は魔物と戦う為に選んだ武器だからだ。傭兵になったばかりの頃や剣闘士時代は、長剣を使って闘っていた」

 彼はそう口にしながら片手で素早く二度、木剣を振るう。風を切り裂く音が闘技場に広がり、それが観客の歓声を呼び起こすような──幻聴を耳にした気がした。


「さて、それでは最後に、剣闘士の闘い振りを披露ひろうしようか」

 シグンは木剣を構えると、午前中とはまた違った気迫を身にまとい、俺の前に立ちはだかるのだった。

彼の中で沸き上がる陽の気が~ 以降の文章の一部を変更(削除、書き足し)しました。

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